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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

国を滅ぼしたいと祠を壊した女が言った

作者: 高月水都

祠壊しちゃったという流れに乗りたかった。

「お前。何その祠を壊してんだ」

 エンリケは不思議そうに祠を壊した女に声を掛ける。


「ここには、かつてこの国が滅ぼしたある民族の呪いが封じられているんだぞ」

 もっともこの国の歴史には一切残されていないのだがな。


 ここの国の王がとある民族と協力関係を結ぼうと族長の妹と婚姻をしたのだが、王は民族の隠していた財宝を得るために族長の妹と婚姻をして妹から聞き出したのだ。


 財宝を手に入れたとたん婚姻も協力関係もなしにして、男は全員殺し、女は奴隷にして売り飛ばした。その民族の恨み辛みが呪いになって王を襲ったのだが、呪いを何らかの方法で封じ込めて祠にしたのだ。


「………」

 女は何も言わない。


「言い訳もないのか?」

 せめて壊したことに対してリアクションとかあればいいのに、全くの無反応だ。


(変な奴だな) 

 いや、変というよりも……。


「なあ、お前……ちょっと失礼」

 ふとそれに気付いて顎を掴んで無理やり口を開かせる。開いた口、その中にある舌は醜く焼き鏝がされてあり、言葉をしゃべれないように呪いが掛けられている。


「なんでこんなの……って、文字は書けるか? 何でこんなことになっているんだ」

 教えてくれと紙とペンを差し出すと、貴重な紙がすんなり出てきたのでそこで初めて反応らしきものが出てきて動揺している。


 やっと反応らしい反応が出たなと思いつつ差し出した格好で女が書き出すのをじっと待つ。


「………」

 女は躊躇いつつも手を伸ばして受け取ると、そっと紙質を確かめてきちんと書けるか試し書きをしてからきれいな字で書き始める。


 この祠のことは知っていた。

 呪いが本当にあるのなら呪いが広がればいい。

 いっそ、わたくし自身が呪いに汚染されても構わない。


「………なんでそんなこと思ったんだ」

 自暴自棄に思われるが何処か冷静な感じだな。俄然興味が湧く。


 女は次々と書き連ねる。


 女は元は孤児で公爵令嬢に運良く拾われてメイドとしてお傍に仕えた。

 その公爵令嬢は王太子の婚約者で未来の国母になるはずだった。


 女の文字を読みながら魔法を使って情報を収集する。

「……国家反逆罪で公爵令嬢が一族もろとも処刑されたとか」

 ぴくっ

 女が反応する。


(なるほど……)

 その公爵令嬢がこの女の主人だったのか。


 国家機密を持ち出したという噂話だったが、公爵自身ならともかく【令嬢】が持ち出すなんて妙な話だと思ったが王子の【婚約者】なら可能か。まあ、可能であって、それもまた問題だが。それに、その事件が発覚してすぐに件の王子が男爵令嬢と婚約を発表なんてもおかしいものだと思えるのだ。


「婚約者とはいえ、まだ王族ではない女性が国家機密が触れられる場所にいる時点で妙な話だな。そんなところに入り込んでいるほど国家機密に関わっているのかこき使っているか。


 女の字が怒りのためかどんどん乱れてくる。それでもまだ綺麗さを留めているのは女の矜持ゆえだろう。


 王子が浮気をして、邪魔になった公爵令嬢に婚約破棄を宣言した。王子は自分の責務を公爵令嬢に押し付けてきたのでそれをばらされたら困るので冤罪で処刑した。


 公爵令嬢が今まで行った政策で生活が楽になったはずの人々はその恩を知らずに罪人に石を投げて罵声を投げつけて。


「なるほどな。それを知っていたお前は声を封じられたか。識字率も高くないし、字が読める者らは元孤児のお前の話を聞かないか、王家に目を付けられたくないから黙っている」

 胸糞悪い話だ。


「だから祠を壊したのか?」

 頷く女。


「まあ、呪いを信じていたらしてみたくなるな」

 公爵令嬢の一族もろとも。おそらく政敵も関与しているだろう。下手をすると女の友人も殺されているかもしれない。


「ああ。ならば仕方ないな」

 呟くと同時にずっと自分の中に蠢いていた呪いをすべてぶちまける。


「なあ、お前の王家に伝わる宝玉――賢者の石はまだ宝物庫にあるか?」

 女は少し考えて、

「………」

 ある一行を書いていく。


「それは都合いいな」

 この復讐にもってこいだ。





 

 雲一つない晴天。

 王族の結婚は代々そういうものだと孫に説明する年寄りの姿。


 賢者の石を使って、必ず晴れるように魔法を使っているのは一部の者しか知らない事実なのでそれが吉兆の証だと民は思い込む。


 大勢の民が集まる中バルコニーから花婿の王子と花嫁の男爵家令嬢が姿を現す。二人の傍にはこの国に代々伝わってきた宝玉――賢者の石。


「我々は王族として国のため、民のため尽くすとこの賢者の石に誓うと宣言する」

 王族の結婚式はその言葉で締めくくるのも代々定められていた決まり。


 王子の宣誓に見に来ていた民は歓声を上げる。

「――ほう。そうか」

 だが、ここからがいつもと異なった。


「――その宣誓、誠なんだな」

 賢者の石から響く声。


 いつもならあり得ない状況に王子と花嫁の男爵令嬢が賢者の石から距離を置く。


 賢者の石から黒く澱んだ瘴気が出現する。


「なっ、なっ、なっ………」

「きゃあぁぁぁぁぁぁ!!」

 腰を抜かす王子に悲鳴を上げる男爵令嬢。


 見に来ていた民たちは阿鼻叫喚と逃げようとするが、賢者の石から湧き出た瘴気はあっという間に民らを包み込む。


 賢者の石――魔力増強装置。

 わずかな魔力でも威力を増大し、魔法を使う者の負担をすべて受け入れてくれる道具であったそれは使い手が正しいことに使うと宣言して使えるようにプロテクトがされていた。


 今までの王はその誓いを守ってきたのだろう。だけど、今その誓いを行った王子は公務を婚約者であった公爵令嬢に押し付け、男爵令嬢に浮気して、邪魔になった公爵令嬢を冤罪で一族もろとも処刑させた。


 そんな者が誓う言葉は薄っぺらいと賢者の石が判断したのだろう。今まで貯蓄されてきた魔法の負担が逆流して、瘴気という形で溢れ出る。


 今まで与えた分の加護と言えるほどの補助。

 それが一気に解放されたのだ。どれだけの瘴気がこの国を覆うだろう。


「しかも祠に封じられた呪いも相俟って被害は膨大だ」

「………」

「まあ、賢者の石の負担を考えたら、何もしなくても数年後に同じことが起きたがな」

 高みの見物とばかりにエンリケ――滅ぼされた一族の最後の族長。妹の婚約者であった王族に裏切られて殺された怨霊が愉しげに嗤う。


「我が一族は賢者の石の負担を和らげる方法を知っていたが、それを知らないで使い続けてきたからな」

 まあ、幸か不幸か今までの王族は比較的まともな使い方をしていたようだが、それでも多少は石も摩耗する。


 女はじっとこっちを見てくる。どうして自分はまだ無事なのか尋ねたいのだろう。


 言うつもりはない。

(一族の末裔だったからだなんて)

 滅んだ一族。男は殺され、女は奴隷にされた。その奴隷にされた者の誰かの子孫なのだという事実を。




「呪いの集合体になったから昔は使えた治癒などは出来ない」 

 だから、その焼き鏝を治してやれない。


「すまないな」

 女に告げるが女は首を横に振る。自分も呪いで死ぬつもりだったのだそんな事望んでいない。


「お前。名は?」

 呪いを撒き散らして消えるつもりだったが、ふと気になって問い掛けると女はそっとエンリケの手のひらに触れて文字を書きただす。


「っ⁉」

 それはエンリケの奴隷にされた妹と同じ名前だった。


「ああ、そうか」

 偶然だとしても運命を感じた。


「最後に……自我のあるうちに会えたのがお前でよかったよ」

 そっと頬に口付けをして、エンリケはそっと消滅する。この国全てに復讐を撒き散らすために――。

滅ぼされた一族は賢者の石に溜まった瘴気を瘴気が無くては生きていけない魔獣を家畜化して育てるために利用していました。

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― 新着の感想 ―
なるほど、魔獣の家畜化の為に溜まった瘴気を使っていたのですね。それが持続可能な賢者の石の活用の秘訣だった、と。 この国の王族は代々、婚約者を裏切って栄えてきたわけですね。相応の報いを受ける時が来たよう…
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