第89話 アモス
「———テラストーンリビテーション!!」
崩れた石はゆっくりと浮遊し始め、ラティナの目線ほどの高さまで浮くと、一気にフォルトナに向かって飛ぶ。
その一瞬、魔法攻撃の間にもリルートとアモスは追撃をしようとそれに続く。集中的に石が集まるそこへ、アモスは重剣を振り下ろす。
轟音が鳴り響き、粉々になった石が埃をあげ、視界が煙る。リルートはすぐに火薬に火をつけて、石煙を吹き飛ばしたその時、フォルトナは煙から飛び出し、リルートをウルミで斬り刻む。
「リルート! 今すぐ後退し———」
ラティナは残りの石をぶつけようにもリルートが射線に入り投石できない。リルートはすぐさま復剣を振おうとするが顔面を蹴られ、リルートの意識はそのまま暗闇へと落ちる。
「今のは危なかったね、やっぱり不利な戦いだよ」
フォルトナはリルートの髪を掴むと、その場に座らせるように姿勢を保持させる。
「これで魔法は撃てないんじゃないかな?」
フォルトナはリルートを盾にするようにゆっくりとその場にしゃがむとアモスの方を向く。
「君も同じだ、その[重化]じゃリルートを巻き込む。でも俺は君を攻撃できるんだよ、こんなふうにね———」
ウルミの斬撃をアモスは後ろに跳ぶことで避ける。そしてアモスと距離が空いたその瞬間、フォルトナはラティナのいる方向に走り出す。
「マグスキャント———ッ!」
「流石にずっと石を浮かせてたら魔力を消費するだろ?」
石を浮かせるのをやめた瞬間、その一瞬があれば魔法の詠唱は間に合わない、フォルトナとラティナの距離は一瞬にして縮まり、詠唱する暇もなく。落ちている石レンガでラティナの頭を殴りつける。
ラティナは頭から血を流し、その場でうつ伏せに倒れる。アモスは重剣を構え、ゆっくりと歩いてフォルトナと距離を詰め始める。
「まあ、3人は流石にきつかったけど、君1人じゃもう無理じゃないかな?」
アモスは既に疲労がひどい、出血で頭も回らない。フォルトナは連戦で息を切らし始めてるものの、こちらの方がずっと余裕がない。
......
その時アモスの記憶の隅、脳のわずかな隙間に隠されたような記憶が、頭によぎった。
「......なんだ.......?」
思い出した。僕は......耐えられなかったんだ。
*****
「お、いたよ! 三匹だね!」
リアはすぐさま走り出し、グレムリンを切り払うと僕もそれに続こうとしたそのとき、後ろからとんでもない殺気を感じ、後ろを見ると、そこには先ほどのオーガがいた。
「あ...ああ.....」
そのとき、僕がどんな顔をしていたのか、覚えてない....だが覚えているのは死を覚悟していた、それだけだ。
「アモス!!」
リアがこちらに来る、だが既に腕を振り上げ....とても間に合わない。僕は目を閉じた。
この時........僕は.....嬉しくて、笑っていたんだ。
*****
僕は目をゆっくり開くと、目の前に血濡れになったリアがいた。
「リア....!! なんで...!!」
僕はリアの傷を見る、地面は血まみれで....リアが生きてるのに.....もうすぐ死んでしまうのがわかった時...悲しみではない、怒りでもない感情が僕を襲う。
僕はゆっくりと立ち上がり、剣を構える。
「アモ....ス....逃げ....」
リアの忠告が耳に入るが....もうどうでもいい、このままいけば———
———僕は今のリアと一緒に死ねる。
老いるリアが、僕を好きじゃなくなるリアが、今の天真爛漫なリアが消えることが、僕には耐えられない。
リア
リア
リア?
君のことを考えていると胸がずっと締め付けられた、僕のことを好きになったまま死んで欲しい。僕のことを思って死んで欲しい。僕のために命を掛けて死んで欲しい。
嗚呼........なるほど、僕はそう思っていたんだ。
自分はその記憶を思い出した時、酷く吐き気がした。戦闘中でありながらも、それ以上に今の痛みすら超越するほどの不快感、これこそが、罪悪感の正体.......
..........記憶障害
自分は.....いや僕は....罪滅ぼしする必要が....あるんだろう。
もう過去を戻すことはできない。せめて、今僕ができる最大をするんだ。
アモスはフォルトナの方向に向かって走り出すと。重剣で薙ぐ。斬撃は軽く避けられ、フォルトナのウルミによる斬撃がアモスの足を斬り刻む。
アモスはその場に蹲り、フォルトナはゆっくりと歩きながらアモスに近づく。
「君1人じゃできることなんて限られてるんだよ、いい加減諦めたら?」
アモスはゆっくりと立ちあがろうとするが、うまく立ち上がれず、顔面を強打する。だがそれでも立ち上がると、フォルトナの方に力無く走り出すが、蹴り飛ばされる。
[受け身]で地面にぶつかった衝撃はない、ラティナのところまで吹き飛ばされ、アモスは自身の巻いている青いマフラーを外すと、その場に落とす。
「気合い入ってるなぁ、でもそんなの意味ないんだ」
フォルトナのウルミによる斬撃が左腕に突き刺さり、すぐに引き抜かれる。血が地面にボタボタと落ち、既にアモスは満身創痍だ。
そして次の瞬間、ラティナがすぐさま立ち上がる。
「アモス! やりなさい!!」
ラティナが立ち上がったことに意識が向いたその瞬間、アモスは今までにない声で叫ぶ。
「ラティナ! リルートを連れて外に!!」
その言葉と同時にアモスはフォルトナに飛びかかり、フォルトナは体勢を崩してその場に倒れ、アモスは覆い被さる。
ラティナはリルートを背負い出口へ走る。それを見て、アモスは安心したように微笑むと、先ほどの気迫を出しながらフォルトナを押さえつける。
「こんなことして........」
その瞬間、地面がわずかに凹み、横へとアモスは倒れる。フォルトナはすぐにアモスを蹴り飛ばすと。トドメを刺そうとウルミを振り上げる。
アモスはその一撃をギリギリで躱し、自分で地面に叩きつけるようにして[受け身]を発動させ、立ち上がると走り出し、重剣で青いマフラーを落としたところまで走り、重化させながら地面へと突き刺す。
「......?」
アモスの行動でフォルトナは怪訝そうな表情で思考する。
(アモスの恩恵は[受け身]......剣は[重化]......特に意味はないはずだ......)
「何をするのかな? 自分で剣を地面になんか刺したら抜けなくなるんじゃないかなぁ?」
アモスは何一つ喋らない、フォルトナがウルミを構えようとした時、アモスはリルートの持っているナイフを手にもつ。
「そんな武器で相手するのかい?」
フォルトナは余裕そうに言う。
「ごめん、リア」
その瞬間、アモスはナイフで自身の首を掻き切った。
血が吹き出し、そのままアモスはその場に倒れる。
カランとナイフが金属音を立てて静寂が起こる。
「は.......? なんだ?」
フォルトナはあまりの突飛な行動に目を丸くし、困惑する。
その瞬間、轟音が背後に鳴り響き、フォルトナは振り向く。
「な.......ッ!??」
背後に落ちたのは城の石レンガ達が塊のように地面へ落ちた。廃城自体が、崩れ始めてる。
何が起きた........!?
こいつ何をした........? こいつの恩恵にこんなことできるものはない........つまりコイツは関係ないはずだ......[幸運]の暴走か.......!?
違う..............おそらくマフラーに紛れて紙か何かに血で書いた......魔法使いの恩恵は[念写].....目の前に風景を写した紙を出す......廃城は石レンガ造りで隙間が多い......その隙間を[念写]の紙でうつ伏せになってる間敷き詰めた.......そして土台が固まったその時、何百kg....何tかはわからないが[重化]した剣で突き刺す......聖剣は使用者が死ぬと灰に変わる.......ガルザルの時もそうだったと聞いた......!灰になったことで地面には隙間が現れ、大きく崩れ...........
廃城ごと崩壊する.........
[幸運]は波がある。本来なら戦闘が終了した時点で今までの幸運が不運として帰ってきてしまう.....だが実際にそうなるとわかるような事は一言も言ってない.....推理だけで....そんな小さな可能性にかけるなんて.......
蹲ってる内にすぐ書き、マフラーで見えないように魔法使いのその指示を渡す....魔法使いが完全に気絶していたら無駄な作戦だ....崩落するかもわからない、そんな運に任せた作戦で.....いや...........俺の運を利用したのか.................
こいつ.....こいつ......!!
「とにかくここから出ないと———」
その瞬間、フォルトナのちょうど真上、天井が崩落し、フォルトナは避けようと跳ぶが、片足が潰される。
「くっそ.......足が.....」
それと同時に出入り口が崩落し、逃げるルートが完全に塞がれる。
フォルトナはそれを見て、周りに出口がないかを確認するが、どこにもない。
密室とも呼べる空間へとなり変わったこの巨大な廃城で、フォルトナはアモスの死体の方をみると、口を緩ませて悔しさまじりに笑う。
「あぁ.......運が悪い........」
その言葉とともに、崩落に巻き込まれ、フォルトナは石レンガの物量に潰されるのであった。




