第77話 生き残り
私の名前はエレノア、ただそれだけだ。
小さな農村で育った私は、普通に人生を真っ当する筈だった。普通に。
7年前、14歳の冬、成人になるはずだったその日。歯車は突然狂うことになった。
「お、いい村じゃねえか?」
戦争が始まっていた私のヴォンランス公国では雇われた傭兵部隊が、私たちの村へ駐屯地としてやってきた。最初こそ村総出で歓迎することとなったのは、今思えば破滅への前夜祭でもあったんだと思う。
「どうもどうも、戦士のみなさま。村一同で———」
「正規部隊じゃないんだ、傭兵って.....」
私は少し残念そうに言葉を漏らすと私の友であるミストは苦笑いで傭兵部隊を見て言う。
「辺境の村みたいなもんだからね〜、前線にもならなければ奪われるメリットもない村だから、だけどもし敵兵が来ても守ってくれるんだから全然いいでしょ」
「まあ.....たしかに」
ミストはなんだかんだポジティブで.....悪くいえば楽観的なやつではあるが、この子はいつも前向きに物事を捉えていた。だから、気づけなかったのかもしれない.....
その6日後、ミストは川辺にて惨殺死体として発見された。剣などの武器による斬り傷が全身を裂いていた。
私の見たミストの最後は、穏やかでもなく、声にならない叫びだった。
話によると敵兵による陵辱の上の惨殺のようで、村の皆が悲しむ中で、私はただ、傭兵たちの微かな本当に小さく、誰も気づかないような笑みを静かに覗いていた。
「嘘だ」
痛みと恐れ、その表情が頭から離れなかったからだ。食卓で父母がいる中で呟くと何事もなく食事をとろうとした父母であったが当てつけのように私は続ける。
「ミストは.......敵に殺されたの.....?」
「食事中にそんな話は———」
母は軽く注意をして止めようとするが私はそのまま口を閉じることなく続ける。
「村は傭兵が見張っているから外から来たとは思えないしそうだとしても敵兵だったらどうしてミストだけ殺したの?」
父母は黙りこんでいるうちにも私からは怒りの感情が出てくるように言葉を連ね始める。
「傭兵が見回りしているから村の中の人だとしてもあんな長い時間拘束されるような殺し方をあそこではできないし、運んでいたら普通に気づくよね、だったらミストを殺したのって———」
「もうやめろ———!!」
鳴り響いたのは父の怒号であった。私は思わずハッとなり顔をあげた時、父の表情は怒り、しかしそれ以上に哀しみの表情が出ていた。
父は少し息を整えるとゆっくりと口を開く。
「…….わかってる、言いたいことはな.......だがそれを言って、次になるのは誰だと思うか考えてみろ....」
「うん........」
私は悔しいが、それ以上口に出すことができなかった。名前だけでも国の軍である以上は私たちは何も手を出せない。この村はもう.....ダメなのかもしれない。
私はその日から恐怖と悔しさで胸がいっぱいであった。次は誰なのかわからない恐怖、何もできない自分自身への悔しさ、傭兵たちへの怒り。その全てが15歳になる私を構築する要素であった。
2ヶ月の間で、私は生き残った。
既に六人が死体、もしくは行方不明扱いになっている。たまたまか、私の恩恵か.......?
いまだに恐怖に怯える日々であったが、傭兵に恐怖する日々は終わりを告げるのであった。
「逃げろ.....エレノア...!!」
父のその言葉を皮切りに私は炎の海を走り続けていた。村は燃やされ、森を火が走る。息苦しいこの空間で走り続けることに意味も見出せず。だがそれでも走り続けていた。だがその数秒後、背中に矢が突き刺さり私はバランスを崩しその場に倒れる。
「逃げてんじゃねえよ、お嬢さん?」
それは敵の兵士であった。傭兵達は既に皆殺し、村人ももう生きてはいないだろう。私はそれでも距離を取ろうと必死にもがくが兵士は笑い歩き距離を詰めてくる。
「お前みたいな馬鹿には身体に教えつけないとわからねえか?」
兵士は私のズボンに手をかけると力をこめ、破ろうとする。馬鹿ばかりだ。
なんでも楽観的に考えるミスト、何もすることのできない父母、傭兵たちの本質を見抜けない村人、そして......恐怖するばかりで何もできなかった私だ....
そもそも私はこの村の人間ですらない、幼い頃山賊に襲われた馬車から唯一生き残った、それが私だ。
今こそ私の恩恵について語ろうか。
どんな絶望的な状況でも生き延びる[生存者]、それが私だ。




