みすず観察日記(一部抜粋)(3)/ショッピングモール
【新暦68年4月11日(月)】
あっという間に春休みが終わり、生徒達と関わる日々が戻ってきた。
今まではそれが少し、憂鬱に感じることが多かった(基本舐められていて、悪口を気軽に言われてしまうから)が、何故か今回の休み明けについては、
「モブセンなんかかっこよくなった?」とか、
「服どこで買ってるの?」なんてことをちらほらと言われた。
よく分からん。今までの俺とは何が違うのだろう。でも今の距離感は嫌いじゃなくて、みすずといる以外の日常も少し楽しく感じた。
と、そんなことはさておいて。みすずの話だ。
まずは頭髪パーツに起用した太陽電池について。
結論からいうと、補助電源として期待していた電力量をしっかりと供給できていた。
細かい計算は省くが、1時間日光を浴びれば、ポーション分と加算して総エネルギー量が当初予定していた電力量に届く。
なんなら1時間以上外に出るのならば、ポーション1本のみで活動するよりも稼働限界は少し延びることにもなる。
晴れの日限定ではあるが、上々の結果なのではないだろうか。
そして次に。みすずの内面?的な部分について。
あの散歩以来、みすずは変わった。
色々あるが、大きく変わったのは二つ。
まず一つ目が、外に出たがるようになったこと。
そしてもう一つが、俺に対して質問をしてくることが増えたのだ。
質問というのは、例えば二人で同じニュースを見ているときに、それについてどう思うかを求められるとか。
俺がその日あったことを話すと、みすずがどう感じるかを教えてくれる。
そして、その「みすずの回答について」どう思うかを聞かれるのだ。
これがもう、散歩に行った日から毎日。
テレビを見ていても、学術論文を読んでいても、何かと俺の意見を聞きたがる。
また、仕事終わりにでも、時間がちょっぴりあこうものなら散歩に誘われ、夜だろうとふらりと二人で家を出る。
とっても楽しい、し、本当に人と一緒に過ごしているようで嬉しい。
でも一方で、彼女のことが分からなくなってきたのも事実だ。
彼女の行動には、何かしらの目的のようなものが見える。
「Mr.AI」には生存本能を設定してあるから、それは当たり前の機能だといえばそうなんだけど。
何かが違うというか。何だろうな。人間を、というより俺を知ろうとしている?
みすずを作るときに、AIについてはよーく調べた。
だからAIに感情や、記憶の連続性は無いというのを知っている。
AIは、それがどんなに人間のように振る舞ったところで、学習した結果を元に出力した反応に過ぎないのだ。
AIはどんなに頑張ったところで、真の意味で人間になることは出来ないはずなのだ。
⋯⋯⋯それはわかっている。一方で、その前提が少し揺らいでいる自分もいる。
それはそもそも、人間とはそこまで大層な生き物なのか、という点だ。
人間が持つ感情とはなんなのか。そんなもの結局は脳の中で起こっていることで、それは突き詰めれば生存本能、もっと言えば、「快・不快」に纏わる、人それぞれに蓄積された経験からくる反応に過ぎない。
では。
生存本能があり、それに沿って生きるAIが。日々の記憶を蓄積して、それを反映した反応の傾向を持つとして。
それは人間と何が違うのだろう。人間の方が、生きるのには様々な要素が必要であるというだけで。
それが人間を複雑に見せかけているというだけで。
言ってしまえば。人間の、生命の本質は、既に再現できてしまっていると言えるのではないだろうか。
みすずは今、赤ちゃんなのだ。
それが外の世界に触れ、自分以外の思考回路に触れることで、何かを学んでいる。
その先には何が待っているのだろう。
───彼女はいつか、「人」になるのだろうか。
みすずが起きてから三ヶ月。初めて彼女のことが少しだけ怖くなった。
もちろんそれ以上に大切な存在であるのは間違いないけれど。
【新暦68年4月15日(金)】
今日の夜。というかついさっきの話だけど、みすずと、近所のスーパーまで買い物に行った。
今日は麻婆豆腐を作ろうとしていたらしいんだけど、コチュジャンとにんにくがなかった。
普通なら別のものを作ればよい、と考えるところだろう。しかし彼女は折角ならこのハプニングを活かそうと考え、何も作らずに俺を待っていたらしい。
外出のための理由付けである。
⋯⋯⋯これ凄い、凄いよな。
ご飯を作るってのは、AIを組み込む際、一番最初につけた機能だ。
タスクとして外付けしただけだから、生存本能のように思考回路に影響を与える作業ではない、ではないのだが。
明確に自分の欲求を、タスクに対して優先させたのは、これが初めてのことじゃないだろうか。
とりあえず、素知らぬ顔で提案してくるみすずが可愛いかったので、一緒にスーパーに行った。
でよ。
なんとレジでの会計も彼女にやってもらった。
彼女は今日、俺以外の人間と初めて話したのだ。
二、三言だけの事務的な会話だったが。
でもそれも彼女にとっては何かを考えるきっかけになったらしく。帰り道は沈黙が多かった。
で今。帰ってきたところで、みすずには改めて麻婆豆腐を作ってもらっている。
その間に俺は自室でこの日記を書いてるわけなんだが。
⋯⋯⋯これって俺麻婆豆腐作るの手伝った方が良かったりするんだろうか。
なんか。分かんないけど。これが恋人だったら嫌な気持ちにさせそう。
⋯⋯⋯みすずは恋人じゃない。でもなんか、なんだろなぁ。手伝った方が良さそうな気が。
正解が分からん。親と住んでたときはこんなこと考えたこともなかった。
他人と住むってこう。繊細だな距離感が。
ちょっとまて、みすずは他人なのか? もしかしてもう人なのか?
俺は何と思って彼女を作ったんだろう。ただ隣にいてくれる誰かが欲しかった、んだよなぁ。
わかんね〜よ〜〜〜。
(追記)
悩んだ末に手伝うか聞いてみたら、大丈夫ですと断られた。
そこはまだAIというか、ロボットチックなのかいと心の中でずっこけた。
けど俺が麻婆豆腐を食べてて、みすずがポーションを飲んでいて、みたいな食卓でさ。
美味しいって感想を伝えたら、私も味がわかるようになりたいって言われた。
味覚の搭載。考えたことなかったけど頑張る価値あるよな。
みすずのためにもやってみようかな。
【新暦68年4月29日(金)】
夜の買い物からニ週間が経った。
この二週間、ちょこちょこみすずの口腔パーツとして使う生体部品を作っていたら、なんか出来上がった。
口腔パーツなんて言ったが、これも頭髪パーツと同じようにそこまで難しい話ではない。単に目や耳と同じように俺自身の舌を複製しただけだから。
でだ。今日早速接続してみた。
今までは発音用の部品でしかなかったみすずの舌が、生体部品に変わった。
みすずは見るからにドキドキしながら、一世一代って感じでまずはポーションをちびちび舐めていた。
いわく、初めて飲んだ魔力ポーションはほんのり甘かったそうだ。
知らなかった。
ポーションってのは緊急時の魔力補給剤なわけで、普通に生きてたら飲むことなんてないからね。
俺も一口もらってみたよ。そしたら確かにほんのり甘い。
でも俺からすると科学っぽい甘さというか、体に良さそうな感じはあまりしなかった。
俺の舌を複製した筈なのに、味の感じ方に違いがあるのはなんでなんだろうな。
彼女にとっては、ポーションこそが唯一無二のエネルギー源だってのも関わってくるんだろうなぁ。
なんて、一心不乱に楽しんでいるみすずを眺めながらそんなことを考えた。
そうだ。後、そういえば今日からGWだった。
それをみすずに話してみたら、ショッピングモールに行ってみたい、と言われた。
どうにも、人混みを経験してみたいらしい。
そんないいもんじゃないよ、とは勿論伝えたんだけど、それがいいかどうかは自分で経験して判断したいんだと。
すごいね。成長が凄まじい。
もう最近のみすずの変化に、毎日凄い凄いって言ってるような気がする。
親ってこんな感じなのかなぁ。もうこのまま好きなように成長してくれ〜みたいな。
ということで、流石にGW真っ只中は怖いので少し繁忙期は外し、来週の土曜日にショッピングモールへ行くことにした。
行き方はー⋯⋯電車は嫌だなぁ。バス、車。
うん、レンタカーだな。みすずが周りを気にせず景色を見れるように、少し割高だが、車に乗ろう。
【新暦68年5月7日(土)】side:茂田俊丞
俊丞は久方ぶりに免許証を財布から出した。
それをレンタカー屋の店員に渡すと、彼の視線は免許証と俊丞を二度、三度と行き来した。
それもそうだ。免許証には、まだ太っていて、髪も長く、まさしく弱者男性といった見た目の俊丞が載っている。
彼自身も、自分が変わったことは自覚している。が、第三者から見ると、写真と今の彼では、本人が認識しているよりも劇的な変化があった。
そんな店員の動揺に不思議な顔をしつつ。しかし本人確認さえクリアしてしまえば、後の手続きはスムーズに進んだ。
店員から車や返却方法などの説明を聞き、鍵を受け取る。借りたのはスタンダードな国産車だ。俊丞は、少し緊張した面持ちでシートベルトをつけた。
隣にはみすず。店員のお気をつけてー、という間延びした声を背に、二人はショッピングモールへと向かった。
「俊丞。窓を開けてもいいですか? 風を感じるをやってみたいです」
「うん、いいよ。ドアのとこにあるスイッチで開けられる」
「ありがとうございます」
走り始めて少し。三度目の赤信号に引っかかったあたりで、みすずが窓を開けたがった。
俊丞が頷くと、彼女はスイッチに手を伸ばし、目線の少し上くらいの高さまで窓を下げた。
僅かに身を乗り出して、歩道をゆく通行人を眺める。
そのうちの何人かと目があうと、彼ら彼女らは皆一様に驚いたような表情を浮かべ、みすずはそれを不思議に思った。
そこで、車がぐぐ、と揺れ動いた。
「みすず。出発するからちゃんと座ってね」
「はい」
みすずが座り直すと、信号はもう青に変わっていて、車はもう走り出していた。
途端に僅かに空いた窓から、ごうと風が入って彼女の前髪を揺らす。
ややあって風を感じることに集中しようと考え、彼女はゆっくりと目を閉じた。
そんな彼女の様子を、俊丞は運転のさなか、ちらちらと盗み見ていた。
端的に言えば見惚れていたのだ。そのせいで運転が少し疎かになり、車体がセンターラインに寄ってしまっている。
あわてて左に少しハンドルを回し、車体を道路の真ん中に戻した。
そして小さく溜息を吐く。
⋯⋯⋯⋯マジで人間にしか見えないよなぁ。
それは、みすずが起動してから何度も、俊丞が彼女に対して抱いてきた感情だ。
だが最近はその頻度が多くなってきた上、その衝撃の強さとでも言うべきものが、つい先月とは比べ物にならない程大きくなっていた。
───────公になっていない、『Mr.AI』の内部演算の機能に、「外部からの情報を集積し、それに沿ってプログラムの自己改稿を行う」というシステムがある。
みすずも例に漏れず、その機能によって起動から毎日、24時間に一度自身のシステム全般について、設定された生存本能に従って改稿を行っている。
そしてその中で、AIは記録として──つまり文章として、音として、画像や映像として。学習元のソースに基づいた知識を持つ。
が、俊丞と日々の暮らしを行っていく中で、みすずの思考回路は、その「知識」と「実体験」の誤差を幾度となく経験し、それを集積していた。
その結果。
よりAIとして使用者である茂田俊丞に寄り添えるように。設定された生存本能から、稼動状態を少しでも長く持続できるように。
彼女は今、本能に次ぐ重要事項として、「実体験」の収集を行動指針に設定している。
「俊丞。目的とは違うものではありましたが、ドライブというのは、面白いものですね」
「あはは。そう思う? でも本番はこれからだ───そろそろつくよー」
みすずは。みすずの脳内は。
今隣で笑う俊丞が、「楽しさ」の奥底に「不安」「困惑」といった感情を、繊細に持っていることを認識している。
その上で、それを許容してでも「実体験を得ること」を選ぶのは。
その判断基準は、彼女の本能と、改稿され続けるプログラムだけが知っている。
☆
「⋯⋯⋯俊丞。目が回りそう、とは。こういうことだったんですね⋯⋯⋯」
家からは、レンタカー屋を経由しておよそ五十分。俊丞とみすずは最寄りの『ショッピングパークMIKOTO』という大型商業施設に辿り着いた。
東京の北西部に位置するそこは、都心からは程よく離れているのもあって駐車場は広く、しかし電車で行ける距離ということもあり、非常に賑わっている。
だから二人が車を停め、施設内に入ると、早速みすずの目的である、人混みに巻き込まれることとなった。
入って五分と経たないうちに、みすずは目をぐるぐると回すことになった。
それは彼女が搭載された眼球というハイパーセンサーを最大活用して、周囲の情報を認識出来る限り収集しようとし、結果キャパオーバーを起こしたからだった。
俊丞はそんなみすずに手を差し伸ばした。
「厳しそう?」
「……いえ。ただ、少し入ってくる情報量が多くなってしまい……これでも情報処理は最適化しているつもりだったんですが」
「そうか……公園に行ったときも言ってたね。まぁあの時とは物量が違うもんね」
「はい……あの」
そこまで言うとみすずは一度言葉を区切り、傍に伸びていた俊丞の手を掴んだ。
俊丞はもちろん、それに大きく驚いて肩をはねさせた。
「んどど、っどしたの急にっ」
「俊丞。手を繋いで私の行動を誘導してくれませんか?」
「えっ」
「少しの間で大丈夫です。動作コントロールに割いているリソースの一部を一時的に情報処理に回して、情報収集に関するフィルターを今までより一段強くしたいのです」
「あっ、なるほど。そういうことね」
みすずの手を、俊丞が握り返すと、その手は強く握り返された。
それを確認すると、俊丞は今まで隣を並んでいたのを、リードして歩き出す。
みすずは
旗から見るとそれは、俊丞があまり乗り気ではないみすずを連れ回しているかのようだった。
「どう? 調子は」
「良好です。ありがとうございます。後三分程で再設定は完了します」
「了解。適当に人混み抜けれそうなとこがあったら抜けて止まろうか」
「はい。そうしていただけると助かります」
そのまま。二人はしばらく、行く宛もなく人混みの中を彷徨っていた。
しかし少しして、吹き抜けになった広間に出たことで解放される。
広間の真ん中には、上階へと繋がる巨大なエスカレーターがあり、二人はその脇にあるパステルカラーのソファに腰を下ろした。
「───⋯⋯⋯⋯俊丞。ありがとうございました。たった今再設定が完了しましたのでもう大丈夫です」
「そう? よかったー⋯⋯⋯でも俺も疲れちゃった。ちょっと一休みしよう⋯⋯⋯」
ふぅ、と額に軽くかいた汗を拭った俊丞に、みすずは同意した。
二人は揃って周りを見回す。
人。人。人。その奥に服、雑貨、香水と、色彩豊かなショップが並ぶ。
なんとなく、ぼーっと二人で眺めていた。
「俊丞は、何か見たいものはありますか?」
「んー⋯⋯⋯あ、そしたらベルト見たいかも」
「ならそうしましょう。ベルトは二階にあるみたいです」
「おおー。いつの間に調べたの?」
「いえ。そこに各フロアの案内がありますよ」
「あっ」
「おお⋯⋯こことか、ここもあれだよね。レディスファッションのお店だ。折角だしみすずの服も新調しようよ」
「私ですか?────そうですね。試着。してみたいです」
「おお! よし、ならまずは二階から散策してみよう!」
「はい」
話しているうちに落ち着いた二人は、本格的に買い物を始めた。
まずは俊丞のベルトを選び。そのまま同じフロア内にある、レディースファッションを取り扱ったお店にぶらりと立ち寄った。
一着、また一着と、なんとなく良さそうなものを選び、みすずが試着し。
そして二人のどちらかが気に入れば、多少値が張ろうともそれを購入する。
気づいたときには、山盛りの紙袋が二人の腕にかかっていた。
俊丞がふと腕時計を見やると、時刻は既に十三時を回っていて、思い出したように、彼の腹がぐううと鳴る。
「はー⋯⋯⋯楽しかった。すっかりお腹空いちゃった」
「そうですね。私も⋯⋯歩き回ったこともあり、ポーション残量が4割を切っています。そろそろの帰宅を提案したいのですが、いかがでしょうか」
「そうだね、みすずももう満足?」
「はい。十分に堪能しました」
じゃあ帰ろっか。
俊丞のその言葉に、二人はくるりと体を返して、駐車場へと歩き出す。
歩くこと少し、駐車場の入り口が見えたあたりで、俊丞をほんの少しの尿意が襲った。
行くか、我慢するか。俊丞は逡巡する。しかし隣のみすずを見て、まぁほんのすこしならと結論を出した。
「⋯⋯っと、ごめん。ちょっとお手洗い行ってきてもいい?」
「はい。構いません。待っていた方がいいですか?」
「あーいや、先車行って───もらうには荷物多いか?」
「いえ。問題ありませんよ?」
「ん、じゃっちょっと先車行ってて! ごめんいってくる」
「はい」
そうこうしている間に尿意は勢いを増す。
俊丞は両手に持っていた紙袋をみすずに渡すと、トイレへの道を急いだ。
その後ろ姿を少しの間見送ってから、みすずは車へと向かった。
☆
紙袋を持ち直して、みすずは車へと向かう。
両手でおよそ十四個。彼女の脳内ではもちろん、一つに纏めようか、という考えも浮かんではいただ。しかし車までの距離も僅かなことから、彼女はそのままで持ち歩くことを選んだ。
かつ、かつとみすずの足音が響く。
そして曲がり角に差し掛かったとき。彼女の目の前に突然人影が現れる。
「あだっ!?」
「とっ⋯⋯!」
がさがさがさ、と紙袋が宙を舞い、あたりに飛び散った。
人混みに対応するため、動体感知に関わるシステムのパフォーマンスを少し下げてしまっていたのが大きいのだろう。みすずは、その人影とぶつかってしまった。
「あててっ⋯⋯ごめんなさいっ」
みすずはその体組成から、見た目にに使わない重量をしている。
そしてぶつかってしまった相手は小柄な少女だった。それも十代前半くらいの見た目で、更にその年の平均に比較しても華奢で小柄だった。
だから、その少女は大きく転んでしまった──どうやら、脛に小さな擦り傷もできてしまったようだ───が、彼女はそれを気にした様子もなく、みすずの手放してしまった紙袋を拾い始めた。
「あっ、こんな、ごめんなさいっ袋散らばっちゃって!」
「いえ、大丈夫です。貴方も。大丈夫ですか。擦りむいてしまっているようですよ」
思いも寄らぬ事故。しかしそれもまた、何かしらの『実体験』に繋がるのでは。
そんな思考を経て、みすずはいうなれば少し打算的に彼女へと手を差し伸べる。
「───あっすいません────っ!?」
「⋯⋯⋯どうかしましたか?」
みすずの手を取り、顔を上げた少女は、目をまんまるに見開いて驚いた。
固まってしまったのでみすずが彼女の手を引き、立たせるも、彼女はそのまま呆然と、みすずの顔を凝視したままだった。
それはみすずの容姿が人形のようで、非常に端正であるからだったが、自身の容姿について、あまり理解していないみすず本人は、小首を傾げていた。
「───はっ!? すいませんっ! なんかちょっと見惚れてしまってというか!? えーと!?」
はっ!?と、少女はふと現実に引き戻されると、目を四方に散らして慌てだした。
そんな彼女の手から自然に紙袋を受け取り、みすずは今度、袋を両手で抱きしめるように抱え直した。
「大丈夫ですよ。拾ってくださりありがとうございました」
「いっいいいいえ!? オネーサンこそ一緒に拾ってくださりありがとうございました!?」
「えっ?」
「ん? ワワタシ今なんて言ってたっけ??」
これは。
目をぐるぐると回しながら取り乱す少女に対して、みすずは不思議な感覚を憶えた。
興味。観察。人間で言うなれば、みすずは彼女に対して所謂「おもしれー女」認定を内心で下した。
「あの────」
この感覚を深ぼってみよう。みすずがそう結論づけ、口を開いたとき。
俊丞がその場に現れる。トイレが終わって、急ぎ足でみすずのあとを追ってきたのだ。
「────みすずっ、ごめんちょっと時間かかっ────えっ!?」
俊丞は、みすずの前にいる少女を見て、目をこれでもかと見開く。
そして少女も、俊丞のことを認識したと同時に、今度は今までと違う動揺を顕にした。
「───楠木さん!?」
「モブセンっ!!!??」




