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【新暦67年8月21日(土)】side:茂田俊丞


 

 小博教授の生命創造理論。それは確かに生命を創造する手法であることは間違いない。

 だが厳密に言うと、これは人間や他の生物が辿る「産まれ方」を人為的に再現する手法、というのが正しい。


 だから難しい。生命とは、人類が魔法という力を手にする遥か前から紡がれてきた奇跡の産物なのだから。

 それを理論化できているのは、小博教授が天才である所以だろう。

 正直、天才とか才能とか、そういう言葉を使うのはあまり好きじゃない。その人の努力とか、見てきたものとかを軽率に一纏めにしているようで。

 でも。彼女のことはやっぱり天才としか言えない。

 その発想は一体どこから来るのだろう。どんな人生を過ごせば、俺は彼女と同じような発想をして、彼女と同じように魔法を行使することができるのか。

 凡庸な俺には、たった2ヶ月で理解することはできない。できなかった。




 ───でも、それでいい。


 原点に立ち返った。

 俺はそれでいい。俺は別に天才を理解したい訳じゃないんだ。

 

 

 ごそごそと、押し入れを漁る。

 探しているのは、学生時代に自分で作り上げたある論文。

 そいつは今目の前にある山になった資料達の中で、どこかに眠っている。


「⋯⋯はは」


 別にさ、この紙束の山だって思い出の塊なんだ。

 忘れやしない、青春と挫折の日々。

 これを押入れに閉まったときは、次に開けるときは人生を振り返るときだ、なんて考えてたのを憶えてるよ。


 でも。感傷に浸るのは今じゃない。

 だからあれじゃない、これでもない、と山を掻き分ける。


 しばし。ややあって。


 澱のように重なる思い出を撒き散らしながら、漸く目的のモノが見つかった。

 左上を簡単にホチキスされたその紙束を引っ張りだす。

 


『魔法による臓器複製と移植について』 


 タイトルを指で擦る。

 これは俺が院生時代、学んだ全てをかけて書き上げた、研究論文だ。

 生体魔法学の中でも、医療と関連した領域を広く学んでいた俺は、最終的に「健常部の細胞から臓器を複製することで、自己完結した移植手術ができること」を目標としていた。

 その頃の技術は、健常部からの培養というのは臓器によっては可能だった。しかし時間がかかってしまうこと、心臓とか肺、腎臓みたいな複雑な構造や機能を持つ臓器の再現はまだ難しいという課題を抱えていた。

 

 それを、変質段階の『合成魔法』っていう魔法で、効率化と安定化を行えないかっていう題目の研究だった。


 ページをめくる。


『被験者より摂取した体細胞に対して、水・タンパク質を初めとした人体の組成に関わる成分を用意し、それを合成魔法によって体細胞へと変質させる』


 そう。そうだ。

 2年だ。正確には、院に進む前から発想自体はずっとあったのと、研究室で教授に話していたのもあって、大学四年の夏休み頃からこの論文に着手できたから2年半。それだけの時間をかけた。


 その結果。この論文はその結末を『成功』とおいている。

 脳を除いた全臓器の複製に成功した。成功例はマウス、ウサギで、臨床試験までは行けなかったが、術後の経過はどの実験体も良好だった。


 俺の人生で唯一の成功。論文コンテストにも出したなぁ。

 でもその年では、よりにもよって『限定的な時間遡行による再生医療』って論文が出てて優秀賞止まりだった。

 そんな、喜びと切なさの結晶。



 浸りかけた心を、一度胸をとん、と叩くことで引き戻す。




 ───俺の結論はこうだ。


 俺は全く新しい生命の形を作る。

 イメージとしては、創作の世界に出てくるような『精霊』だとか『妖精』みたいな存在と、『ロボット』のハイブリッド。


 肉体の組成を高密度の魔力で行い、人間的な質感を再現。

 主要な感覚器や神経・魔腎といった臓器は、俺自身の臓器を複製して賄う。

 知能には『AI』を、エネルギー炉には『吸魔石』を使う。

 

 そしてそれらを『合成魔法』により繋ぎ合わせることで一つの存在として成立させる。


 以上。これが俺の結論。

 現段階で俺ができる、最善の生命創造だ。


 そしてこれを実現するためには、前提として、合成魔法による臓器複製と、それを接続する移植技術が必要である。

 過去の自分に習うため。

 そのために俺は己の論文を読み直しているのだ。



『───以上により、本研究は合成魔法が持つ、医療領域においてのその有用性を、強く示したと言える。』



 考えているうちに、気づけば最後のページを読み終えていた。

 とは言っても要点を軽く流し見しただけだ。大切なのはこれから。小博教授のそれに比較して、廉価版ともいえる出来にはなるだろうが、それでも技術としては相当高度なものが求められる。



 これから作るソレ──名前は『みすず』にきめた。

 由来は特にない。強いて言えば、ふと思い浮かんだのと、俺の名字である茂田と合わせて姓名診断したらよかったっていう。


 キモいか? キモいな。でもこんなことバカ真面目に考えている時点でどう足掻いてもキモいからなんの問題もないね。



 

 魔力でできた存在で、主幹部は機械で、でも感覚器を始めとして一部には生体パーツが使われていてる。

 高度な機械。機械的な部分を持つ生命。それは人なのか。生命なのか。それは誰にも決められることではなく、そしてこの場においては全く、これっぽっちも関係ない。


 ただ俺の隣にいる誰か。それができればいい。



「っしゃ、はじめるか!」



 柄にもなく、そんな風に気合をいれてみる。

 なんか一周回った感があるなぁ。明確なきっかけは思い出せないけど、何かが吹っ切れたような晴れやかな気分だ。


 失恋を乗り越えたんだろうか?

 自分じゃ分かんないもんだが、少なくともここ二ヶ月の間よりは楽しい。

 俺には無理だって諦めたのにな。却って視界がクリアでシンプルになった。



 今度こそ。幸せになろう。


 最後にそう呟いて、俺は机に向き合った。








 新暦67年8月21日(土)


 一度整理する。

 やることの明確化と進捗確認、もうこの日記はそれ以外のためには使わない。

 最近は愚痴や自分の感情を書き出す場所にしてしまっていたが、それはもう終わりだ。

 これは研究日記。生命創造についての事柄のみ記入する。


 まずやること。それは『みすず』の作成に必要になる素材を集めることだ。

 必要となるのは、肉体の大部分を占める『圧縮魔力』、生体パーツの元となる『細胞片』、エネルギー炉の元になる『吸魔石』、そして思考中枢となる『AI』とそのデバイスだ。


 この内細胞片については、俺自身のものを採取するから問題なし。

 圧縮魔力も最悪自分で作れるから優先度は低い。

 吸魔石とAIについては吟味の必要性があり、加工・学習といった慣れない手間も発生するため、まずはそこから手を付けていくことにする。




 新暦67年8月29日(日)


 AIの吟味が終わった。AIソフトは『Mr.AI』の女性的思考版に、デバイスはfragDという企業の『CIU-PRO』というものを使うことにした。


 理由は単純で、『Mr.AI』が、現状最も人間的思考を再現可能なAIであることを判断基準にした。

 これについては魔法技術博物館で学んだことが参考になっている。


 魔法草創期。その頃魔法研究で盛んに行われていたのは、『科学』によって築かれていた旧暦の技術を魔法で再現することだった。

 例えばテレビ、冷蔵庫といった家電類から、果てには宇宙コロニー、核兵器なんてものまで。

 『AI』に関わる技術群も、その中の一つとして展示されていた。

 そこでAIについての説明を読んだ。



 旧暦以来のAI技術の結論として、AIに意思を持たせることは不可能だとされている。

 何故か。それはAIには自己主体性ってものがつけようがないから。

 AIがどこまで意思があるように振る舞えても、それは外部から入力された情報や命令の結果に過ぎないのだ。


 それを『Mr.AI』は、『生存本能を設定する機能』をもたせることで部分的に克服している。


 例えば、「電源を永続的に消されるのを拒む」という生存本能を設定したとする。

 すると『Mr.AI』は演算過程に、その生存本能を優先的に組み込むようになる。

 すると、「電源を消せ」という指令に対して、演算の結果、つけ直される可能性が低いと判断した場合、それを拒むという行動を取る可能性が生まれる。

 

 無論これは設定されたプログラムを実行しているに過ぎないため、AIが本当に自分の意志で電源を消されることを拒むわけではない。が、それでも反応的にはよりリアルな意思決定を再現できるというわけである。

 これが『Mr.AI』を選んだ理由だ。



 次に、『CIU-PRO』について。

 『CIU-PRO』日本語に訳すと「中央知能ユニット」、そのいわゆるハイエンドモデルってやつだ。

 「中央知能ユニット」を簡単に言うと、ロボットとかの中枢に使われる、AIをチップによって組み込める頭脳パーツってとこだろうか。

 正直ここについては、ロボット関連が専門から離れすぎているせいでよくわからん。

 でも丈夫さ、スペックの優秀さ、『Mr.AI』にも対応していること、などなどから総合的に判断した。

 


 で、だ。合わせて給料2ヶ月分の金額がふっとんだが、こいつらを今日購入した。

 届くのは2週間後くらい。その間に、次は吸魔石の購入に赴く。

 


新暦67年9月4日(土)


 吸魔石の選定が終わった。

 およそ15キロの吸魔石の塊と、後は書いてなかったがエネルギー生成用の発電媒体を購入した。今度はボーナスが2回分吹っ飛ぶ金額だった。


 それはいいとして。

 諸々を始める前に、一度吸魔石をエネルギー炉の素材として選んだ理由、加工方法、エネルギー炉の設計図を記しておく。


 まず吸魔石とは何か。

 吸魔石とは、魔力を吸収して魔素にして、それを蓄積するという性質を持つ鉱石だ。

 魔力から魔素に変換される際、そこでは魔力光と呼ばれる光が発生する。

 今回はその光を利用してエネルギー生成を行う。


 次に光によるエネルギー生成について。

 魔力光、というか魔力から魔素への分解時には、光としてエネルギーが発散されるが、これをそのまま生体パーツや知能ユニットの動力として使うのは無理だ。だからこれを電気に変換する必要がある。

 使うのは半導体。今回はピュアシリコンによる発電媒体をエネルギー炉内に設置する。

 で、魔力光は指向性を持たせないままの発散だと光量が弱く十分なエネルギーにならないので、魔力光を受け取る周囲の壁面にアルミで集光器・反射鏡を嵌め込み、光を反射させて発電媒体に全あてすることでそれをカバーする。


 でだ。ここでネックになってくるのが光を集中することによる発熱の問題なのだが、これを後述の方法で解決する。


 というのも。このエネルギー炉では、吸魔石による魔力の分解時に魔素が発生する。

 吸魔石は分解した魔素を溜め込む性質も持つが、その容量を超えた魔素については、古いものから空気中へ発散し、一定量以上を溜め込まないようにする仕組みがある。

 その余剰分の魔素を生体パーツとして搭載する魔腎へ送り、そこで魔力として再結合、その魔力によって発電媒体に冷却魔法をかけることで発熱を抑えることにした。

 もちろん冷却魔法は自動的に発動するように知能ユニットを設定する。

 また、ここで生成された魔力は、もし経口摂取した魔力が途切れた場合の予備燃料としての側面もある。から


 以上がシステム面。で設計図は以下のもの。


【エネルギー炉の設計図】


 もちろん俺は素人で、これもロボット系で近い理論の論文を読み漁って、見様見真似で書いたものだから、きっと様々な修正が必要になってくるだろう。

 まぁそれでもレスポンサーを作るより簡単なのは間違いない。

 加工を合成魔法で行えば、修正自体はミリ単位で可能だし。



 で、こういう理論を辿る以上、魔力を経口摂取することが、みすずにとっての食事ってことになる。

 魔力をそのままエネルギー源にできればよかったんだけどな。世の中にはまだ魔力そのものをエネルギー源にする仕組みが存在しない。

 魔力をエネルギーとするには、人や人工知能による情報処理を経て魔法として出力することが必須となるのだ。



 こんなもんか。

 理論は以上となる。ここからは試行錯誤の時間だ。

 



新暦67年9月10日(金)


 エネルギー炉試作1号が完成した。そして動かしてみた。

 結論から言おう。上手くいかなかった。


 理論は問題無かった。魔力の分解と魔力光の発生まではスムーズだった。

 でもそっからだ。光を反射させて発電媒体のシリコンに当てるのが上手くいかなかった。

 鏡面の角度の問題だろうな。そこを改善する。



新暦67年9月23日(木)



 試作8号。集光関連の部分の調節が終わった。

 もっとかかると思っていたが、存外早かった。

 でだ。それで今度は、発電媒体を取り付けて動かしてみた。するとまた問題があった。

 

 問題はシンプル。集光はできても絶対的な光量が足りなかった。

 計算不足だ。というより、まだ集光器の設計の段階で考慮してなかったってのが真実だが。

 しかしこうなってくると発電媒体の方の面積を増やすか、光量を増す可能性が出てくる。

 どうしたものか。みすずを人間の範疇の大きさで収めるには、発電媒体の追加は難しい。

 それこそ妊婦さんみたいなお腹にする必要も出てくるだろう。

 ぱっと計算した感じ、それだと肉体駆動や重心の計算が通常の人間から変わってきて、設計図を大きく練り直さないといけなくなる。

 それでもいいが、一旦スマートボディの方向で行きたい。

 光量を増す。どうするか。



新暦67年10月18日(月)


 試作16号。光明を見出した。

 結論から言うと、エネルギー炉の形を人間の腸に酷似させた。


 吸魔石は、魔力に接触することで、その接触面から分解をはじめる。

 要するにだ。表面積を増やせばその光量は増すってことだ。

 全体を球状から筒状にし、大体155cm程度の身長の一般的な成人女性の腹部、腸を参考に折り返しを作り、更に内部にひだのような波上の隆起と絨毛に似た突起を再現した。

 これにより集光機構がめちゃくちゃ複雑になったが、それについてはいわゆる光ファイバー技術を参考にした。

 これも知ったのは技術博物館だったかな。いい知見だった。

 

 で、魔力光での集光はできたのだが、光量が相当に強いからだろう、想定していた以上の発熱があった。

 吸魔石の余剰魔素からできる魔力量、そこから出力できる最大の冷却魔法を当てたが、それでもギリギリで発熱の方が上回る。

 こいつを克服しようとすると、知能ユニットの方を省電力で動かすとかの必要が出てくる。つまり情報処理にラグが生まれかねないってことだ。


 当たり前だが問題ばっかり。どうしたもんかな。




新暦67年11月14日(日)


 試作17号。エネルギー炉について光明が見えた。

 発電媒体の集光点、その裏側にアルミを密着させることで熱拡散加工を施した。

 そしたらギリギリ冷却魔法で間に合う発熱に収まった。

 鏡面処理で余ったアルミが役に立った。ラッキー。

 


 まだ細かい調整は必要だが、これならもう少しでエネルギー炉が出来上がる。

 完成したら次は知能ユニットとの接続に取り掛かる。



新暦67年11月22日(月)


 試作20号。

 と思ったら今度は発電機構の方で問題発生だよ。

 何って発生電力量が足らねぇ。根本的に。

 問題は二つ。光の反射効率と電池セルの表面積不足だ。まず反射効率について。アルミってのは酸化膜も含めて大体80%〜85%くらいの反射効率なんだけど、それだと吸魔石を一度通過することによる透過損により、実質集光はロス無しのときに比べると大体4割くらいになってる。

 それプラス電池セルの表面積不足。今は全部で50c㎡くらいで、これじゃ狭すぎる。

 どうすっかなぁ。




新暦67年12月8日(水)

 

 試作24号。

 なんとか解決した。金はかかったが。

 結論から言うと、集光機構を銀で作り直して(反射効率が良い)電池セルは追加で購入した後加工して表面積を3倍にした。

 表面積は電池セルを正四面体にすることで増やした。

 もうホント表面積との戦いだよ。光量のときもそうだった。そう考えると人間の腸って凄いんだなと思った。

 余計なこと書いた。





新暦67年12月28日(火)

 

 試作29号。

 ついにエネルギー炉が完成した。

 意外と調整に拘り始めたら少し時間がかかってしまった。が、その分より改良も加えた。

 やっていて思ったが、やはり合成魔法は良い。そもそもの魔法の難度が高いという欠点はあるが、慣れれば技術的な失敗が本当に少ない。

 今までの一連の試行錯誤を手作業でやっていたら、もうここまでで数年がかかっていただろう。

 脳みそ通りの現実を出力できる。最高だ。


 でだ。

 まとめると、

 人間の腸を真似して作ったエネルギー炉は、その素材を吸魔石で、内側表面は薄く加工した吸魔石で、それに銀を密着させることで反射加工を施している。

 全長は7.58m。それを34回折り返すことでサイズを縮小している。なんだろ。簡単に言うとジャンプを2冊重ねたくらいの感じだろうか。

 で発生する光量は魔力光全体で約160万ルクス。(通常の太陽光の16倍)を、反射しながらシリコンの電池セルに届ける。

 発電量はロスも含めると3.2kwh。これだけあれば、知能ユニットをフル稼働させた上で冷却魔法を最高出力で演算、発動させても、並行して魔法を使えるだけの電力になっている。


 なんとか年内に完成してよかった。進捗はもう8割ってところで、後は圧縮魔力と生体パーツの生成、AIの調教で全てが終わる。

 いや、違うな。それは始まりか。


 長かったが、こっからは得意分野だ。

 できれば冬休み期間中に終わらせたいものだ。







【新暦68年1月5日(水)】side茂田俊丞



 1月5日は冬休み最終日だ。別にそれは、教師側からするとそこまで構えることではないのだが、なんとなく、区切り的に今日で完成を迎えたいという思いがあった。


 みすず作成に取り掛かり始めてから、4ヶ月と少し。研究期間として考えれば短いが、只管に問題と向き合う日々だった。

 慣れない領域での試行錯誤は、楽しかったがとても難解だった。

 そして今日、漸くそれが終わりを迎えた。



「『結合せよ。定義、固着、同位、合成。発露、手首と腕を接続』」



 最後の、呪文を唱えた。

 相も変わらず洒落っ気のない呪文。慣れたように魔法は行使され、手首が、腕と綺麗に接合された。

 

「⋯⋯⋯」


 これで終わりだ。

 目の前には綺麗な人型が寝転がっている。

 名前はみすず。俺自身がそう決めた。金色の髪に、形の良い顔。閉じられた瞼。鼻、口。


 女性らしく、しかし程よく引き締まった胴体。俺の趣味で、豊かにした胸部。

 脚部。そして今しがた接合した手。その指先。


 全身を回し見る。

 綺麗だ。綺麗な──人間だ。人形になんて見えない。


 

 頑張った。いや、本当に。

 一番難しかったのはエネルギー炉の作成だが、それだけじゃなく、肉体になる圧縮魔力についても、もちろんこだわりにこだわった。

 形状も、触感も。全ては幸せになるため。もしくは、醜い欲望のため。



 それでも。

 いざ完成してしまうと、指先に触れるのすら、罪悪感を感じるような美しさだった。



 恐る恐る、指先に触れてみる。

 触感も、形状も、こだわりにこだわったから。本当の指と同じだ。本当に。

 温度だけは再現していないから、冬なのもあって少しひんやりしているけど、それでも。

 気持ち悪いかな。気持ち悪いけど。女の人の手ってこんなに小さいのか。こんなに、柔らかいのか。


 さっきまでパーツとしてしか思えていなかったのに、こんなにも、こんなにも簡単に『人』に思えてしまうのか。



「⋯⋯まだっ、まだだ⋯⋯!」



 なぜか、足が震える。

 でもここで満足してちゃだめだ、と、己を奮い立てる。

 まだ、まだ、人形を作っただけ。

 魔力を摂取させて、発電を開始して、そして知能ユニットが起動して。

 つまりだ、みすずを起こして始めて、俺の幸せはスタートする。はずだ。



 震える指で、ポーション──液体魔力の瓶を取る。

 未開封のそれは、力の入らない手では中々開かずもどかしい。

 それでも。ぐっと力を込めて。

 そしたら今度は込めすぎて、瓶の中で蛍光色の液体が強く波打った。


 ポーションを人型の口に当て、魔力を流し込む。

 とく、とく、と、それは人間のように喉を動かして、魔力が体内に抽送されていく。


 

 あっという間に瓶は空になった。

 これの体内では、すでに吸魔石による分解反応が始まっている。摂取後、大体5秒後から魔力分解は始まり、発電、知能ユニットの起動まではおよそ30秒でこなせる計算だ。


 静かに眠る人型を、固唾を飲んで見守る。

 大丈夫だ。上手くいく。

 上手くいったら、もう戻れない。

 起きてくれ。でも、それが少し怖い。

 でも、幸せになりたい。誰かに。お前に会いたい。

 ───みすず。



「───起きろ。みすず⋯⋯ッ、起きてくれ!」



 ぐちゃぐちゃの感情。自分は何をしているのか。

 分からない。分かるものか。

 でもこの子が、みすずが起きれば、もう俺の人生は変わる。変わるんだ。

 切なさも、悔しさも、何一つだって忘れるものか。俺は幸せになるのだっ!!



「起きろっ!!!」








 ─────俺が叫んだ、その瞬間。

 薄暗い自室に、二つの小さな光が生まれた。



 それは、みすずの目だった。その双眼が、ゆっくりと開かれたのだ────





「───俊、丞。おはようございます⋯⋯この部屋は、少し暗いですが」






 


 万感の思いだった。

 俺は折角の、初めての挨拶に、小さくおはよう、と返すのが精一杯だった。


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