第85話 恩恵とは
人間にひとつ宿るのが基本、無恩恵は存在せず、あくまでまだ発現していない状態とされる。人類学によると太古の時点から様々な恩恵が存在し、今日までに無限と呼べるほどの恩恵がある。
恩恵は明確な名前がなく、使用者本人や周りの人間は付けるに他ならない、そして全く同じ恩恵が他者に宿っていることもある。原因などなくその実はあくまで生物的な力であり、条件下によって変化も見られる。
「恩恵は神による天啓」
それが宗教上の考え、しかし魔族にも同じように一つずつあり、それを宗教上、[能力]と区別する必要があるからだ。
長々とした文章が書かれるその本を、結構なペースで飛ばしながら読んでいる、正直言ってリルートの頭に入ってるのは3割ほど、だがその時、あるページが目に留まる。
[略奪]の恩恵。
恩恵の中でも群を抜いている、その力は殺した相手の恩恵を完全に自分のものにする、以降[略奪]の力は消え、その恩恵として生きていく。15歳を超えても[略奪]を使用してない場合、典型的に自覚する。
[略奪]は神殺しだと考える研究者も多い。
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今から100年以上前、古文書に書かれたそれによれば、突如国民の約3割が消滅した。死体はなく、誰が殺したのか、そもそも殺害なのかすらわからない。だが歴史的災害として語られており、今でも神の力だと吹聴するものは多い。
その後に書かれているものも長くて読むのが面倒になるものばかり、そして終盤のページには歴史上での人物の恩恵や、中にはラグナ一行の恩恵についても載っていた。
ラグナ [魔剣]
キライド [補聴]
アリエスタ [防護壁]
ファルメル [粘液]
「魔剣......詳細は魔力を剣にこめて剣撃の威力を底上げする.......強化ってこと....?」
聖剣と対のような名前だからだろうか、リルートはその詳細を読んで本を閉じた時、外は既に暗くなり始めていた。
「一旦宿に戻るか....」
リルートは立ち上がると、痺れた足を必死に動かし、本を元の場所へ戻すと、図書館を後にする。
聖剣は今の所で見つかってるのは私、アモス、イロアス、フィル、ガルザル、エレノア、マルクスかな.....聖剣を持つ人に共通点は特にない、でも多分、“あの男”から受け取っているはずだ......あいつの目的もわからないし、何がしたいんだろう.....
リルートは考えるが、結局思考がまとまらない。マルクスも、あの男も、わからないことだらけだ。
そして数日が経ち、とうとうマルクス討伐作戦は、始まるのであった。
場所はアジトから離れた森の中での野営、明日の夜明け前に急襲する。こちらの人数は騎士冒険者含めて100人、一方マルクスは40人にも満たない、戦力差からしてこちらが勝つ。そのことを理解している上で、マルクスの首を誰がとるか、そんな空気が皆に渦巻いていた。
「あまり.....油断しない方がいいと思う.......」
「そうだね、マルクスは一夜で2000人を殺戮した上で騎士や冒険者みたいな追手を全て殺してる.....相当な被害は出るかもね」
リルートはそう言ってる中でも何を思うのか、自分ですらわからない。
「......インヴァルスがいたら.......」
アモスは不意にその言葉を口に出すがラティナは笑う。
「インヴァルスは歴史書の記述や今までの歴史からも、自分がやりたいようにしか動かない、有名な話でしょ?」
「......そうなの....?」
アモスがきょとんとした顔で言うが、ラティナは続ける。
「まさに生きる伝説ってやつなのよ」
「そうなんだ......とりあえずもう寝よう....」
そう言ってアモスは横になり、リルートもまた眠りにつくのであった。
SAVE
「起きなさい!!」
その言葉が耳に入った瞬間に襟元を引っ張られ、リルートは意識が朦朧としながらも立ち上がる。その時目に映ったのは、昨日まで息をしていたはずの冒険者達の死体であった。
「な......なんで.....!!」
森の中をラティナと共に走り抜ける。
「野盗.......!?」
「いや、多分マルクス側だと思うわ.....!」
「どう動くの?」
森の中を駆け抜ける2人であったが、立ち止まると、ラティナはアジトがある方を指差す。
「今.....アジトの方は戦力が減っているはずよ、気づいてる人は.....既に乗り込んでいるはずよ」
「わかった、行こう」
「お前か......ヴォルガーってのは...!!」
マルクスの部下数人がヴォルガーを囲む、ヴォルガーは囲む敵を見渡すと、腰にささった剣に手をかけたその瞬間、一斉に敵の攻撃が向かう。
炎に撒かれたナイフや酸、空気の弾丸など、全員の攻撃が同時にヴォルガーに届く、届くはずだった。
その瞬間、全て攻撃が無に期す。飛び道具は地面に落ち、魔法は消滅する。
「何を———」
その瞬間、1人の首が落ちる。
「早くそいつを殺すんだ!!」
その言葉と共にヴォルガーと一気に距離を詰めると男はその剣を構えながら走るが、その瞬間、男の両足は飛ぶ。
「がああぁぁああ゛あ゛あっ———!!」
血が流れる断面を必死に抑える男を無視するように跨いでヴォルガーは敵にゆっくりと距離をつめる、その冷たい表情は、まるで氷であった。




