第24話:積載重量オーバーの空(あるいは、人間大砲の工学)
風の回廊を抜けた一行の目の前には、雲を突き抜ける巨大な「柱」のような山々と、その遥か上空に浮かぶ島、浮遊大陸エリュシオンが広がっていた。 麓の町「ポート・スカイ」は、大陸へ向かう飛行艇の拠点として栄えているはずだが……。
「……無理ね。どの飛行艇の船長も、勇を一目見ただけで『沈没確定だ』って門前払いよ」
セレナが肩を落として戻ってきた。 勇は平均的な日本人の体系だが、彼が桟橋に足をかけるたびに、丈夫なはずの浮遊木で作られた桟橋が「バキッ」と嫌な音を立ててしなる。その「密度」は、プロの船乗りたちの直感を一瞬で恐怖に染めるのだ。
「師匠! こうなれば、町外れのジャンク屋にあった『古代の超大型カタパルト(射出機)』を使うしかありませんぞ!」
ヒルダが鼻息荒く提案する。それは、かつて巨大な建材を空へ打ち上げるために使われていた、超弩級の土木兵器だった。
「……大砲で打ち出されるのか? 俺、そんなの耐えられるかな。平均的な人間は空を飛ばないんだぞ」
「大丈夫よ、勇。貴方の強靭な肉体(密度)なら、衝撃で潰れることはないわ。問題は、貴方を打ち出すための『火薬』や『魔力』が足りるかどうかよ」
セレナが計算式を空中に描く。1万4400倍の質量を、高度五千メートルまで加速させるのに必要なエネルギー。それは、一般的な飛行艇一千隻分の燃料に相当した。
「火薬じゃ足りないわね。……でも、リネットの『風』と、私の『斥力』、そしてヒルダの『投擲力』を合わせれば、物理的に可能かもしれない」
「……本気? 私、全力で羽ばたかなきゃいけないじゃない。……まぁ、勇と一緒に空を飛べるなら、悪くないけど」
作戦は決まった。 勇が古代カタパルトの座席(という名の、巨大な石の台座)に座り、三人がそこに「燃料」兼「重り」として密着する。
「勇、舌を噛まないように気をつけて。ヒルダ、射出の瞬間に師匠の背中を押し上げて! リネット、点火と同時に上昇気流を一点に収束させて!」
「応ッ! 師匠、お覚悟を!」
ヒルダが勇の腰を背後からガッチリと抱え込み、大地に深く足をめり込ませる。リネットは勇の首筋に抱きつき、翼を最大まで広げて風を溜める。セレナは勇の胸元に密着し、自らの神力を全て勇の周囲の「重力中和」に注ぎ込んだ。
「……おい、これ、密着度がさっきより上がってないか!? 全員の心臓の音が聞こえるんだけど!」
「当たり前でしょ! 離れたら貴方だけ墜落するのよ! ……いくわよ、点火ぁぁぁ!!」
ドォォォォォォン!!
町全体を震わせる轟音と共に、勇の身体が「砲弾」となって空へ放たれた。 猛烈なG(加速度)が勇を襲うが、彼の上に乗る三人の温もりと、必死の抱擁が彼を支える。
「あはは……! 勇、すごいわ! 私たち、本当に空を飛んでる!」
「師匠ぉぉ! 景色が止まって見えますぞ! これが……これが愛の加速ですかぁぁ!」
勇は、風圧で歪む視界の中で、自分を離すまいと必死にしがみつく三人の少女たちを見た。 一万倍の質量が、初めて重力から解放され、大空を切り裂いていく。 目指すは、雲の上の新拠点。 史上最も「重い」弾丸は、美女三人の情熱を燃料にして、伝説の大陸へと突き進むのであった。




