第21話:英雄の夜は休まらない(あるいは、質量保存の添い寝)
リバレーの町が用意した「英雄専用特別室」。 そこには、町中の石工が総出で組み上げた「総大理石の巨大浴場」と、地盤に直接固定された「特厚の岩盤ベッド」が備え付けられていた。
「……勇、準備はいい? 今日の貴方はダムを直すのに魔力を放出したから、質量がいつもより不安定なの。一瞬でも気を抜いたら、この宿の底が抜けるわよ」
セレナがタオルを巻き直しながら、真剣な眼差しで告げる。 リバレーの風呂は、拠点よりも広い。だが、広ければ広いほど「勇を中央に固定する」のは難しくなる。
「師匠! 右側は私がお支えします! 水中では浮力で身体が浮きやすくなりますから、私の脚で師匠の腰をしっかりとロックし、浮上を防ぎますぞ!」
「ちょ、ヒルダ! ロックって何よ!? ……勇、左側は私よ。私の翼で貴方の身体を包んで、水流の乱れを抑えてあげる」
リネットもまた、当然のように割り込んでくる。 勇はもはや、恥じらう余裕すらなかった。1万4400倍の質量を、自分一人の理性で制御するのは不可能だと悟っているからだ。
――ドプン……。
三人に文字通り「絡みつかれた」状態で、勇は湯船に沈んだ。 セレナの術式が火花を散らし、お湯が勇の質量に触れて蒸発するのを防ぐ。右からはヒルダの鍛え抜かれたしなやかな脚が、左からはリネットの柔らかな翼が、そして背後からはセレナの温もりが、勇を全方位から「封印」する。
「……ふぅ。……なぁ、これ、逆に俺がリラックスしすぎて、そのまま沈んでいったらどうなるんだ?」
「その時は、私たちが貴方を引き揚げるわ。……まぁ、貴方一人で戦艦より重いから、私たち三人で全力を出しても、1センチ浮かせるのが精一杯でしょうけどね」
「ならば、沈まぬようこうして……さらに密着を強めるまで!」
お湯の中で、タオルの境界線が曖昧になる。 勇は自分の「平均外な存在感」が、三人の肌にダイレクトに圧迫されているのを感じ、のぼせそうになるのを必死に堪えた。
そして、入浴後の就寝。 岩盤の上に敷き詰められた毛布の山に、四人は「川の字」を超えた「重なり」で横たわっていた。
「……勇、寝返りは厳禁よ。貴方が右を向いたら、ヒルダが壁に埋まるわ。左を向いたら、リネットが窓から射出されるわ」
「わ、分かってるよ……」
勇の右腕にはヒルダが頭を乗せ、左腕にはリネットがしがみつく。そしてセレナは勇の胸板の上に乗り、心臓の鼓動を確かめるように耳を当てている。
「師匠……。この腕の硬さ、重み……。今日、ダムを救ったその力が、今私の枕になっていると思うと……胸が熱うございます」
「……ねぇ勇。貴方の引力、夜になると強くなってる気がする。……私、もう貴方の側から離れられない体になっちゃったかも」
リネットが甘えた声を出し、勇の首筋に額を寄せる。 勇は天井を見つめ、深呼吸をした。 肺に空気が入るたび、胸の上にいるセレナが上下し、左右の二人がその質量を微調整する。
(……これ、寝てる間も一瞬たりとも気が休まらないな)
だが、同時に思う。 一万倍の重さに耐えられる場所が世界にないのなら、こうして彼女たちが「重さを分かち合ってくれる」ことこそが、今の自分にとっての唯一の安息なのだと。
勇の「平均的な幸せ」は、今や「三人の美女と物理的に一体化する」という、極めて極端で重厚な形へと書き換えられていた。 翌朝、案の定「節々が痛い」とこぼす勇と、エネルギー満タンで艶やかな三人の姿が、宿の食堂に並ぶことになる




