第56話 強敵との死闘
その時、何かが三人の目の前を横切る。
「何.....いまの.....?」
三人は“それ”が飛んだ方向に走る、“手”が邪魔をするが走り続けると、そこには一本の木があった。
リルートが近づいたその時、ヒュンと甲高い音が鳴り、木の幹が落ちたかと思うと、目の前に何かが飛びこみ、リルートは意識を失うのであった。
「おい、リルート」
イロアスの声でリルートは目を覚ます。
「.......ここで休むんじゃなかった......」
既にあの惨状を知っている、ここで休まなければ、まだ救える命はあった。リルートは後悔しながらも、立ち上がる。
「狼煙......何かあったかもしれませんし、向かいますか?」
「じゃあ.......半分だけ残る.......?」
「じゃあメリーはすごく強いしイロアスは援護できるし、二人が残ったらいいんじゃ無いかしら?」
「ああ、それで構わないぜ」
メリーもコクリと頷き、了承をとると、三人は狼煙の方へと戻る。
(あの赤い煙はなんだったんだろう......それにあの時、何が落ちてきた.....?)
目の前には先ほどの通り、凄惨な状況が広がる。
「ラティナ! ここら辺半径3mの地面を盛り上げて...!」
「了解! マグスキャントス———」
「アモスは後方警戒!」
(勿論、ここで対応するのが一番いい.....だけど今は......どこから“手”が出現するのかを.....)
リルートは視線をずらさず、瞬きすら堪える、足場が隆起し始めると、段々と下に視線が動き続けるが、“手”は出ない。3mは足場が隆起するが未だに何も起きない、そう思った時だった。
「———ッ..!!」
その時、爆発音と共に足場が大きく揺れる。リルートが顔を出し、足場を見るとそこには鉄球がめり込み、足場を大きく崩していた。
「大砲....!」
そのまま足場が崩れ、リルートたちはそのまま落下し、土煙が舞う。
「ぐ.......! あれ.....」
あまり痛みがない、視界の悪い中でリルートは身体を起き上がらせる。
「アモス..!?」
リルートが倒れてたその場所にはアモスと、ラティナがいた。
「.........大丈夫......?」
アモスは掠れた声で言う、おそらくリルートとラティナを抱え、[受け身]で庇ったのだろう。リルートは手を差し出し、アモスを引っ張るとラティナも起き上がる。
「それで....結局何だったのよ....?」
「あ....えっと.......」
リルートは説明しようとするが、その時ようやくこの状況の不味さに気づく。
「今すぐこの煙から出るよ!」
この状況は“手”に気付けない、もし矢で一掃されれば終わる状況だ。リルートはすぐさま走り出し、二人もついていく。そして土煙が薄くなり、後少しで出られる、その時——
「危ない.....!!」
その時アモスがリルートに覆い被さる。
ドッと少しの衝撃が走り、リルートの目に入ったのはアモスの背中に刺さった矢であった。
「ごめん....!」
リルートはすぐに立ち上がると、自身の殺されたあの木に向かって走る。
「ラティナ! 防御をお願い!」
「マグスキャントスエクソシア、スボルティナトスインペトムヴェントスウォローウィンド!」
ラティナの詠唱でリルートに向かって飛んでいた矢が辺りに散る。アモスは自身に刺さった矢を引き抜くと包帯で縛る。
リルートは木までたどり付くと、蒸留酒を撒き火を放つ。
「避けてッ!!」
ラティナの叫びが耳に入り、リルートは反射的に大きく横に跳ぶ。その瞬間、リルートのいた場所に数個の“手”が持っている剣を地面に深々と刺す。
「よく......わかったね」
声の方向を見たその時、心が止まるような、そんな感覚に襲われる。
ツインテールの群青の髪、あどけない幼い顔だが心が死んでいるような、そんな無常の顔、まるで少女が着るようなファンシーな可愛らしい洋服。だがそれに似合わないほど、沢山の“手”がその少女を囲んでいた。
*****
「いやあ、やっぱりそう思うかい?」
二人が机を介して座っていた。中央にはチェスの台、フォルトナは駒を進める。
「まあ........私は“あの人”についてきただけですから.....」
フォルトナの前にいたのは、絹のように綺麗な銀髪をした少女がいた、髪は地面に完全に垂れ落ち、眠そうな半目、そのエメラルドグリーンの瞳孔で盤面を確認すると駒を進める。
「ふーん.....まあ大丈夫だと思うけどねえ? ところで、“へヴァッジ”がナニリニックを攻めてるみたいだけど、君はどう思う?」
フォルトナは目の前にいる少女、ベンクトに聞くと、興味なさげに口を開く。
「まあ........どう考えてもへヴァッジさんの圧勝ですよ、だってあの人、レルフェンス様の次に強いし........」
「ねえ、聞いてる?」
リルートは何も言わず、ただ復剣を構えているとへヴァッジは問うが、答えない。
「まあいいけどさ......私の名前はへヴァッジ、まあ自己紹介する必要もないか......」
へヴァッジは右手を大きく上に挙げると剣を持った“手”4本が同時にリルートを襲う。
リルートは防御の姿勢をとるが、防御しきれない、一撃、二撃目を剣で打ち返すが、足や腕を切り裂かれる。
「く.....ッ!!」
痛みが走り、少し動きが鈍くなりながらもリルートは致命傷を避けつつリルートは躱わす。
地面を抉りながら剣撃はリルートを襲い続ける。躱し、受け流し、“手”を斬ろうにも当たらない。
「弱い.........フォルトナが苦戦するとは——」
そう口を開いた時、へヴァッジは気づく。防戦一方に見えて、よく見ると“手”は一箇所に寄せられている。
その瞬間、リルートは火薬を“手”に投げ、火を放つとそこにあった“手”は爆散する。
「......やるね」
へヴァッジは余裕そうに言う、一方でリルートは既に息を切らしながらも剣を構えている。
(まずい........あれだけ“手”を操れるのなら.......それに話すほど余裕がある.....全く本気なんかじゃない......)
リルートは後ろを見るが、アモスは周りに飛ぶ“手”を斬り払い、ラティナは魔法を撃ち迎撃する。明らかに戦力が足りない..........
リルートは前を向き、一人で戦おうと決意したその時、ヒュンと甲高い音が鳴ったと思うと何かがへヴァッジに向かって高速で飛ぶ。
「———!?」
へヴァッジは紙一重でそれを避け、一歩後ろに下がる。それは、ひしゃげた形をして黒色の宝石の嵌め込まれた刃が地面に深々と突き刺さっていた。




