第93話 それは大粒の雨のようで
マルクスはジャガーとゴートの方を指差すとレルフェンス、ベンクトに聞こえる声で話し始める。
「恩恵を消す恩恵、もう1人は[縮地]だろう、残り3人についてだが———」
その瞬間にジャガーの剣撃が一瞬にしてマルクスの首元まで飛ぶ。だがマルクスはすぐさま崩剣で防御をするとそのまま[魔剣]で吹き飛ばす。
ジャガーが吹き飛ばされたその時、ホーク、そしてリザードがマルクスの前に現れ剣、モーニングスターを振るう。4本の武器を崩剣一つで弾きながら、マルクスはレルフェンスの方を見ると支持する。
「レルフェンス......すぐに敵の殲滅だ」
その言葉と共にレルフェンスは両手を地面に当てると、その一瞬で巨大な結晶が騎士とマルクス達を分断する。
「今すぐ距離をとる。レルフェンスとベンクトは先に行くんだ......俺が時間を稼ぐ.....」
「いくらマルクスでも.....いや、わかった」
レルフェンスはマルクスの提案を断ろうとするがマルクスの目を見て了承する。
「死ぬなよ」
「....ああ」
2人が森を走り抜けるのをみてマルクスはフッと笑うと正面を見る。結晶の剣山は崩れた。騎士たちは半円でマルクスを囲む。ヴォルガーとの連戦で疲弊している。戦うことも難しい。だが時間を稼ぐには十分だ。
*****
暗い、私は何を恐怖している? 恐ろしい、辛い、苦しい、今から起きることが.......もう後戻りできないような恐怖...........何.....?
SAVE
満月の光る月夜、森がある。身体がひどく痛い。痛くて痛くてたまらないが、それ以上に心にぽっかりと穴が空いたような、そんな感覚だ。
「起きたのね.......リルート!!」
ラティナの言葉でリルートは意識が少し覚醒する。手足の感覚がゆっくりと戻る。
リルートは痛む体を酷使しながら周りを見ると負傷者たちが見える。
「アモスは.........?」
「..........アモスは....」
ラティナは俯き口をつぐむ。それをみてリルートは目頭が熱くなる感覚に襲われそれと同時に息が上がり始める。
異常な呼吸音、落ち着かせたくてもできないくらい動揺してる。自分でも落ち着こうと必死に、ゆっくり呼吸できない。指先一つが認識できないくらい世界が暗い。ダメだ。ダメだ。ダメだ、ダメだダメだだめだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだ———
「リルート!!」
その言葉で顔を上げる。暖かい手の感覚がある。手を握られている。そして頬を伝う涙を認識する。ポツポツと、降り始めの雨が大粒になるように、ボロボロと止まらない。
今までたくさんの人の死を見てきて、敵を殺し、味方を殺された。それでもこんな感情になったことがなくて........
暖かい。
彼の顔が鮮明に思い出せる。彼の過去はわからないし、1年一緒にいただけ、だけど......「悲しい」なんて言葉だけじゃ表せないような激情。
声を出してリルートは泣き続けた。悲鳴にもならない声で。感情を吐き出し続けた。子供のように泣きじゃくり続けることに意味はあるのだろう。
意識もしっかりとして落ち着き始めると酷く冷静になるもので、アモスが生きてる可能性は絶望的、状況的に逃げ道がないのだから。だが一つの言葉がリルートの耳に入る。
「黒龍騎士団とマルクスが戦闘中だ! レルフェンスとベンクトが逃走中! 動けるものはきてくれ!!」
「.....行かないと....」
リルートが立ち上がるのをみてラティナがスカートの裾を掴み止める。
「待って、まだ精神的にも不安定だし........それに今は......」
「私は.........やるべきことがある」
その言葉は非常に重かった。今までにないくらい覚悟があった。
アモスを失ったことがまるで現実感がない、草木一つ一つを踏み潰す音が耳に入る。だが不快ではない。 私は私がすべきことをする。それが答えだ。




