第22話:さらばリバレー、目指せ浮遊大陸(過積載の亡命者たち)
「決めたわ。一度拠点に戻るんじゃなくて、このまま『新拠点』の最有力候補……浮遊大陸エリュシオンを目指しましょう!」
翌朝、朝食の席でセレナが宣言した。 ダムを救ったことで、町からは「勇の重さに耐えうる強化石材」や「最高級の保存食」が山のように提供されていた。これを拠点に持ち帰るよりも、そのまま新天地への旅の資材にした方が合理的だという判断だ。
「浮遊大陸……。伝説では、地脈の反発力が強すぎて、あらゆる重力を無効化する場所だと言われていますな。師匠が一人でトイレに行ける夢の地……必ずや辿り着いてみせましょう!」
「私の翼なら、風の流れを読んで大陸への入り口を見つけられるわ。……行きましょう、勇。貴方が本当の意味で『私のもの』になれる場所へ」
勇は、再び巨大な神輿を担ぎ上げた。 今回は町からの贈り物である「強化石材」が数百キロ分積まれているが、勇にとっては誤差のようなものだ。しかし、その神輿に三人が鈴なりに密着するスタイルは変わらない。
「よし、出発だ。……平均的な引っ越し作業にしては、ちょっと規模が大きすぎるけどな」
一行がリバレーの町を出外れ、険しい山道へと差し掛かった時だった。 突如として、周囲の空間が歪み、不気味な黒い魔法陣が勇の足元に展開した。
「――かかったな、『重力王』! その力、我が主のために役立ててもらうぞ!」
岩陰から現れたのは、漆黒のローブを纏った集団。隣国の軍事組織が送り込んだ「転移隠密部隊」だ。彼らの狙いは、勇を魔法で強制転移させ、秘密研究所へ拉致することにある。
「勇、動かないで! 強制転移魔法よ!」
「師匠! 私の身体をアンカーにしてください!」
セレナとヒルダが叫ぶが、勇は冷静だった。というか、足元で光る魔法陣が、なんだか「必死に頑張っている」ように見えたのだ。
「……おい、これ。大丈夫なのか?」
キィィィィィィン!! という、機械の過負荷のような悲鳴が魔法陣から上がる。 転移魔法とは、対象の「質量」を魔力に変換して空間を跳躍させる技術だ。しかし、彼らが想定していたのは、せいぜい「重装備の騎士数人分」の質量だった。
そこに現れたのは、単体で戦艦数隻分、あるいは小山一つ分に匹敵する「勇」という名の超高密度物体。
「な、なんだ!? 術式が……吸い込まれる!? 魔力が足りない、計算が合わないぞ!!」
「バカな! 重過失だと!? 対象が重すぎて、空間が固定できない!!」
隠密部隊がパニックに陥る。 勇が「よいしょ」と一歩踏み出した瞬間、魔法陣は勇の質量に文字通り「踏み潰され」、逆流した魔力が隠密たちを直撃した。
――ドォォォォン!!
自爆した魔法陣の余波で、敵部隊は文字通り消し飛んだ。……といっても、勇が何かしたわけではない。ただ普通に歩こうとしただけである。
「……今の、何だったんだ?」
「……たぶん、貴方を誘拐しようとして、貴方の重さに絶望した人たちね」
セレナが呆れたように肩をすくめる。リネットは勇の首にしがみついたまま、クスクスと笑った。
「無駄よ。勇を動かせるのは、世界で私たち三人だけなんだから。さあ、行きましょう。次の『重力異常』が起きる前に」
自分を狙う刺客すら、歩くだけで(物理的に)粉砕してしまう。 勇は自分の「重み」が招くトラブルの規模に戦慄しながらも、三人の美女を乗せた神輿を担ぎ、遥か空に浮かぶという安住の地を目指して、力強く大地を蹴った。




