表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

見えた一筋の光

十日後。出発の朝、かぐやと秀嗣は別れを惜しんだ。


「秀嗣様、またお会いできる日が来ますよね?」かぐやは潤んだ瞳で彼に問いかけた。


秀嗣は優しく微笑み、涙をぬぐう仕草で答えた。「もちろんです、かぐや殿。必ずまたお会いしましょう。」


その言葉に、彼女の胸は少しだけ温かくなったが、不安は消えなかった。一方、義政は苛立ちを隠せず、怒鳴り声を上げた。


「何をしている!早く来い!」


かぐやは、秀嗣と再び会える日を思い描きながら、別れの時を迎えた。


数日後、彼女たち一行は都の大きな屋敷に辿り着いた。


屋敷の門前で、蛇のような目つきをした男が義政に声をかけた。


「おぉ、遠路ご苦労だったな、藤原殿。」その男は冷たい響きの声で話した。


義政は頭を下げて答えた。「いえ、佐々木様のご命令ですから。かぐや、ご挨拶をなさい。こちらの方は、足利尊氏様の遠縁で、側近も勤めていらっしゃる、侍所別当の佐々木長照様だ。」


長照は、かぐやをじろりと見つめた。


「ああ、これは噂にたがわぬ美しい姫だ。」彼の目つきはいやらしく、まるで獲物を見るようだった。


普段心優しい月ヶ瀬の民しか知らないかぐやは、産まれてはじめて嫌悪感を覚えた。


義政は、静かに促した。「かぐや、蝶を見せてやりなさい。」


「良いのですか?お父上……」かぐやは戸惑った。普段は人には見せてはいけないと固く口止めされている力だった。


「構わぬ。佐々木様なら安心だ。」


彼女は懐から小さな和紙一枚を取り出した。指先を優しくその紙に当てて、念じた。


すると、紙は青白い光を放ちながら蝶の形に変わり、ひらひらと舞い上がると、儚く空中で消えた。


驚愕の声が長照の口から漏れる。


「なんと、陰陽の力まで操るのか、此の姫は……!」長照は目を見張った。


「はい、佐々木様。かぐやは星を見て未来を予知することもできるのです。まさに佐々木様にふさわしい娘といえます。」義政は誇らしげに語った。


かぐやには、何を話しているのか全く理解できなかった。


義政は穏やかに言った。「かぐやよ、お前は少し席を外しなさい。」


彼女は促されて席を離れ、しばらく待たされた後、長照の別邸へと移った。豪華な庭園や贅を尽くした食事に迎えられ、華麗な装飾品や着物、無数の土産品を受け取り、月ヶ瀬へ帰る日が近づいていた。


牛車の中、かぐやは父、義政に話しかけた。


「お父様、佐々木様のお屋敷は本当に素晴らしい所でしたね。あんなに見たこともないようなお料理を頂いて、高価なお土産までたくさん……」


義政は満足げに頷いた。「佐々木様は只者ではないお方だ。そなたが嫁げば、藤原家も安泰となる。私も、あの狭苦しい城からようやく解放されるのだ。そなたも、今よりずっと贅沢な暮らしができるぞ、かぐや」


かぐやは、信じられない思いで父の顔を見つめた。「……お父様、それはどういう意味ですか? 私が、佐々木様に嫁ぐと?」


「そうだ。そのために佐々木様にお会いして頂いたのだ。佐々木様は、そなたを大変気に入られたご様子だった。良かったな、かぐや」


義政は、かぐやを政略結婚の道具にしようとしていたのだ。


「そんな……! 私の気持ちはどうなるのですか? 私は、絶対に嫌です!」


「何を言っているのだ! 地方の小さな城から都へ、しかも足利様のご親戚になるのだぞ。これ以上の幸せがあるものか!」


「私は、都に住みたいなどとは一度も言っていません!」


かぐやには、どうしても承諾できない理由があった。見知らぬ男に嫁ぐことへの抵抗もさることながら、何よりも、秀嗣の存在が胸を締め付けていた。


「まさかお前……山岡家にいた、あの鬼の子を慕っているというのではないだろうな!? あのような異形の者との縁談は、絶対に認めんぞ!」


「秀嗣様は鬼などではございませぬ!」


かぐやは絶望に打ちひしがれた。たった十日間とはいえ、初めて心から愛した人を、十六歳の少女が忘れられるはずもなかった。


その夜、一行は牛を休ませるため、牛車を停めて休憩を取っていた。かぐやは外へ出て、秀嗣への募る想いを胸に、夜空を見上げた。


ふと気づくと、かぐやは牛車を離れ、走り出していた。秀嗣に会いたい一心で、どこへ向かっているのかもわからぬまま、ひたすら道を駆け抜けた。


朝になり、通りかかった人に道を尋ねると……偶然か、運命か、そこは山岡家のすぐそばだった。



「山岡さま! お助けください!」


かぐやは、藁にもすがる思いで山岡家の門を叩いた。


重い扉がゆっくりと開き、中から現れたのは、紛れもなく秀嗣だった。


「かぐや殿! そのお姿は……! 一体、何があったのですか!」


事の顛末を聞いた山岡家の当主、忠嗣と妻の楓は、かぐやを心底気の毒に思い、屋敷に匿うことにした。


「山岡様、本当に何とお礼を申し上げれば……。このご恩は、必ずお返しいたします。下女でも、何でもお申し付けください」


忠嗣と楓は、優しくかぐやを抱きしめて言った。


「何を言うのだ。そなたは、秀嗣と夫婦になるのだろう?もう、私たちの娘同然ではないか。何も心配はいらん。安心して、ここで暮らしなさい」


かぐやは、二人の温かい言葉に、とめどなく涙を流した。


「父上と母上も、そう言ってくれている。もし、そなたが嫌でなければ……どうか、私と祝言を挙げてはくれないだろうか」


「はい、よろしくお願い申し上げます。お養父様、お養母様、秀嗣様……本当に、ありがとうございます」


その夜、かぐやは山岡家の優しさに包まれ、眠りについた。


一方、かぐやの父、義政は血眼になって娘を探し回らせていた。


「いいか! 必ず、かぐやを探し出せ! 佐々木様は、地方で起こった謀反を鎮めるため、明日出発される。佐々木様がお戻りになるまでに見つけ出さなければ、藤原家は滅亡だ!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かぐやの子孫月岡里美が登場する本編です!是非ご覧ください! 親友4人でタイムリープ、鬼、天狗、河童、そして俺、俺だけモブな妖怪退治ライフ。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ