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烏賊戦記  作者: シロノクマ
*三章*ゲソ汎用性が留まるところを知らない
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13話:烏賊の華麗なる会計

〈学園〉のシンボルたる巨大な学舎が鮮やかな赤に染められ繁華街に大きな影を落とす夕刻。


 一頻りスイーツを堪能して歩いたエステルとスクイドはテラスの席が小洒落た雰囲気の店を最後の〆に選び、今は食後の余韻に浸りながら爽やかな紅茶の香りを楽しんでいた。


「さすがに、ケフッ、食べすぎましたね。イザベラの夕食が入るでしょうか……」


「自分としてはまだまだスイーツの探求と見識を深めたい所だが、帰りを待つイザベラの料理に安堵感を求めてもいる」


「……あなたは胃袋も化け物でしたね。まあ、仰る事もわからなくはないですが」


 取り止めもない会話をしていた二人は不意にテラスの側を通り過ぎた存在へと同時に視線を向けた。


「まだまだ暑さの余韻残るこの時期に全身を覆うローブ……怪しい、非常に怪しいですね」


「ふむ、自分はあの者の雰囲気に興味がある」


 二人が同様に目線で追いかけた人物は顔をフードで隠しその全身もローブで覆った、然もありなんと言わんばかりの不審者だった。


「雰囲気? といいますと?」


 スクイドが向けた興味の方向性に疑問を抱いたのかエステルは首を傾げる。


「人種であることに間違いはないと思うが魔の気配が濃ゆい。【鑑定】では『魔族:異形種』と出ている」


 エステルはスクイドの言葉を聞くなりガバッと席を立ち上がりスクイドの手を取った。


「魔族の異形種は世界評議会に加盟していない者たちのため、この都市への立ち入りは禁止です! 事件の匂いがします!! すぐに追いかけましょう」


 王女とは。


 そんな問いもエステルに関しては今更だとスクイドは思考を切り替え、テラスを飛び越えて先行した彼女を追う。


 太古の化け物たるエンシェント・カオス・クラーケンという本性を持つスクイドは、素早く席にかけられていた伝票を手に取り、澱みのない動きで颯爽と会計に向かい、並んだ。




 ***




 人通りもまばらになり始めた時刻。


 宵闇が辺りを包み込むように帷を下ろし始めた路地の裏通りを怪しげな動きで物陰から物陰へと移動するピンクブロンドの髪をした少女が一人。


「むふぅ、立ち入り禁止の種族を捉えただけでも多少の功績にはなるでしょうが……やはり目的を見破り怪しげな計画を阻止してこその『お手柄』ですよね」


 路地裏にて、王女という言葉が憚られる程に卑しい笑みを浮かべたエステルは遠目にローブの人物を捉えながら一定の距離を保ち、見失わないように尾行を続けている。


 周囲の人々はそんな怪しくヤバい微笑みを浮かべた少女を通報するべきか悩んでいるのだが、そんな些事には構わず、エステルは深い路地の奥へと足を踏み入れてゆく。


「おや? おやおや? 誰かと待ち合わせですか? ふむ、ひと一人入りそうなズタ袋にチンピラ風の人族……人身売買ですね、なるほど」


 全くひと気のなくなった路地奥の袋小路で立ち止まったローブの人物は明らかにガラの悪い人族の男から大きな荷物を受け取る代わりに金銭を渡そうとしていた。


 その瞬間を目視したエステルは念の為持ってきていた愛剣の柄に手をかけ、身を低くした状態で疾走。


 怪しい人物が振り返るよりも早く背後へと移動し、


「闇取引の現場! 抑えました!! 

 正義の執行人、華麗なる剣の姫エステル。極悪非道を打つ使命故!推して参りますっ!」


 惚れ惚れするような名乗りを盛大にブチかまし、不意打ちの意味を台無しにしたエステルは愛剣を鞘から走らせローブ姿の魔族へと斬りかかった。


「——っ! っチ、邪魔だ女!」


 エステルの振り下ろしを余裕の素振りで躱したローブの中から粗暴な声が響く。

 

 その男性よりも高いハスキーな声に相手を女の魔族であるとエステルは判断。


「女性の魔族! ふふふ! なるほど、わかりましたっ! 夜な夜な人族を攫うあなたの正体、あの悪名高い懸賞金付きの異形魔族! 『カマキリ婦人』ですねっ!」


 右に左に人族の可動域では不可能な変則的回避でエステルの攻撃を回避し続けるローブの魔族は必至の声色で叫んだ。


「知るかよっ、そんなダセェ二つ名持ち! 誰だよっ!? というかお前が一番誰だ女っ!!」


 言動に残念な印象を抱かずにはいられない王女ではあるが、打って変わって紫電一閃の剣技は冴え渡り、ローブの魔族は焦燥に駆り立てられていく。


「おいっ仲介屋! 見てねぇで助けろよっ!」


 魔族は袋を運んできたチンピラに必至の助力を願うが、


「いや〜無理っすね。オレ、実力とかわきまえてるタイプなんで。正直、チラチラ見えてる美少女剣士さんの『純白』で眼福。お腹いっぱいっすわ」


 ローブ姿の魔族が「クソ野郎」と悪態をつく中、はたとチンピラのイヤらしい視線に気がついたエステルは慌てて翻っていたスカートを手で押さえた。


「な、な、なんという屈辱! あなたは斬首確定ですっ!!」


 赤面した表情でわなわなと口元を震わせながらチンピラへと剣をむけたエステル。


「あたいは一旦引かせてもらう! 仲介屋! ()()は丁重に保管しとけよっ!?」


 エステルの気が逸れた一瞬の隙をついて飛び上がったローブ姿の魔族は何もない壁に対して垂直に立つと凄まじい速度で建物の上へと辿り着き、逃走。


「あ! 逃しませんよ!?」


 エステルは怯むことなく壁と壁を三角跳びの要領で交互に蹴りながら建物の上へとローブ姿の魔族を追いかけていった。


「お〜、眼福、眼福」


 真下ではチンピラ風の男が合掌を捧げていた。


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