第95話 献納
「ねえ、起きてる?」
その言葉でマルクスは目覚める。古い石造りの壁と床、どことなく湿っていて暗い。目の前には鉄格子があり、自分1人。両手を動かそうにも手足は完全に拘束され、動かすことすらままならない。
「こっちだ、こっち」
その声の方向は向かい側の檻からであった。マルクスが這いずるようにゆっくりと檻の方に近づくとそこには女がいた。
金色の短髪の髪、全身の至る所が包帯で巻かれており、左目も包帯で巻かれ、凹みから左目はおそらく潰れている。
「そんな引き攣った表情で.....まあここにきたから当然だよな、名前は?」
「.......マルクス......」
「聞いたことある、リアスタの殺戮者だろ? もっとイカれたやつだと思ってたが、随分と静かなやつだな」
2人の間には沈黙が続く。見回りの看守すら来ない静寂、痺れを切らすように女は話す。
「そういえば私の名前を言ってなかったな、ガイルだ、よろしく」
ガイルは檻をコンコンと叩くと笑う。
「これ、すごく硬いんだ。極悪人を絶対に逃さない、そんな意思を感じるんだ、まあ殺戮者はこの階層に囚われるだろうな」
「.......お前もか....?」
マルクスの問いに対してガイルはキョトンとした表情になると、包帯に巻かれた自身の手を見せる。
「私は殺人だ、だけど恩恵のせいでここにいるんだよ」
「そ、私の恩恵、[血生成]だ」
「.....血で武器でも作れるのか?」
ご名答、と言わんばかりにガイルはニヤリと笑う。
「まあ使ったら殺されかねないから使えないがね、そんなわけでいつでも武器が使える私は場違いにもここにいるってわけさ」
「じゃあ....武器を作れるんだな?」
「武器として使える時間は少ないし.......おっと......」
その時、足音が木霊する。少しずつ足音は大きくなり、見回りの騎士がマルクス達の檻のところまで来ると、マルクスの方を向き、数秒ほど溜めると発する。
「犯罪者マルクス、処刑を執行する」
その言葉と共に騎士たちが大勢現れると檻は開かれる。
マルクスはロープを引きちぎろうと腕に力をこめるが、びくともしない。必死に抵抗し続けるが、マルクスはそのまま騎士たちに捕まってしまうのであった。
目隠しをされ、辺りを確認することはできない。音と全身にかかる感覚からして馬車で護送されているのだろう。レルフェンスやベンクトは逃げ切れたのだろうか、他の生き残りはいるのか、マルクスの中で絶えず思考が動く中で、それを止める一声がかかる。
「降りろ」
その言葉と共に、腕を捕まれ、それについていくように馬車を降りる。他の足音もするため他にも何人かいるのだろう。
そして何か木製の階段を上り、視界に光が走る。
眩い光と共に現れたのは群衆、おそらくナニリニックの中央、5人の部下がそこには居た。そして明るい晴天とは真逆の冷徹さを感じさせるような斧を持った兵士たちがそこにいた。
「魔族マルクス、お前はリアスタの民を殺し続けた、今こそその罪を償う時が来たのだ」
「がっ......———!!」
その直後、ムチでマルクスは背中を打たれ、その場に倒れる。痛みは非常に濃く、身体に刻みつけられる。何度も叩かれる中で歯を食いしばることしかできず、暫く拷問は続く。
群衆から投げられる石と罵声。
冷ややかな視線
死に怯えるもの、絶望するもの、受け入れるもの、部下がどのような感情を持っているかは確かではないが、きっとそうなのだろう。
言い残す言葉は......ないわけではないが俺が言う必要のない言葉だ。
振り上げられる斧を見ると、マルクスは目を閉じた。
だが、その時に起きたのは、首が飛ぶ感覚でも、血が流れることでもなく、金属音が鳴り響いた。
マルクスが顔を上げた時、そこには仮面をつけた男がいた、剣で斧を弾き飛ばすとマルクスの枷を切り離す。
「立てるか?」
それと同時に部下たちも解放される。仮面を被った集団たちである。
「貴様....何を...!!」
騎士が武器を持ち、仮面の集団を囲むが、すぐさま大量の閃光弾を取り出すと、それを周りにばら撒き一斉に光を放つ。
そして皆の視界が戻る頃には、仮面をつけた集団は既にいなかった。
「捜索しろ!! 絶対に見つけ出せ!! 黒龍騎士団を今すぐ呼び戻すんだ!!」




