ヴァンパイア ジョスフィルネイル
こんなことでは起きなかったことがある。
起きるはずがないことが起きてしまったのはこんなにも勢いがよく起きてしまうのだろうか。
何が起きるにしろ、何かの前兆がある。こんなところで絶対に起きないことでさえ、起きてしまう。
ヴァンパイア。
それは血を飲む獣。
血を食い、血を吸い、己を美しくたもつ、とても美しく気高い生物である。
僕はそんなヴァンパイアに出会ってしまった。
ヴァンパイアにあったのは路地裏でもなく、じっとりしたヴァンパイア城ではなく、
満月の夜でもない、月食でも、日食でもない、ブラディムーンの夜にその姿を形取るわけでもない。全くゴシックしていない場所で出会った。
それは快晴のまるで夏が具現化したような。新海誠の映画がスクリーンから出てきたような。ある意味AIで作られたようなディスクリプティブな夏景色だった。全く晴れている清々しい昼に、ヴァンパイアの3トンくらいありそうな衣装が照らされて、幾何学模様の風がひたすら計算されているように煌びやかだった。こんなに綺麗だと魔法によって1000年生きているよりも科学によって、生物にして1000年生きていることに納得がいく。その事実も含めて、とても綺麗だった。
ヴァンパイアの名前はジョスフィルネ。かっこいいのか可愛いのか、庶民なのか貴族なのか分からない微妙なところを攻めている名前だった。
そんな彼女は僕をみた次の瞬間に持っていた刀を僕の腹に突き立てた。
あまりに急すぎる展開に、僕の短い人生が終わることをなぜかすぐ悟った。
あまりにも短い人生、20年を。
「うぬは、妾の一部となれ。アクアで幸運だと思え」
そこは『あくまで』だろうと思いながらも、そんなことを言っている時間はなかった。僕はなんとも血だらけになっていたからだ。血を飲む吸血鬼にとっては僕はまるでチョコレートファウンテンのようだろうと事実的にみて思った。どんなことにも終わりはある、ただ運が悪かっただけ。
僕の頭は目にくっつくようにぼーっとして、視界もあるのかないのか、どれが景色でどれが目の裏なのかが分からなくなってきていた。
しばらくして目が覚めた。
目が覚めたということは僕は生きているのだろう。
こんなことがあってもいいのだろうか。僕はヴァンパイアに殺されたのに。いや、ということは。
「うぬは死んでいるぞ」
眷属になった、と言いたかったが、ヴァンパイアに遮られた。キャラ作りがきちんとできている、1000年キャラ作りパイアは、僕をみていった。
「生きていないって抽象的だな、事実的にどういうことなの?」
「うぬは、妾の意識の中に囚われており」
うーん。分からぬ。つまり、僕は意識だけの存在なのか?確かに僕の体はあるが、触ることができない、ただ透けている。
「うぬは意識の中で妾の下僕じゃ。何があっても離れるでないぞ。妾が興味をなくした瞬間に存在が消えてしまうのでな」
なんだというのだろう。こんなことがあるんだったら何があっても彼女の気を引かなくてはいけない。しかし、重要なことに彼女の何も知らないのだ。ジョスフィルネは紙を書き上げながら、全く暑そうにも一塊もせずに振る舞っていた。痩せ我慢をしているにしては汗を一回も書いていない。
いや、ヴァンパイアって日が弱点じゃなかったけ?どういうこと!
「ジョスフィルネ」
名前を呼んだ瞬間、僕の意識は中性なのか、夏の日本なのか混乱してしまった。ジョスフィルネはこちらを向、かずに、ずんずんと歩いて行ってしまった。
どうやら僕の話は耳に入っていないか、入れていないらしい。
僕は下僕らしくないため息をして、こうして1000歳のヴァンパイアのイマジンフレンドになったのだ。
幸運なことに、これまで7ヶ月、いまだにジョスフィルネの意識からは片時も消滅してはいない。