第35話 爆剣
「———いつまで歩くの〜?」
フィルの肩はすっかり抜けきり、フラフラと倒れそうになりながら歩く。既に4時間、随分と歩いているがようやく森に入れるかという辺りであった。
「フィルちゃん大丈夫?」
「んんー疲れたー!」
リルートの問いにフィルは不満の声を上げる、流石に子供にずっと歩かせるのも酷かと、リルートはフィルの前に出ると身体を屈ませる。
「ほら、おんぶしてあげるよ!」
リルートの言葉にフィルは目を輝かせ、遠慮なくリルートの背に身体を寄せる。
「出発進行だ!」
フィルは今までの疲れがなかったかのように声を張り上げる。それなりに重いが歩けないほどでもない。そうやってしばらく歩いていると前にいる戦士が足を止める。
「ん....?」
よく見ると全員が止まっていた、そして村長が屈むように合図を出すと全員がかがむ。
「いたぞ、あれが大猪だ」
村長が指差すのは茂みであった。リルートはゆっくりと茂みをかき分け、その先には——
「うお....でかいなあ......」
リルートが思わず口を開いてしまうほどであった、遠目から見ても4m程はあるだろうか、そんな巨大な猪が眠っていたのだった。
「どうするんですか....?」
「まずはロープで猪のいる場所を丸ごと囲むようにする、そして弓矢を持って囲み、一斉に矢を放ったらそのまま逃さないようにするんだ」
そうして冒険者達は縄を持つと木を使いながら猪の周りを囲んでいき、そして何重に巻かれると、全員は弓を一斉に構えると、村長が腕を振り下ろすと同時に矢は放たれる。
矢が一斉に猪に突き刺さると、猪は悲鳴を上げながらのたうち回る。猪はしばらく痛みに悶絶し続けるが、ふと起き上がるとものすごい勢いで走り出す。
「そっちに逃げたぞ!!」
冒険者の一人が声を上げる、その先にいたのはフィルであった。フィルは逃げることもなく立ち尽くしている。アモスがフィルに向かって走るが間に合わない、リルートは思わず声をあげる。
「フィルちゃん! 危ない——!!」
猪がフィルにぶつかるその瞬間、地面から大量の剣山が現れ、猪の腹は引き裂かれ、血が辺りを塗りつぶす。
「なに.....あれ....」
リルートが驚愕しているとフィルは無防備に剣山に近づくとその刃に触れる。
「やったね! フィルの手柄だよね!」
その言葉と共に剣山は煙にように消えると、その手に握られたのは、銀色の刀身、そして鈍い藍色の宝石の嵌め込まれたレイピアが現れるのであった。
皆がシーンと静まる中で、フィルは周りを見ると声を上げる。
「みんな! 今のはフィルがやったんだよ! すごいでしょ!?」
フィルの言葉は森の中に響く、だが皆が困惑し、黙っているとその空気を壊すように村長が発する。
「いやあ、まさかこんな小さい子が狩ってしまうとはね、こりゃまいったな!」
村長は大笑いをすると、途端に辺りは明るくなり、リルートもフィルに向かって走り出す。
「すごいね! フィルちゃん!」
リルートがフィルに抱きつくと周りも拍手する、フィルは誇らしげに
「すごいでしょ! フィルはすごいんだよ!」
そう言うのであった。
暖かい空気の中で、大猪を馬車に全員で乗せると、村へと戻るのであった。
〜宿屋前〜
「そういえば、お姉ちゃんって沢山変なものを持ってるよね? フィルに見せてよ!」
フィルはワクワクしながら言う。リルートはしばらく迷うと、背中に背負った道具箱を下ろすと、閃光弾や火付爪、縄鏢に火薬など次々と見せる。フィルは興味津々にそれをひとつ一つ手に取る。
「すごいね! フィルはこんなもの持ってないからすごく楽しいよ!」
「そう? じゃあよかったの....かな?」
「それじゃあフィルは教会に戻るよ! じゃあね!」
フィルは宿屋に向かって走って行き、姿が見えなくなった所でアモスは口を開く。
「あの剣山.....多分だけど聖剣....だよね....」
アモスの言葉にリルートも頷く、二人は自然と歩き出し、村を歩きながら話をする。
「そうだね、私たちが知る限り....4本目の聖剣だね」
「今の所わかっていることは.....」
アモスはしばらく口を閉じるが、しばらくするとゆっくり言う。
「あの....君はどこでその聖剣を手に入れたの....?」
アモスの問いにリルートは口を震わせながら口を開く。
「私は.....信じられないかもしれないけど、蛇の眼をした....謎の男から貰ったの....今まで会ったこともないし、知らないんだけど....」
心臓にくるあの痛みはない、リルートは少し安心するとアモスは首を縦に振る。
「自分も同じだ......自分もその男から.....この剣を受け取ったんだ.....」
アモスの言葉でリルートは少しだけ安心した。初めてあの恐怖の感覚を共有できるものが出来た。それは彼女にとって不安感を少しでも和らげるものであった。
「じゃあ、フィルちゃんも同じなのかな....」
「そうかもね......この際、聞いてみてもいいかも....」
アモスが頷いたその時、リルートの目にとある光景が映り、声をあげる。
「....あれ!?」
リルートは口を開けたまま指を指す、アモスがその先を見るとそこには給仕の少女である”レイ“とライトが歩いている所であった。
「ねえ、あれってそういうことだよね!」
リルートが興奮しながら言い、アモスは苦笑いになる。
「ついて行ってみようよ!」
「....え..?」
アモスが返答をする間もなく、リルートは物陰に隠れ、二人の動向を追い始めるのであった。
「.....それってストーカーでは....?」




