第25話:浮遊大陸の重心(あるいは、住まいは貴方の隣)
ドォォォォォン!!
地鳴りのような轟音と共に、勇たちを乗せた「人間弾丸」は、ついに浮遊大陸エリュシオンの縁に着地した。 着地と同時に、大陸全体が「ミシミシ……」と不穏な音を立てて、わずかに傾いた。
「な、なんだ!? 大陸が揺れてる!?」
セレナが慌てて周囲を見回す。 確かに、勇が降り立った場所を中心に、巨大な大陸がシーソーのように傾きかけているのだ。
「……まさか。浮遊大陸の浮力バランスが、俺の質量で崩れたのか?」
勇は絶句した。 ここは「重力から解放された地」のはず。だが、1万4400倍の質量を持つ彼の存在は、その「解放されたバランス」すらも破壊してしまうらしい。
「勇、動かないで! 貴方が下手に動いたら、大陸ごとひっくり返っちゃうわよ!」
「師匠! 私が、大陸を支えます! 全力で重さを相殺するのです!」
ヒルダは叫びながら、勇の足元に手を置き、大陸の傾きを食い止めようとする。 リネットは空高く舞い上がり、大陸全体を覆う「反重力魔法陣」の乱れを感知していた。
「……ダメだ。勇の質量が一点に集中しすぎてる。この大陸は、質量を均等に分散させることで浮力を保ってるのよ! 勇、大陸の『中心』に移動して!」
「中心? どこだそれ?」
「大陸の、一番大きく反重力術式が張り巡らされてる場所よ! 貴方がそこに立てば、大陸のバランスも、貴方の重力も安定するはず!」
勇は、三人に密着されたまま、恐る恐る大陸の中心へと移動を開始した。 一歩進むたびに大陸が軋み、足元の地盤が数センチ沈むが、勇が中心に近づくにつれて、大陸の傾きは徐々に収まっていく。
そして、ついに勇が大陸の真ん中にある、巨大なクリスタルが輝く広場に足を踏み入れた時――。
――ピタリ、と。
それまで響いていた大陸の軋みや揺れが、完全に止まった。 クリスタルから放たれる膨大な反重力エネルギーが、勇の質量を完璧に包み込み、中和したのだ。
「……あれ? なんか、俺……身体がすごく軽い」
勇がそう呟くと、セレナは彼の身体からそっと手を離した。 勇は、自力で大地に立っている。それも、足元が沈むことも、地面が震えることもなく。
「やったわ、勇! ここなら、貴方が完全に自由になれる!」
「師匠! 師匠がお一人で立たれております! お一人でトイレにも行けますぞ!」
ヒルダが感動のあまり、勇に抱きつこうとして、寸前で思いとどまる。 しかし、喜びも束の間。
「……ねぇ、勇」
リネットが勇の左腕を掴み、不安そうな顔で問いかけた。
「貴方が自由になれるってことは……もう、私たちがいなくても大丈夫、ってことなの……?」
三人の視線が、勇に集中する。 彼らは勇の「重さ」に振り回されながらも、その重さこそが、自分たちを勇と繋ぎ止める「絆」だと感じていたのだ。
「……そりゃ、一人で立てるのは嬉しいけどさ」
勇は苦笑した。
「でも、俺の身体が軽いってことは、お前らが逆に『重石』になる必要がなくなったってことだろ? ……なんだ、寂しいのか?」
「「「……別にっ!」」」
三人は同時に顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。 勇は、クリスタルが輝く広場の中心に立ち、改めて周囲を見渡した。
「ここが、俺たちの新しい拠点か。……一人で立つのは、ちょっとだけ寂しいけどな」
勇がそう呟くと、三人は顔を見合わせ、再び彼の元へと駆け寄る。
「……じゃあ、私たちが『重石』じゃなくて『お隣さん』になってあげるわ! ここが私たちの家になるんだから、貴方が一人でいるわけないでしょ!」
「左様であります! 師匠のお側が、このヒルダにとっての安住の地!」
「……もう。私がいないと、また空に飛ばされちゃうかもしれないじゃない。私が、貴方の隣にいてあげるわ」
物理的な密着の必要性は薄れた。 だが、三人の「心の密着」は、これまで以上に勇を温かく包み込む。 浮遊大陸エリュシオン。ここは勇の質量を完璧に中和し、彼を自由にする場所。そして、三人の少女たちが、彼との新しい関係性を築き始める「真の拠点」となるのだった。




