第7話 王都という街
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「.....」
馬車のゴロゴロとした音が耳に入る。それは絶え間なく鳴り響き、たまに起きる揺れがリルートの内蔵に響く。
「んん.....ぐ....!」
ゆっくりと起き上がると共に頭痛で低い声を出しながら頭を抑える。
「お! リルートちゃん起きたか!」
ロッドの言葉でリルートは昨日のことを思い出し、ため息をつく。
「そういえば.....ふざけたことをして」
「いやあ、危ないことはするものじゃないね! まあ明日には着くからのんびりしていなよ!」
ロッドの言葉を聞き、リルートは横に倒れる。痛みはあるが、決して悪くない。それはあの時の痛みを覚えているからか、仲間を失っていないその未来を勝ち取ったからなのかはわからなかった。
「青い....」
空は青い、何も変わらない風景、雲も、草原も。ただただ静かで風の音が響くまで、盗賊のいたあの時と比べて、つまらないほどの時間であった。
「王都の事件から随分経ちましたが....今は復興したのでしょうか?」
ウィルムの言葉にクルトは答える。
「3年も経てば流石にな、だが今でも治安は悪いままだ、余り長居はしたくない」
「元々はとてもいい国だったはずです....機会があればきっと....」
「一度変わってしまったものはなかなか消えない、それは——」
二人の会話に聞き耳を立てているとクルトが気づく。
「ん、どうした?」
「あいや! なんでもないですよ」
リルートは慌てて誤魔化そうとする。しかしクルトはその様子を見て話す。
「別に大した話じゃないさ、せっかくだし聞きな」
クルトは腰を下ろすと話し始める。
「3年前に起きた大事件、知っているか?」
リルートはしばらく考えるが指を立て答える。
「知らないです!」
「そうか....3年前、王都にある人間が現れた。そいつは無差別に、大人数殺した、名は“マルクス”、触れたものを破壊する[崩壊]は並の兵士では太刀打ちできなかった。被害者は2000人ほど、死体すら残らなかったんだ」
「....そいつはどうなったんですか....?」
「一人の騎士がマルクスの左腕を落とし、奴は逃げたよ。今でも奴は逃亡し、追っ手の兵士も騎士も皆殺しにされたって話だ」
クルトの言葉にリルートは息を呑む。
「そんな人が現れたりなんかしたら....今はどこにいるんですか....?」
「わからない、奴の懸賞金は金貨300枚、だから時々、賞金稼ぎや戦士が挑む奴もいるが....」
クルトの表情は暗い、リルートがどう声掛けをするべきか悩んでいるとロッドが声を上げる。
「辛気臭い話をするなよ! おっさんなんだからもっと面白い話しろよ!」
「俺と大して変わらないだろ....」
「いいや! 4つも違うね!」
ロッドはクルトの髪を引っ張りながら言う。
「触んなやめろ」
「ははははははは!!」
(この人は酒を飲んでてもそうじゃなくても大して変わらないんじゃないだろうか.....)
リルートはそんなことを思いながら馬車での空間を過ごし、やがて王都へと辿り着くにであった。
「王都にきたぞ!!」
リルートは身体を軽々と起こし馬車から飛び出る。
「おいおい、確かに嬉しいのはわかるが....遊びじゃないんだぜ?」
フレッドは鞄をリルートの横に置くと、リルートの肩を叩くと王都を囲む壁を指差す。
「でも確かにすげえよな! ついにきたんだ!」
二人が喜びを分かち合っているとロッドが声をかける。
「それじゃあ後は頑張れよ! 俺らは行くからさ!」
「ええ、ありがとうございました!」
リルートは手を振るロッド達の背中を見送りながら、検問に向かうのであった。
検問にいるには目つきが鋭く、背も高く威圧感のある騎士であった、強そうな見た目に二人が恐怖していると騎士は口を開く。
「こんにちは! 僕はここで悪い人を見つける仕事をしてるんだ! 通行書は持ってるかな?」
騎士の見た目は確かに怖い、だがその口調、抑揚、声の高さ、あらゆるものが似つかわしくなかった、フレッドは驚きのあまり硬直しているとリルートが口を開く。
「あ....持ってないです....」
それしか口に出せなかった、怖いし。
「初めてなんだね、じゃあ一応だけど、持ってるものを見せてもらうね」
二人は鞄を下ろすと騎士に渡す。騎士は丁寧に鞄の中身を漁っていく。
「うん、特に持ち物に問題はないね、それじゃあ返すね!」
騎士は二人に荷物を返すと紙を渡す。
「ここに書いてるけど、ここで滞在書を発行するんだ、銀貨2枚で1ヶ月間は自由に通れるけど、ちゃんと滞在書は更新しないと捕まっちゃうから気をつけてね!」
騎士はそう言うと扉を開く。
「それじゃあ王都を楽しんできてね!」
そうして扉の先を行くと、明るい光と共にその街並みが姿を現す。広さは測れないほど巨大で、端が見えない。あらゆる匂いと彩りが街を飾る。二人は街の大通りを歩き、リルートは冒険者のギルドの前に立つ。
「それじゃあ私はいくよ、フレッドも頑張ってね!」
フレッドはニカっと笑うと指を指す。
「俺は全てを守る騎士になって見せる! お前は伝説の冒険者になる! それでいいだろ!」
「うん! そうだね!」
リルートはフレッドと握手をすると、二人は別れるのであった。
ついに王都までやってきましたね、面白そうだと思ったらブックマークお願いします。