第80話 逆転
「はぁ......はぁっ.........」
息が荒く、疲弊し続けるアモスであったが、いまだにハロルドに一撃も与えることができていない。アモスの攻撃はことごとく避けられる。巨大な爪を紙一重で避けているもののそれにも限界があり着々と負荷がアモスに掛かっていくのであった。
「ねえ、もう終わり? 奥の手も、覚醒的な力も、実力も君にはない、よく生きてこられたね?」
ハロルドは純粋に疑問をぶつけるような声色で言うが、その表情がアモスを嘲笑う。
アモスはゆっくりと立ち上がると、口を僅かに開く。
「.......るよ......」
「え、なんていったのかな?」
「知ってるよ.....そんなことは.....」
こいつの言う通りで、自分にはそんな力はない、全力を常に出してこれが限界、そうだよ。
「だけど.....この命はそう簡単に殺させない.....」
アモスは重剣を構える。腕が振るえ、呼吸も乱れているが今はそれでいい。ハロルドは油断しているのかなんの警戒もなく近づいてくる。
「がッ.......あ.......!!」
アモスの腹に蹴りが打ち込まれ、アモスは思わず後退りするがハロルドは追撃を加える訳でもなくゆらゆらと身体を揺らしながら近づく、その眼から来る捕食者の眼、アモスを弄ぶ、そのことに全力をかけていた。
ハロルドが近づいたその瞬間、斬撃を放つ。攻撃は確かに当たった、だがそれはハロルドの鱗で覆われた腕で防御され傷一つついてなどいなかった。
アモスは重剣をすぐさま手放し、拳をハロルドの顔面にぶつけると、ハロルドから鼻血が垂れるが対して気にする様子はなく、アモスの頬を叩く。
「今のが全力?」
リルートのような隠し武器はない、クルトのような圧倒的実力もない、へヴァッジのような絶対的な能力はない、自分には何ができる?
ハロルドは着々と距離を詰めてくる、おそらく普通に戦っても負ける。
アモスの中に流れる様々な記憶の中で、一つの言葉が頭に過ぎる。
「必要なのは工夫だぜ?」
その言葉を発した人間は、山賊の城で相手した男、ガルザルの言葉だ。
アモスの中であの剣撃が蘇り、少し考えると息を飲み、ハロルドが近づくまで動かない。
「諦めたのかな? 別に構わないけど」
ハロルドが距離を完全に詰めたその時、ハロルドが腕を挙げると巨大な鱗で覆われた爪に変化して、アモスに向かって振り下ろす。
勝負は一瞬、タイミングを少し間違えれば死ぬだろう——
その瞬間、アモスは重剣を横に振るうと同時に[重化]させることで身体全体が大きく転身する。
ガルザルのあの剣撃は振動によりキックバック現象でなったものである。もちろんアモスに同じ能力はない、であれば自身の能力で全く違う技を繰り出せば良い。
アモスは上下が完全に逆さまになり宙を舞う、巨大爪の攻撃を回避したその瞬間に、ハロルドに足元をその勢いのまま切り払う。
確かな手応えと共にアモスは[受け身]で転身した身体を一瞬にして戻すのであった。
回避すると同時の奇襲攻撃、ハロルドへの顔面への拳が通用した。それはつまり随意的に身体を鱗で覆うということ、それさえわかれば、後は予測不可能の一撃を与えればいい。
ハロルドの足は足首から先がなくなっていた。ハロルドは立つことができずその場に倒れると、痛みで涙ぐみながらアモスの方を見る。
「なかなか.....やるじゃん.....でもまだ負けて....ないんだけど?」
ハロルドの言葉と共に、背中からナイフで撫でられるかのような寒気と殺気を浴びる。
「がっ......!!?」
その瞬間、衝撃と切り裂く痛みがアモスを襲い、アモスは吹き飛ばされる。何が起きたのか理解できず、[受け身]をとりながらも地面に倒れ伏し、顔を見上げると、そこにいたのは、形容できる一つの言葉があった。
「....ドラゴン......」
そこにいたのは、緑の鱗に覆われてた東洋の[竜]であった、それはハロルドに巻き付くと、ハロルドの身体はゆっくりと浮き始める。
「止血しないとダメだな、にしても痛い......マジでお前ふざけんなよ」
身体を動かせ....!死ぬぞ.....!
殺気のこもった冷たい目にアモスは腕を震わせる、少しでも動こうと身体に鞭をうつが、身体が既に限界だ。アモスの身体は言うことを聞かず、鋭い爪を持った[竜]の腕は振り下ろされる。
「なんで.....あなたが.......?」
よく知った声......リアの声?.........いつだ......いつそんなことを......誰に言ってる.........
思考に霧がかかり、まともに考えられない、でもその声は........自分に向いていた.......?
アモスの身体はその瞬間に飛び上がり、爪の刃を避けていた。[受け身]で地面にぶつかるとそのまま動かず倒れる。
「まだ動くのか....うざいな」
[竜]の上に乗ったハロルドがアモスに近づくと、アモスの髪を掴み、顔を上へと無理矢理上げる。
「もういいよ、お前は———」
その瞬間、ナイフがハロルドの顔面目掛けて飛ぶ。
「ベンクトがやられたのかよ....」
ナイフが飛んできた方向には息を切らし、ナイフを投げた姿勢のままのリルートであった。




