第62話 ドールハウス
綺麗だが古めの鉄鎧、顔つきはあのデコイの少女と酷似している、一般的な騎士に紛れていたのだろう。
それと“手”についてもだ、あの能力はおそらく地面、土から生成されてる、下に視線を向かせなかった二つ目の理由だ。デコイを倒した時に服はあったが眼球や口は残らなかった。口のように手を動かし、声帯を真似ていただろうが、おそらくあの眼は本当に視界として機能してた可能性がある........
「行くよ! 二人とも...!!」
「くそ......!」
その瞬間、土から大量の“手”が生成される、数は50、いや60を超えるだろう。へヴァッジを囲うその“手”はまるで怪物のようにも見える。
*****
「ねえ、へヴァッジ、次はどんな洋服が着たい?」
その声は、聞き馴染みのある声だった。
僕は........いや、私は.......部屋にいた。
明るく華やかな、小さい部屋。檻と、完全に管理されたドロドロの食事がそこには在った。
全身がひどく痛い。絹のように白い肌、部屋に似合わないような綺麗で鮮やかな少女の洋服を纏っていた。
「へヴァッジ、大丈夫?」
母の言葉だ。私はコクリと頷いた。
「それじゃあこの服を着ましょう?”女の子なんだから“」
私はこの母の息子だ。娘として産まれるはずだった息子だ。
管理された暗い世界、それが私の世界だ。ドールハウスと呼ばれ、毎日のように母に服を纏わされ、管理され、そして男を知ることになる。
考えることはできるだけやめていた。意思を持てば監禁、絶食、暴力、それこそが私を縛る檻だ。
そんな無の日々を過ごしていた。
だけど、事件は起きる。
「これがドールハウスのお人形さんか?」
目の間には男がいた。筋肉質でヒゲの生えた、おそらく冒険者だろう。母と男は何かを話している。関係ない。
「そんじゃあ一丁行きますか!」
男はそう言って私に近づくが、母が男の身体を掴み、止めさせる。
「それは私の物よ! そんな勝手はさせない!!」
母は怒り狂っていた。今までと変わらないはずなのに.....
そう思うこともやめようとしたその時、母は地面へと倒れた。
「え.....?」
ピンクの絨毯は赤く染まる、染まって染まって温かくなる。男の手にあったのは血まみれのナイフだった。
私は、本能的に男から離れようとした。足が上手く動かない。ゆっくりと後退していると、男はナイフの刃先を私の胸元に当てる。
「やっぱり、動く人形よりも、剥製の方が鑑賞しがいがあるからな」
視線を回すがどこに逃げればいいかわからない、外に何があるかもわからない。だけど.....逃げるしかない。
そう思った時、私は立ち上がり、扉から出ていた。足が痛い、ズキズキとする痛みすら気にせず走っていると段々と見えてくる。
外は汚く、餓死した子供とタバコの臭いのする世界。
私は走って走って走り続けたが、何かが足に突き刺さり、私は顔から転ぶ。
「う.........!」
私はゆっくりと足を見ると、そこにはあのナイフが突き刺さっていた。
「誰か.........!」
掠れた声で私は言うが、誰もいない。見ているが何もしない、人なのか、人じゃないのか、わからない。
誰も助けない、誰も救えない。
「手間取らせやがって、まあいいか」
男は私の足に突き刺さったナイフを手に取ろうとしたその時、男の手を掴む一つの影が現れた。
「あ? 一体.....」
男が見たのは“手”だった。“手”がそこにあり、男の腕を掴んでいた。
男の視線が移ったその瞬間、私は自分に刺さったナイフを引き抜き、男の首元に向けてナイフを振り抜いた———
「あっぶねえな.....!!」
血が滴る、刃を握るように男が掴み、首元には届いていない。男は激昂し、その瞬間、私の腹に衝撃が走り、私は大きく後ろへ跳ぶ。
「がっ.....!!」
痛い、重い、衝撃が残り、私が苦しんでいると男は息を切らしながらナイフを振り上げる。
「じゃあな、ドールもどき.....!!」
私は何もできず、目を閉じた。
しばらく目を瞑り続けたが、何も起きない、私は恐る恐る目を開けると、目の前に一人の青年がいた。
左腕がない、真っ黒のフードを被って顔が見えない、その後ろ姿は、私にとって救世主のようだった。
「なんだお前———!!」
男がそう口を開くが、その後2度と喋ることはなかった。男は力無く倒れると、青年は振り向く。
「大丈夫か」
青年の鋭く強い青眼、彼の優しい声に、私はポロポロと涙をこぼしていた。
「......足を怪我してるな、応急処置をする」
そう言って黒いフードを被った男は包帯を取り出すと私の足を手に取り、止血し始める。
私は震える口をゆっくりと動かして、言う。
「.....あ......あ.......ありが.......と.........」
彼の過去は明らかになり、戦闘は始まります。
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