第34話 森の獣に
「———カルック祭り?」
給仕の少女の前でリルートは首を傾げるとアモスが補足を入れるように答える。
「この村にある風習だよ.....たしか森にいる大猪....それと果物とかへの感謝....だったかな....」
「そうなんですよ、大猪を燻製して冬に解放するっていう結構大きい祭りなんですが.....その大猪を狩るのは毎年怪我人が出たり大変で.....」
少女の言葉にリルートは不思議な表情で聞く。
「なんでそんな大変なのに続けるんですか?」
「やっぱり経済の活況が理由だからですね。カルック祭りは結構有名で旅人も結構来てくれるんです」
「そうなんですね〜、そういえばそこに貼ってるのって....」
そう言ってリルートが指差した先には猪の絵の描かれた張り紙であった。
「そうですね、大猪はとんでもなく強いですから、冒険者さん達も募集してたりで」
「へー、そうなんだ、私たちも行けたりって.....?」
「はい! まだ募集してるはずなので大丈夫ですよ! 村長のところに行けば!」
少女の笑顔に見送られながら3人は店を出ると、村長の家へと向かうのであった。
「———でかい.....豪邸じゃん....」
リルートの前に佇む建造物は二階建ての長屋、おそるおそる扉に向かってノックをすると.....
「ああ、どちらさんですかい?」
出てきたのは眼鏡をかけ、白髪の目立つ初老の男であった。
「あの.....」
男は3人の目をじっくりと確認する。リルートが戸惑っていると男は顔を柔めて発する。
「もしや冒険者ですかな? 大猪狩りでよろしいか? とりあえず上がりなさい」
男はこっちに来いと言わんばかりに手招きをすると家の奥へと進む。リルート達は戸惑いながらも後を追う。
「あ.....お邪魔します....!!」
暖炉の前には長机とそれに面するように革でできたソファが二つあり、3人はそこに座ると、正面のソファに男は座る。
「まあ寛いでくださいな、何も出せないですがね」
「大丈夫ですよ...! むしろおもてなしが嬉しいくらいで!」
リルートの言葉に男は笑う。
「そうかそうか、まあいい。君たちは大猪狩りをしに来たのだね? 村長としては大歓迎だよ」
「....どうして大猪狩りの募集ってわかったんですか? まだ何も言って....」
リルートの問いに対して村長は表情を崩すことなく答える。
「私はね、人の経験値が見えるんだよ」
「.....見える?」
村長はそう言って自身の瞳孔を見せつけるように身を乗り出す。
「私の恩寵は[秤眼]、なんとなくではあるが、どの程度の研鑽や戦闘の経験数がわかるんだよ、ただそれだけだ」
「なんかすごいんだねー! おじさんは猪の強さもわかるのー?」
「そうだよ、私が生まれてからこのカルック祭りは大いに盛り上がってね、強さがわかるから死者が出ない程度の大猪を安定して狩れているんだ、まあそれだけだよ。じゃあ本題に入ろうか、大猪はこの村の近くにある森に生息している、募集されたメンバーで倒せるくらいだが....注意点がある」
注意点という言葉にリルートが首を傾げると村長は続けて答える。
「大猪は祭りの目玉だ、だからできるだけでいい。顔に傷をつけないようにして欲しいんだ、それだけ守ってくれれば問題はないさ」
村長の言葉に頷くと村長はテーブルの下から一枚の紙を取り出す。
「ここに予定日と時刻が書いてある、この日に私の家の前に集まってくれ、報酬は——」
そうして村長との会話を続け、数分後にはもう終わっていたのだった。
「それじゃあ当日はよろしく頼んだぞ」
「了解です!」
「....わかりました.....」
「わかったよ〜!」
そうして3人はその場を去るのであった。その3人を見送り、姿の見えなくなったところで村長は呟く。
「それにしてもあんな経験値は初めて見たものだ......あの子供は一体......」
「猪狩りは明後日だね! 今のうちに体力をつけておかないとね!」
リルートは握りを拳を上へ高々と上げ、アモスの腕を掴んで一緒に上げる。
「そうだね.....今のうちに調べておきたいことが出来たしね」
「調べたいことって何ー?」
アモスの言葉にフィルが聞く。
「いや....大猪についてだよ、戦う前は情報が重要だからね」
「そっか! じゃあアモスさん、頼んだよ!」
リルートはアモスの肩を叩くと走り出す。
「それじゃあ私は村を回ってみようかな!」
「フィルも一緒に行くよ!」
そうしてそれぞれが時間を潰し、やがて時間はやってくるのであった。
「さて! とうとうきたね! 猪狩り!」
「武器は用意したし....大丈夫だけど....」
不安を持っているアモス、その目線の先にはフィルがいた。アモスはゆっくりリルートに近づくと囁く。
「.....フィルさんはここにいて大丈夫なの?」
「まあ.....来たいって言ってたしいいんじゃない?」
「.....そうかな......」
そうしてしばらくしていると人も集まりだし、村長が出てくる。
「今日はよく来てくれた、早速だが森へ向かうとしようではないか」
そうして村長を先頭にして大猪狩りに参加した人はリルート達を含めて10人ほどが森へ向かうのであった。




