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第30話:重力の王、龍を従える(あるいは、伝説の舎弟誕生)

 勇の放った「一万倍の質量」を宿した拳は、伝説の岩晶竜の巨体を大陸の端まで吹き飛ばした。  空を裂く轟音。だが、勇は追撃の手を休めなかった。ここで引けば、自分たちの安住の地が奪われると直感したからだ。


「ヒルダ、リネット! 竜の動きを止めろ! セレナ、足元の地盤を補強してくれ!」


「応ッ! 師匠の勝利を盤石なものに! ――秘剣・岩断ち!」 「……風の檻に閉じ込めてあげる。逃がさないわよ、古のトカゲさん」


 ヒルダの放つ剛剣が竜の翼を叩き、リネットの巻き起こす真空の嵐が竜の退路を断つ。そしてセレナが勇の周囲に何重もの幾何学的な神聖魔法陣を展開し、勇が全力を出しても大陸が崩壊しないよう「絶対固定」のフィールドを作り上げた。


「……これで、全力が出せる。悪いな、手加減はできないんだ!」


 勇が再び大地を蹴る。中和クリスタルの光を浴びながら、勇の身体は流星のような速度で竜の眼前に迫った。  岩晶竜は、迫りくる「人間の形をした天体」に、初めて死の恐怖を感じていた。


『待て! 待たぬか! 貴様のような存在に、本気で殴られたら我の存在理由レゾンデートルが消滅してしまうわ!!』


 勇の拳が、竜の鼻先数センチで止まった。  凄まじい風圧だけで、背後の森がボウリングのピンのようになぎ倒される。


「……分かればいい。俺たちはここで、静かに『平均的』に暮らしたいだけなんだ。邪魔をするなら、この大陸ごと俺が背負って、世界の果てまで投げてやるぞ」


 勇の静かな、しかし重厚な脅し(本気)に、岩晶竜は全ての戦意を喪失した。  竜はスルスルとその巨体を縮小させ、広場に跪くように頭を垂れた。


『……完敗だ。数千年、この大陸の主として君臨してきたが……これほどまでに「重き」魂に出会ったのは初めてよ。貴殿こそ、新たなるエリュシオンの王に相応しい』


「いや、王様にはなりたくない。俺はただの住人で――」


『いいえ、閣下! 否、親分おやびん! 命を救っていただいた御恩、この岩晶竜、今後は貴殿の忠実なしもべとして仕えさせていただきます!』


「……おやびん?」


 セレナが呆れたように杖を下ろした。 「……ちょっと、伝説の守護竜が何キャラ変してるのよ。プライドはないの?」


「師匠! 流石であります! 竜をも舎弟に下すとは、まさに王の器! さあ、遠慮なくこいつをパシリに使いましょう!」


「……まぁ、悪い話じゃないわね。勇が重すぎて困った時、この竜に支えてもらえばいいんだもの」


 リネットが楽しそうに竜の角に座る。  こうして、浮遊大陸の守護竜は、勇の「便利なお世話係兼、非常用重機」として一行に加わることになった。


「……なぁ、竜。お前、肩揉みとかできるのか?」


『もちろんです、親分! この硬質の爪、絶妙な力加減で貴殿の重厚な肩をほぐしてみせましょう! ……お、重いっ! さすが親分、肩のコリまで一万倍の重みがある……っ!』


 竜を肩揉みに使い、三人の美女に囲まれながら、勇は改めて新拠点の空を見上げた。  「平均的」からはますます遠ざかっている気がするが、これほどまでに賑やかで、そして「揺るぎない」日常も悪くないと、彼は少しだけ誇らしく思うのだった。

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