第63話 薄膜
「.....大丈夫か?」
「え....?」
マルクスと名乗った青年は怪訝な顔でこちらを見る、私がわからずに困惑しているとマルクスは言う。
「なぜ涙を流すんだ?」
そう言われて、私は頬に指を当てると、濡れていることに気づいた。
私は....悲しいのだろうか?
「あ.....ごめ———」
人形が泣くなんておかしいでしょ!!
手を伸ばされ、私は思わず身体を硬直させる。わかってる、母はもう居ない、だけど恐怖で反射的にだ。
その時、マルクスは私の頬に触れ、優しい声で口を開き、言った。
「気にしなくていい、お前の鎖は俺が[崩壊]させてみせる」
その言葉は、酷く優しかった。今にも泣き崩れてしまいそうなほどの優しさと、真剣な眼こそが、彼を表している。そう感じるんだ。
「お願い.......私を助けて..........」
「大丈夫、お前を縛る人は———」
「違う………」
私は少し声を荒げて言う、何が怖いかもわからない、周りが怖い?人が怖い?未来が怖い?.....わからない.....
「.......俺についてくれば....おそらく楽になる日はまず来ない、その覚悟がお前にあるのか?」
私は答えられず、沈黙する。しばらくの静寂の後マルクスはゆっくりと立ち上がり、振り返ろうとしたその時、私の口が動く。
「私は......既に死んだようなもの........あなたに着いていきたい......!」
「そうか.......」
その時の彼の表情を私は今ならわかる、あの顔は.....同情でも、偽善でも、優しさでもない、圧倒的な———
罪悪感の顔だ。
*****
「相手は今まで以上に本気を出してる! ここが正念場だよ!! 出せる全ての力を使うよ!」
アモスが特攻を仕掛け、ラティナが詠唱してる間、リルートはラティナに近づく“手”を斬り払う。
斬っても、斬っても減らない“手”だ、だが今まで以上にへヴァッジに近いている。
「......ま.......」
へヴァッジが何か呟くがアモスは気にしない、イロアスの飛ぶ刃とアモスが同時に左右から攻撃するその時。
「邪魔......なんだよ.......!!」
その言葉と共に、槍を持った“手”が現れる。10、いや20はいるだろう、アモスに向かって空中から一斉に襲う。
アモスは咄嗟に防御の姿勢を取ろうとするが、その瞬間、リルートは死体から盾を拾い、アモスに向かって投げる。
「使って!!」
アモスは盾を掴み、上からの攻撃に備えたその瞬間、リルートは上から襲ってくる“手”に向けて火薬を投げ、火をかける。
「がっ....!!」
爆発で“手”は吹っ飛び、アモスは地面に転がる、しかし衝撃は[受け身]で吸収され、ダメージは殆どない。
“手”はバタバタとまるで死んだ虫のようにそこら中に落ち、動かなくなる。
「ストーンバレット!!」
ラティナの詠唱が終わり、石の弾丸が“手”やへヴァッジに向かって飛ぶ。
「くそ.......!」
へヴァッジは盾を持った“手”で防御人系を作ろうとするが、リルートは距離を詰め、剣撃をぶつける。
盾が攻撃される部分に密集し、リルートの攻撃が防がれた次の瞬間、アモスは大きく剣を振り上げ、剣を[重化]させる。
強力な一撃で盾は破壊され、土煙が舞う。アモスはへヴァッジに剣撃を振おうとするが、へヴァッジはすぐさまアモスを蹴り、アモスは吹っ飛ばされる。へヴァッジはゆっくりと後退りするが、その瞬間、飛ぶ刃がへヴァッジの首元を狙う。へヴァッジは紙一重でそれを避けるが、その隙を狙い、リルートは復剣を思い切りへヴァッジの心臓部へ振るう。
「......ッ!!」
復剣は“手”が刃を掴み、受け止めていた。さらに力を込めるが、“手”はびくともしない。へヴァッジはその瞬間に剣を手に取り、リルートを狙う。
「死ね.....!」
リルートは復剣を手放し、身体を屈める。
へヴァッジが二撃目を放とうとしたその時、へヴァッジの目に入ったのは、リルートの手に握られた“赤い宝石”だった。
(あれは.....聖剣の宝石部分......!)
リルートが力を込めると、宝石から刀身が[復活]し、聖剣となる。
「うぉぉぉおおお———!!」
(いや....このままいけば先に殺れる.....)
へヴァッジはそのまま剣を振り下ろすが、その瞬間、剣の軌道がズレる。
それは石だった。ラティナの石の弾丸で剣の軌道がずれた。リルートは渾身の力をこめ、へヴァッジの肺を貫くのであった。
「ぐ......が...は.....っ!」
へヴァッジは血を吐き、患部を抑えながら地面に倒れる。
痛い、痛みが止まらない、熱く苦しい。
へヴァッジは剣を地面に突き立て、立ちあがろうとするが、へヴァッジは立ち上がれず、ばたりと倒れ、2度と起き上がることはなかった。




