第29話:聖域の目覚め、あるいは眠れる守護者
勇の周囲で狂い咲く花々は、単なる異常成長ではなかった。 彼の持つ圧倒的な質量――それはこの世界において、かつての神々や大英雄さえも凌駕する「存在の力」として、大陸の奥深くに眠る「何か」を呼び覚ましてしまったのだ。
「……勇、少し離れて。地脈の鼓動が、今までと違うわ」
セレナが鋭い表情で、足元の地面に耳を当てた。 勇がいつも座っている中心広場の地下から、重厚な、それでいて神聖な鐘の音のような振動が伝わってくる。
「これは……魔物の咆哮ではありません。もっと古く、巨大な意思を感じますぞ!」
ヒルダが愛剣の柄に手をかけ、勇を背中に庇うように立つ。
「……風が、泣いてる。この大陸を数千年も守ってきた『主』が、勇の重さに呼応して目を覚まそうとしているわ」
リネットが上空を見上げる。雲を突き抜けるほど巨大な影が、大陸の底部からゆっくりと浮上してきた。 それは、古のエルフたちが崇めたという**「岩晶竜」**。大陸の浮力を維持し、聖域を乱す者を排除する伝説の守護獣だった。
『――何人ぞ。我が静止した時に、これほどの「重圧」を刻みし者は』
空気を震わせる思念波。岩晶竜はその巨体を現し、広場に立つ勇たちを見下ろした。 その眼光が勇に注がれた瞬間、竜は驚愕に身を震わせた。
『馬鹿な……。その体躯、その貌で、一国の山河にも勝る質量を宿しておると言うのか。貴様、何者だ? 神の化身か、あるいは世界を押し潰す災厄か?』
「……ただの、平均的な日本人です」
勇が困り顔で答えるが、竜にとっては冗談にしか聞こえない。 岩晶竜は、勇の存在が大陸の浮力バランスを根底から覆しかねないと判断し、その巨大な爪を振り上げた。
『分不相応な重さを持ちし者よ。聖域の均衡のため、その身を虚空へ還してくれる!』
「させるか! 勇に指一本触れさせないわよ!」
セレナが展開した神聖障壁が竜の爪を弾く。 だが、守護竜の力は強大だ。衝撃で大陸が大きく揺らぎ、浮力中和の術式が一瞬だけ乱れた。
「……っ、勇! 中和が切れるわ! 自分の重さで地面を突き破らないよう、踏ん張って!」
勇は即座に理解した。ここで自分が「ただの人間」として振る舞えば、大陸に穴を開けてしまう。 彼はあえて、自らの意思でリミッターを制御し、右拳に「一万倍の質量」を集中させた。
「……悪いけど、ここを追い出されるわけにはいかないんだ。俺たちは、ようやく『家』を見つけたんだから!」
勇が踏み込んだ一歩は、浮遊大陸の岩盤を粉砕するのではなく、その圧倒的な密度で**「空間そのものを固定」**した。 そして放たれた、平均的なまっすぐな突き。
――ドォォォォォォン!!
衝撃波ではない。勇の拳が持つ「質量」が竜の硬い鱗に触れた瞬間、岩晶竜の巨体が、まるでピンボールのように遥か後方へと弾き飛ばされた。
『ぐ、がっ……!? なんという……「重い」一撃……!』
王道の剣と魔法の世界においても、勇の「質量」はもはや物理法則を超えた究極の武器だった。 吹き飛んだ守護竜を追いかけるように、ヒルダとリネットが追撃の構えをとる。
新生活の平穏を守るため、勇と三人の仲間たちは、伝説の守護者との「新拠点防衛戦」に挑むことになる




