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第78話 聴牌

 私はしばらくの間、男に身体を弄ばれ続けた。痛みと悲しみでどうでも良くなり服で傷物の身体を隠すことすらどうでもよかった。


 廃人と期していた私の眼は虚み死ぬ気でもあった。だが恩恵(呪い)はそれを許さない。

 「随分と楽しんだな、それじゃあ消えてもら———っ!!」

 敵兵は剣を振り上げ私を斬り殺そうとしたその瞬間に流れ矢が剣に命中し敵兵の剣は大きく飛ぶ。

 

 私はその瞬間に走り出していた。痛い、体液が溢れる感覚は昔と同じだ、気にしなくていい。

 私は血と泥で塗れた足で必死に走り続けた。走って走って痛みで走れなくなっても動くことをやめなかったが、やがてピクリとも足は動かなくなる。もうここで終わる。私の身体から力は抜け、しばらく留まっていた。




 私は死にたくても死ぬことができない。ゴブリンも、山賊も、敵兵も、傭兵も、オークも、魔族も、私を苦しめるだけで殺せない。死にたいと口にしても反射的に生きようとする私は........





 

 クラクラとする意識の中で走馬灯のように村の出来事を思い出す。目の前にいるのは敵兵で、私を追っている。死にたいなら止まるだけでいい、なのに止まらない私は生きたいのだろうか?


 また足を動かし始める、もつれながらも必死に歩を進めるが、私は腕を掴まれる。

 「もう逃さねえ!」

 敵兵はすぐさま私に向かって剣を振るうが、その瞬間、時間が止まる。


 空中を静止した木の葉を見て驚いている内に、黒い服に十字架のペンダントをぶら下げていた、緑眼で猫のような縦長の瞳孔の男が現れる。

 

 「いつまでそうする? 悔しいのではないか?」

 男はニヤニヤと笑いながらこちらに近づいてくると私の頭を掴むと敵兵の方に顔を向けさせる。

 「その敵の顔を見ろ」

 醜悪な男の顔だ、奪うことを生き甲斐としているバカ、傭兵共を殺すだけなら、奴らは救世主だ。だがそんなことするわけがない、もしそうだとしてもこいつらが傭兵と同じことをしたんだろう。私は身体を動かすこともできずにいると男はニヤリと笑う。

 「与えよう、“溶剣”........私の恩寵を」


 男はそう言うと手から真っ黒な大剣を生成し、敵兵の手を引き離し、男は森の中へと消えていくのであった。


 時間と共に敵兵は動き出す。私は咄嗟に一撃を避けると、溶剣を持って私は大きく腕を上げる。

 敵兵は盾を構える。私は剣の経験などなく、まっすぐ振り下ろす。敵兵は醜悪な笑みを浮かべながら斬り返す準備をしていたが、それは無意味に化す。


 溶剣を振り下ろすと当たった瞬間に盾は溶けて溶解される。敵兵の肩に刃が入ると、黒い煙を上げながら敵兵を断裂し始める。

 「ぎゃあぁアア———!! あづっ———ぐえああああぁぁぁ!!」


 その悲鳴を聞いて私の心は痛むことはない。私はただ振り下ろし切ればいい。

 敵兵は熱と痛みで喚き声をあげ続けるが、身体は二つに分かれるときには敵兵は息絶えていた。



 

 私は死体を横目に、この剣をくれた男に礼を言おうと探し回ったが、見つけることはできなかった。




 私はこの時からずっと考えていた。

 なんで、こんな争いで人を失うことになるのか、こんな悲しみはこの世に溢れ続けているのは何故か。この痛みをもう誰にも味わって欲しくはない、だからもう、負けるわけには行かないんだ。





 煙が一気に舞う、あたり一面を埋め尽くす中で空気の斬撃は飛んでこない。

 (空気でレオンのナイフを止める、空気の斬撃を放つ、それができて俺たちの身体の空気で攻撃しない理由、それは空気の定義がかなり明確にあるからだ....)





 水中で空気の入った袋で息をしても限界が来る。おそらく通常の空気と吐いた時の空気には違いがあるんだ。だから体の中の空気を使って破裂などはしないんだ。だから空気以外でこの場を()()()()いい。




 互いに視界は不良、青年に格闘技術はあるようだが[空気操作]は封じた。牙のない狼など大したことはない。クルトは[補聴]を使い足音で青年の居場所を察知するとクルトは青年の目の前まで近づく。

 「「「お前はくるよね、でも一人は腕を損傷、もう一人は探知がない、一人で勝てるとでも....!?」」」

 青年はクルトが前にきたことを察すると拳を振るうが、クルトは見えない状況でその拳を躱わすと青年の腕を斬り飛ばす。

 青年は激昂しながら蹴り、拳、頭突き、噛みつきをしようとするがクルトは全て避け切る。拳が当たった地面や壁は大きく抉れ、その威力が絶大であることを物語っている。

 だがクルトの攻撃もそれ以降は全く青年に当たらない。互いに避け合う攻防が続く。クルトは斧で薙ぎ払おうとしたその時、空気の刃がクルトの方向へ飛ぶ。

 「が.....っ!!」

 クルトが声をあげると青年は笑う。

 「「「簡単だよな、煙のない空気で遠くから刃を放てばいいんだから、手応えはあったからコレで———」」」

 空気の刃で煙が一瞬だけ晴れたその時、見たのは、切断されたレオンの腕を持ったクルトであった。切られていたレオンの腕は更に切られ地面に落ちる。

 クルトはは再度横に薙ぎ払うが、青年は斧の刃を掴みなんとか止める。

 「「「惜しかったな.....だが終わりだ!!」」」

 青年は拳をクルトの顔面に打ち込もうとするが、クルトは笑う。

 「終わるのはお前だ」


 青年の背後から現れたのはレオンに手を引かれたエレノアだった。

 (((エコロケーションで位置を把握して女を手引きしてたのか.....!?)))


 青年は咄嗟に引こうとするがクルトがそれを許さない。青年の腕を掴み、決して離そうとしない。

 エレノアの溶剣は青年の頭を横薙ぎで焼き尽くす。

 


 ジュッと音がなり、青年の脳みそは全焼した。青年はそのまま力無く倒れるが、その時に僅かな声で発した。

 「僕は.........力だ........」

 


 そのまま青年は倒れ、塵となるが、それを見届ける暇もなく、クルトは残った息で叫ぶ。

 「全員.....今すぐ煙から.....でろ.....!!」

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