第14話:湯船の攻防(タオルの下の超重量級)
「いい、二人とも。これは『入浴』という名の、一歩間違えれば町が沈む極限任務よ」
宿屋の貸切大浴場。セレナは湯気で見通しの悪い室内で、真剣な表情を浮かべていた。 勇は浴室の入り口で、腰に厚手のタオルを巻き、セレナとヒルダに両脇を固められたまま立ち尽くしている。
「なぁセレナ。やっぱり俺、水に入るのは怖いよ。さっきの説明だと、俺が湯船に浸かった瞬間、密度に耐えきれずに底が抜けるんだろ?」
「そうよ。1/1200の重力しかないこの世界で、貴方の質量をそのまま沈めたら、底を抜いて地下水脈まで到達しちゃうわ。……だから、この『術式の膜』で身体を覆いなさい。私が貴方の存在を世界から『少しだけ浮かせて』あげる」
セレナが魔力で編み上げた透明な膜が、勇の身体を包み込む。 だが、それだけでは不十分だ。
「ただし、水中では術式が不安定になりやすいの。だから、私とヒルダが左右から貴方の肌に直接触れて、魔力のバイパスにならないといけないわ」
「……結局、三人で入るしかないのか」
勇は観念して、腰のタオルを押さえながら、セレナとヒルダに促されて湯船の縁へ移動した。 二人もまた、長い髪をまとめ、大きなバスタオルを巻いた姿だ。
「……勇。何度か身体を拭いてあげた時から、薄々感づいてはいたけど……」
セレナが、タオルの下で存在感を主張する「何か」を横目で意識し、頬を朱に染めた。
「貴方のその……密度の高さは、身体の隅々まで行き渡っているのね。タオルの上からでも、とんでもない『重圧』を感じるわ……」
「え? ああ、骨格とか筋肉の話か?」
「……ええ、まあ。そういうことにしておくわ」
一方のヒルダも、勇の右腕を抱え込みながら、その視線は勇の下半身、タオルの膨らみに釘付けになっていた。
「師匠……。直接拝見せずとも分かります。その御身に宿る『大いなる力』の片鱗……。まさに王国最強の槍をも凌駕する、圧倒的な武の象徴でありますな!」
「ヒルダ、お前も変なこと言うな! ほら、入るぞ!」
三人は寄り添うようにして、湯船へと足を踏み入れた。 セレナの術式が「ポヨン」とお湯を弾き、勇の身体を優しく受け止める。1万4400倍の質量が、初めてこの世界の「浮力」という恩恵に預かった瞬間だった。
「……はぁぁ。生き返るな……。日本人で良かった……」
「……そうね。私も、リミッターの維持で肩が凝ってたから、お湯は助かるわ」
セレナが勇の左肩に頭を預け、湯船の中で密着を深める。 すると水中、タオルの下で、浮力によって不安定になった勇の「重量物」が、不意にヒルダの太ももに触れた。
「――っ!? し、師匠! いま、何か……凄まじい衝撃波が私の脚を!」
「悪い! 浮力で制御が難しいんだよ!」
「い、いえ! これもまた修行! この、山をも動かしそうな『圧』を至近距離で受け止めることこそ、弟子の本望……うう、でも、なんだか頭がふわふわします……」
「ヒルダ! 貴女、のぼせてるんじゃないでしょうね!? 勇、動かないで、術式が乱れるわ!」
湯気の中、タオルの下で繰り広げられる、物理法則と理性の境界線上の戦い。 勇は、左右から押し寄せる二人の温もりと、水中でも隠しきれない自分の「規格外」な存在感に、平均的な平穏を願わずにはいられなかった。
こうして、一行の不潔問題は解決した。 だが、勇を巡る二人の「密着の主導権争い」は、お湯の温度よりも熱く、そして「深く」燃え上がり始めていた




