第15話:不動の川の字(あるいは、不眠の守護者たち)
お風呂から上がり、一行はいよいよ「眠り」の時間を迎えていた。 宿の主人が冷や汗を流しながら用意した「特注の寝床」――厚さ50センチの石板を敷き詰め、その上に何十枚もの毛布を重ねた代物だ。
「……なぁ、二人とも。寝る時くらいは、その、少し離れても大丈夫じゃないか?」
勇はベッドの中央で、すでに左右から挟み込まれた状態で天井を見つめていた。 右にはヒルダ、左にはセレナ。二人とも薄手の寝間着姿で、お風呂上がりの石鹸の香りが鼻をくすぐる。
「ダメに決まってるでしょ。寝てる間こそ、無意識に力が解放されるのが一番怖いのよ。貴方が寝返りを打った瞬間、この宿屋が『クレーターの中心地』になるのを防げるのは、私とヒルダの密着リミッターだけなんだから」
セレナが勇の左腕を抱きしめ、自分の体温を分け与えるように密着する。
「左様であります、師匠。眠りとは最大の無防備。師匠の『1万4400倍の寝返り』からこの町を守ることこそ、今の私に課せられた最大の試練……! さあ師匠、私の腕を枕になさってください!」
「いや、ヒルダ、お前の腕が折れるから。……はぁ、分かったよ。じゃあ、このまま動かずに寝るよ。……二人とも、苦しくないか?」
勇が気遣わしげに尋ねると、二人は同時に首を振った。
「……むしろ、安心するわ。貴方のこの圧倒的な質量を感じてると、世界がどこにも行かないような気がして」
「私もであります。師匠の隣にいると、自分の存在が確固たるものに思える……。師匠、おやすみなさいませ」
消灯され、部屋が暗闇に包まれる。 勇は「不動」を貫いた。少しでも足を動かせば床が抜け、少しでも腕を伸ばせば隣の美女を壁まで突き飛ばしてしまう。そんな極限の緊張感の中でも、左右から伝わる規則正しい寝息と、柔らかな温もりが、勇の心を少しずつ解きほぐしていく。
(……平均的なサラリーマンだった頃は、一人で寝るのが当たり前だったけど。……重すぎるのも、悪いことばかりじゃないのかもな)
夜中、勇の「例の部位」が不意にシーツを持ち上げた際、寝ぼけたヒルダがそれを「師匠の新たな剛剣」と勘違いしてしっかり握り込み、セレナがそれを「術式の乱れ」と勘違いして魔力を流し込むという、物理的にも理性的にも危険なハプニングがあったが――それは、夜の闇の中に消えていった。
翌朝。 目の下に隈を作った勇と、これまでになく艶やかな肌をした二人の女性が、宿の朝食会場に現れたのは言うまでもない




