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第5話:劇的・神域のビフォーアフター(恋心は高圧で結晶する)

 ダイヤモンド錬金術のおかげで、地下倉庫の生活は劇的に改善されつつあった。  勇は今、セレナが買ってきた「超高密度合金のインゴット」を、素手で粘土のように捏ねていた。


「……勇、次はそっちの端を少し丸めて。私がリミッターを右肩に寄せるから、今のうちに!」 「おう、分かった。……これ、椅子の脚か?」 「そう。貴方が座っても一生折れない、対勇者専用の『不動の玉座』よ。デザインは私が考えたんだから、かっこよく仕上げなさいよね」


 勇は、セレナに後ろから首に腕を回され、耳元で指示を受けながら作業を続ける。  以前なら、この密着に緊張するばかりだったが、最近は「セレナがどこに重心を置けば自分が自由に動けるか」が、肌の感覚で分かるようになっていた。


(……こいつも、意外と必死なんだよな)


 勇は、自分の肩に乗ったセレナの顎の重みを感じながら、ふと思った。  当初は「管理責任」だの「神罰」だのと言っていた彼女だが、今の彼女は、自分のために少しでも快適な家具を、少しでも頑丈な寝床を作ろうと、寝る間も惜しんで設計図を引いている。


「ねぇ、勇。どうしたの? 手が止まってるわよ」 「いや……お前、よくやるなと思って。こんな動けない俺の世話を毎日。もっと楽な管理方法もあったんだろ?」


 勇が何気なく問いかけると、セレナの身体がぴくりと強張った。  彼女は少し黙った後、勇の肩に顔を埋めるようにして、小さく呟いた。


「……バカね。楽な方法なんて、貴方をこの世界から消去デリートするくらいしかないわよ。でも……私、貴方のこと『平均的でつまらない人』だなんて、もう思ってないから」


「え?」


「最初は、ただのミスだと思ってた。でもね、貴方、こんなに不自由なのに、一度も私を責めないじゃない。それどころか、私が寝落ちした時は、自分が動くと危ないからって、何時間も同じ姿勢で私を支えてくれてるでしょ?」


 セレナの声が、いつもより少し低く、熱を帯びている。  勇の背中に押し当てられた彼女の心臓が、リミッターの拍動とは違うリズムで、トクン、トクンと速くなっていくのが伝わってきた。


「……保護対象だから、優しくしてるわけじゃないわ。……勇、貴方はその……意外と、いい男よ。重いのは身体だけにしてよね」


 最後は誤魔化すように冗談っぽく笑ったが、勇の首筋に触れる彼女の指先は微かに震えていた。  勇もまた、言葉にできない感情を飲み込み、手元の合金を力強く握った。二人の間の空気が、ダイヤモンドが生まれる時のような、静かで、強烈な密度に変わっていく。


「……よし、椅子は完成だ。次は……例の『神輿』の設計か?」


「え、ええ、そうよ! 本番はここからなんだから! 貴方がこの地下を出て、私の隣で堂々と歩くための、世界最高の『乗り物』を作るわよ。……その代わり、乗り物の上でも、絶対私から離れちゃダメなんだからね?」


 照れ隠しに勇の頬を指で突くセレナ。  それは、管理女神が勇者に下した、事実上の「独占宣言」のようなものだった。

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