表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

断ち切られた愛の物語。

しかし、義政が娘を見つけ出すことはできぬまま、二年の月日が過ぎていった。


義政は焦燥に駆られていた。奇跡的に謀反が長引き、佐々木はまだ都に戻ってはいないが、いつ帰還するかと気が気ではなかった。


山岡家では、匿われたかぐやが秀嗣との間に子を授かり、ささやかながらも満ち足りた日々を送っていた。


しかし、その幸福は長くは続かなかったのです。


乙若城の義政のもとに、待ち望んでいた吉報が届いたのだ。だがそれは、かぐやにとっては、絶望を告げる凶報だった。


「義政様! かぐや様らしき人物を見かけたとの報告が!」


「まことか! して、かぐやは一体どこにいるのだ!」


「はっ! 山岡家にて、美しい女性が匿われているとのことで、かぐや様の顔を知る者に確認させたところ、間違いなく、かぐや様とのこと!」


義政は、怒りに全身を震わせた。まさか、親戚であり、味方だと信じていた山岡家の人間が、かぐやを匿っていたとは……。


「兵を出せ! 山岡家を、根絶やしにする!」


義政は、自ら軍勢を率い、山岡家へと向かった。


その頃、かぐやは、言いようのない不吉な予感に苛まれ、星を読み、山岡家の未来を占っていた。


そして見えた未来に、かぐやは愕然とし、絶望の淵に突き落とされた。


父、義政が軍勢を率い、山岡家を根絶やしにするという、あまりにも残酷な未来を、その目に焼き付けてしまったのだ。


かぐやは悲しみに打ちひしがれ、夜明けまで泣き明かした。


その様子を見た秀嗣は、ただならぬ様子に気づき、慌ててかぐやを抱きしめた。


「どうしたのだ! 一体、何があったのか話してくれ!」


忠嗣と楓も、騒ぎを聞きつけ、心配そうに駆け寄ってきた。


かぐやは、涙ながらに、事の顛末をすべて打ち明けた。


忠嗣は、しばらく黙って聞いていたが、やがて覚悟を決めた顔で言った。


「秀嗣、かぐやを連れて、今すぐ屋敷を出なさい」


「父上! 何を言っているのですか!」


「そうです、お義父様! 悪いのは全部、私なのです。私が月ヶ瀬の地に戻ります!」


「ならぬ! そなただけを行かせるわけにはいかぬ。私も、一緒に行こう」秀嗣もまた、決意を固めた表情をしていた。


「馬鹿者! 行けば、秀嗣は斬首され、かぐやは佐々木の手に落ちる。第一、お前たちがいなくなれば、子はどうするのだ! 誰も幸せにならぬではないか! 二人とも、行くことは許さん!」


「子宝に恵まれなかった我らに、お前たち二人は、本当の愛を教えてくれた。楓、すまない。私と一緒に、死んでくれるか?」忠嗣は、妻の楓に、そう告げた。


「当たり前ではありませんか、お前様。愛する息子と娘のためです。喜んでお供いたします」そう答えた楓の表情は、凛として、気高く、美しかった。


「父上、母上……血の繋がらない我らのために、申し訳ございません……」秀嗣は、声を上げて泣いた。


「さあ、かぐや! 支度をするぞ! 父上と母上の覚悟を、無駄にしてはならん!」


「秀嗣様……私が見た未来は、三日後でございます。せめて今夜は、家族全員で過ごし、明日の夕刻に、ここを立ちましょう」


四人は、子を寝かしつけ、時には笑い、時には涙しながら、朝まで語り明かした。そして朝方、ようやく眠りについた。


かぐやを除いて……。


本当は、軍勢がすぐそこまで迫って来ているのを、かぐやは知っていた。


そして、自分がどうすべきなのかも……。




竹林を抜け、かぐやは山岡家を後にした。幼子を、愛する夫を、心に深く刻み付けて。迫り来る戦火から彼らを守るため、自ら茨の道を選んだのだ。


「義政様! 前方に、かぐや様とおぼしき人影が!」


一人こちらを睨みつけ佇む娘を、義政は氷のような眼差しで見据えた。


「よくぞ戻ったな、かぐや。佐々木様より、謀反鎮圧の報せが届いたばかりだ」


「父上、山岡家への手出しは無用。もし兵を差し向けるならば、この場で舌を噛み、自害いたします」


義政はかぐやの強い覚悟に、一瞬たじろいだ。

「……わかった。約束しよう。山岡家には、一切手出しはせん」


こうして、かぐやは義政の軍勢と共に、月ヶ瀬の地へと帰還した。村人たちは姫の帰還を喜びながらも、その胸の内にあるであろう苦しみを慮り、ひそかに祈りを捧げた。


城へ到着し、牛車から降り立ったかぐやに、一人の兵が深々と頭を下げた。「姫様、おかえりなさいませ」


その声に、かぐやは驚きを隠せない。

そこに立っていたのは、幼い頃から彼女を慕い、いつか必ず城に仕えて姫を守ると誓っていた、月ヶ瀬村の少年、連丸だった。


「……あなた、まさか、連丸?」


義政のもとに戻って以来、初めてかぐやの顔に笑みが浮かんだ。弟のように可愛がっていた少年が、立派な青年に成長した姿に、喜びを隠せない。


「はい! 連丸にございます。約束通り、姫様をお守りするため、城に仕え、お待ちしておりました」


かぐやの頬を一粒の涙が伝った。


山岡家の人々だけでなく、連丸や月ヶ瀬村の人々、彼女を愛してくれる人々が、確かにここにいることを思い出したのだ。


しかし、月ヶ瀬にいられるのは、佐々木が帰還するまでの、ほんの短い間だけだ。


「連丸、あなたは、こんな場所にいてはならない。父上は忠義を尽くすに値するお方ではない。あれは、欲に溺れた妖よ。すぐにここから離れなさい」


「姫様、私が忠義を誓うのは、義政様ではなく、姫様です! どこまでも、お供いたしますゆえ! どうか、おそばに置いてください!」


だが、かぐやはそれを許さなかった。


「絶対に許しません!私はすぐに都へ連れて行かれる身。あなたには帰るべき村がある。すぐに村へ帰りなさい!」


そう言い放ち、かぐやは連丸を突き放した。


それから三日、かぐやは何も口にしなかった。


連丸は、かぐやの言葉を受け入れたのか、あれから姿を見せなかった。


(....良かった村へ帰ってくれたのね)


ある夜、かぐやは夜空を見上げ、夫や子供たち、山岡家の人々のことを想った。


彼らがそこで幸せに暮らしているのか、山岡家の未来を占ってみた。


しかし、そこに映し出されたのは、忠嗣と楓に守られ、父と幸せに暮らす子供の姿ではなかった。


炎が全てを焼き尽くそうとしていた。山岡家は義政によって差し向けられた、百の兵士に包囲されていた。


「くそっ、義政! かぐやを奪っただけでは足らぬかっ!」


秀嗣の白い肌は怒りで紅潮し、美しい金髪は逆立っていた。その顔は、まさに鬼そのものだった。彼は剣を構え、炎を背にに迫り来る兵士たちを次々と斬り倒していく。


「父上、母上、お願いです! 私が時間を稼ぎます!裏口からこの子を連れて、お逃げください!」


秀嗣は、産まれたばかりの我が子を両親に託し、兵士たちが待ち構える外へ飛び出した。


「秀嗣!」


楓が叫ぶが、忠嗣は首を横に振った。


「楓、駄目だ! この子は秀嗣とかぐやの希望だ。我らが絶対に守らねばならん!」


忠嗣と楓は、赤ん坊を抱きしめ、炎に包まれた屋敷から脱出した。


無数の矢が降り注ぐ中、秀嗣は血まみれになりながらも、鬼神の如き勢いで突き進んだ。その異様な姿を見た兵士たちは、恐怖に顔を歪めた。


「な、なんだ、あれは……鬼だ! 逃げろ!」


兵士たちが蜘蛛の子を散らすように逃げ出す中、秀嗣は力尽きそうな声で呟いた。


「……やった……これで、あの子は……かぐや、待っていろ……すぐに行くか……」



ザシュッ!!


「が……っ……」


秀嗣は、背後から迫り来る殺気に気づくのが遅れた。逃げ出した兵士の一人が、槍で彼の心臓を貫いたのだ。


「鬼を討ち取ったぞー!」


薄れゆく意識の中で、秀嗣はかぐやを想い涙した。


「かぐや...すまぬ、先にいく...」


怒りと悲しみが、かぐやを般若の形相へと変えた。その瞳には、憎悪の炎が燃え盛っている。


「義政、絶対に許さない……! 貴様を殺し、私も秀嗣様の元へ!」


かぐやは義政の寝所へ乗り込み、襖を破った。


「き、貴様、物の怪か! 出会え! 出会え!」


突然現れた異形の姿に、義政は取り乱す。


「義政! 私の大切なものを、どこまで奪えば気が済むのだ! 地獄の苦しみを味わえ!」


「ま、まさか、お前は……かぐや……? ま、待て! 実の父に手をかけるというのか! あんな鬼子のために!」


「鬼は貴様だ! お前など、父ではない!」


かぐやは呪詛を放った。


「ぐ、ぐああああああ!」


義政は喉を締め付け、悶え苦しみながら絶命した。


同時刻、遠く離れた都でも、佐々木の屋敷で同じ事が起こっていたという。


かぐやは部屋に火を放った。


「秀嗣様……私も、すぐに参ります」


煙が立ち込め、炎が迫り来る中。


「姫様!」


戸を蹴破って飛び込んできたのは、連丸だった。


「連丸!? なぜここに!? 何をしているの!」


かぐやは驚きを隠せない。


「何を仰いますか。どこまでも、お供すると言ったではありませんか」


連丸は、一点の曇りもない瞳でかぐやを見つめた。


「連丸……貴方、こんな姿になっても私だと分かるのね。父でも気づかなかったというのに……」


「当たり前です。この連丸、どんなお姿であろうと姫様を見間違えることなどありえません」


「ありがとう……最後に救われたわ。でも、あなたは逃げなさい! 私などのために命を落としては駄目よ!」


「姫様...連丸の【連】は、連れ立つの【連】でございます。黄泉への旅路、この連丸も連れて行ってください。それに、もう火の手が回って、逃げることは叶いません」


連丸はそう言い、優しく微笑んだ。


「本当に、馬鹿な子ね……貴方は……」


かぐやは、大粒の涙を流し、連丸を抱きしめた。


「大丈夫。もう、絶対に寂しい思いはさせないよ、かぐや姉ちゃん」


「あら、頼もしいわね。頼りにしているわ。連丸、ありがとう……」


連丸とかぐやは寄り添い、炎に包まれた。


かぐやの死後、城は取り壊され、月ヶ瀬村には不思議な力が宿る。


かぐやに力の使い方を教えられた一部の子供たちが、後に匣守はこもりとして、妖から人々を守る存在になった。


そして、山岡家は、かぐやのことを想い、名を月岡家と改め、月に帰ってしまった姫として、後世に語り継いだ。それが後に変換され、竹取物語として広まったのだ。


その子孫、月岡里美が、約七百年後の未来で大きな歴史の闇に巻き込まれるのは、また別の物語である。

親友4人でタイムリープ、鬼、天狗、河童、そして俺、俺だけモブな妖怪退治ライフ。に登場する月岡里美の子孫としてえがきました。


匣守がどういった一族になるのか、月岡里美はどんな子なのか。

気になった方は本編の方もよろしくお願いします。


      

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ