理不尽な職場
優秀な人間は本当に優秀なのだろうか?
無能と蔑まれている人間は本当に無能なのだろうか?
世の中は理不尽でできている。
人は産まれた瞬間で人生の8割は確定するだろう。
何時の時代に生をうけたか。
どこの国。都心部か田舎か……
親の社会的立場や資産等々。
俺は日本の過疎化が進んだ田舎生まれの食品メーカーの営業。平社員だ。
周囲からは営業成績万年最下位の無能と蔑まれている。
今日も……
「おいこの商談資料をまとめておけ」
「えっ」
上司の浦有課長が雑に書きなぐりしたメモを俺のデスクに放り投げると仕事を押し付けてくる。
「なんだ?
まさか断るのか……営業成績最下位なんだからこれぐらいは役にたて……無能が!
商談は明日だから今日中にやっておけよ。いいな?」
言って恫喝する浦有。そんな俺達のやり取りをみて周囲の同僚達がニヤニヤと俺を蔑みの笑みを浮かべる。
浦有課長とのやり取りを見た同僚達も何時しか俺にめんどくさく時間のかかる雑用を押し付けてくるようになった。当然、キャパオーバーとなり、自分のするべき事を進める時間がとれず営業成績の低迷につながった。
浦有課長や同僚にキャパオーバーについて相談してもなしのつぶて。小言を言われるだけなので諦めた。相談する時間が勿体ないと思ってしまったのだ。だからここ数年待遇は変わらないどころかむしろひどくなってきている。
退職しない俺もバカだと思うが片田舎ではそもそも仕事が無い。正社員だし……と、しがみついてしまい今にいたる。
浦有課長の商談資料を雑にかかれたメモを解読しながらパソコンに内容をまとめていく。
「しかし字がきたない」
つぶやくと俺はメモを手に何と書いてあるのか分からない字を見つめて首を傾げる。
「前後の文面から……」
前後の文面から予測する。
今回は解読できた。どうしても分からない時は浦有に聞くしかないが……字も読めないのかと貶されるのは納得がいかない。
「なんか変じゃないか?」
再び手が止まる俺。
浦有のコスト試算に違和感を感じた俺は社内共有フォルダーにアクセスして食材の仕入れ先と原価一覧を確認する。
「やっぱりこの試算。最新じゃない。去年のデーターだ」
提示した見積りから金額を丸めたり割引いたりすることが慣例となっている。この試算でそれをしてしまっては大赤字となってしまう。
「こういう初歩的なミス。みんな多いよなぁ」
ため息を吐きつつ俺は試算のやり直しを行った。
「浦有課長。資料出来ましたので確認お願いします」
「…………」
浦有課長は俺からため息混じりに資料を受け取ると呆れた表情で、
「この程度の資料を作るのに丸一日か……本当に仕事出来ないなお前。こんなの3時間もあれば作れるだろ」
なら、お前が作れよ!
字は読み難いしいろいろ間違っているわもう大変だったんだよ。
浦有の言葉に心の中でつっこむ俺。
「ふぅ」
「何、疲れたフリしてるんですか無能先輩」
浦有から解放されて自分のデスクに戻り、息を吐く俺に後輩の無駄多が言う。何時もバカにしてくる後輩で彼も浦有と同じく……
「先輩。コレお願いします。
俺は先輩と違って明後日も大きな商談あってですね。今日、先輩と違って商談決めてきたんですが発注書作る余裕無いんですよ。だから頼みますね」
こうして毎日、雑用を押し付けられる日々で成績など上がるわけもなく。
その日は突然やってきた。
「来月から見山流食品グループ傘下になる事が決まった。知っての通り見山流食品は業界最大手だ。
我々も一流企業の仲間入りだ。ハッハハァ」
言って大笑いする木阿見社長。
ひととおり笑うと彼はスッと表情を変え、
「一流企業に仲間入りするに当たり、これからの我が社にふさわしく無い者はこれからの飛躍の邪魔となる……つまりだ。人員整理を行う。無能は今日付けで解雇じゃ!」
歓喜の雰囲気が一変。ざわつく周囲。
木阿見社長はニヤリと笑うと、
「安心しなさい。我が社に無能は……1人だけだ」
俺を見つめ彼は言った。
『確かに……』
営業部の皆が笑いながら呆然とする俺を見つめた。
この日、俺は会社をクビになったのだった。
1ヶ月後、俺は従業員15名の農機具を扱う小さな会社に就職した。扱う商品がまったく違うので覚える事が多く目が回る毎日を過ごしている。
先輩達は優しく前の職場よりも働きやすい環境だ。そう理不尽に商談資料を作らされたり、雑用を押し付けられたりしない。
押し付けると言えば、俺がクビになってからの元の職場についてだが、けっこうヤバイ事になっているようだ。
風の噂では、商談の内容とまったく違う商品が納品されたり、請求金額がおかしかったり等々トラブルが多発し取引先が激減しているらしい。
トラブルの影響は大きく、見山流食品の業績にも影響が出ているらしい。
連結子会社化していたことから元の職場の負債(契約不履行による損害賠償や取引停止による損失)により、巨額の赤字を計上。株主が激怒しているようだ。
「ねえ、今日のニュース見た?
見山流食品が債務超過の危機なんだって。あんな大企業が……世の中って意外だよね」
多彩ミナ先輩が驚き表情で俺に語りかける。ちなみに彼女は俺の教育係である。かなり美人で毎日が楽しい。嫌われないよう頑張ろう。
「なんでも最近、傘下にしたもく……もくなんとか流通が大損害ばかりだして一瞬で内部留保が溶けたらしいよ」
「…………」
反応に困る。
ただ、あの日々を考えれば納得ではある。
押し付けられた仕事のほぼ100%何かしらのミスがあったのだ。皆に指摘しても無能が何言っていると聞いてもらえず、逆に叱責されていた。そんなんだから……まあ、納得だ。
ミナ先輩は俺を見つめてニヤリと笑みを浮かべて、
「飛躍のために会社を買収したら予想外に滅茶苦茶な会社だった。見山流食品は会社をみやまったのね」
大好きなオヤジギャクをかましたのだった。
最後までお読みいただきありがとうございます。
よろしければ連載中のファンタジー【災厄の調査員~その報告書は……~】もよろしくお願いします。




