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第20話:英雄の晩餐(あるいは、安住の地への渇望)

 ダムの崩壊を未曾有の「指一本」で防いだ勇たちは、リバレーの町長から最高級の宿へと招待された。  だが、英雄へのもてなしは、勇たちにとって別の意味で「極限任務」となっていた。


「……勇、口を開けて。この町特産の湖魚のムニエルよ。骨は私が魔力で溶かしておいたから」 「師匠、次はこちらの熟成肉を! 私が一口サイズに、かつ繊維を壊さぬよう完璧に切り分けました!」


 宿の宴会場。勇は町の職人が急造した「超強化石造りの玉座」に座らされ、左右からセレナとヒルダに交互に食事を口に運ばれていた。  背後からはリネットが、勇がリラックスしすぎて質量が漏れ出さないよう、首筋に触れて常に浮力魔法の微調整を続けている。


「……あ、ああ。旨いよ。旨いんだけど……やっぱり、落ち着かないな」


 勇が溜息をつくと、宿の床が「ミシッ……」と不穏な音を立てた。  勇が少しでも感情を動かし、セレナたちのリミッターが揺らぐたび、建物の構造材に数万倍の負荷がかかるのだ。


「仕方ないわよ。今の地下倉庫(拠点)も、貴方の重さで地盤沈下が進んでる。今日のダムの件で分かったでしょ? 貴方の存在自体が、今の世界のインフラじゃ支えきれないのよ」


 セレナが真剣な表情で、勇の口元を拭いながら続けた。


「今の拠点は、あくまで隠れ家。勇が『平均的な生活』……つまり、誰かに密着されなくても一人で寝起きして、一人でトイレに行けるようになるには、この世界の物理法則そのものを中和できるような、特殊な地脈の上に立つ『新たな拠点』を見つけるしかないわ」


「……一人でトイレか。懐かしい響きだな」


 勇は切実に願った。今の生活も、美女三人に囲まれて悪い気はしない。だが、一歩間違えれば大惨事という緊張感の中で、一生彼女たちに「物理的に」繋がれたまま過ごすのは、平均的な日本人の感覚としては、やはり重すぎる。


「師匠! 私も、師匠が真に安らげる『城』を築くため、どこまでもお供します! 古代の文献によれば、世界の果てに『重力に縛られぬ浮遊大陸』があるとか……!」


「浮遊大陸……。そこなら、貴方の質量も相殺されて、少しは軽くなれるかもしれないわね」


 リネットが勇の耳元で囁く。彼女もまた、勇という「重し」を愛しながらも、彼が苦悩する姿を見るのは本意ではなかった。


「……決まりね。資材を積んで一度拠点に戻ったら、次は『新拠点』の候補地探しよ。勇、貴方を本当の意味で自由にしてあげるわ」


「……ありがとう。みんな」


 勇が少しだけ、心からの笑みを浮かべた。  その瞬間、彼の「幸福感」に伴う魔力の増大がリミッターを一瞬だけ上回り、宿の石造りのテーブルが自重で粉々に砕け散った。


「「「あ……」」」


「……やっぱり、早急に新拠点を探そう。俺、このままだとこの国を壊しちゃうよ」


 英雄への歓待は、爆砕したテーブルと共に幕を閉じた。  勇たちの旅の目的は、単なるサバイバルから、一万倍の質量を包み込める「真の我が家」を探す、壮大な不動産探訪クエストへと進化していくのだった。

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