第31話 封じられた過去
花束を持って、”僕“は王都を見下ろしていた。夕暮れに染まる街を見て、なにも感じない。そこには僕だけがいた。
「アモスー!!」
“リア”は僕の元まで来ると息を切らし、手を膝につく。あまりに急いだのだろう、季節は春にもかかわらず、汗が流れていた。
「ごめん、待った!?」
彼女の言葉に対して僕は微笑みながら答える。
「全然待ってないよ、それじゃあ行こうか」
僕は花束を隠す様に服の内側に入れると、手を繋ぎ歩き始めた。
「リア、今日は行きたいところがあるんだ。来てくれないかな?」
「いいよ! アモスの行きたいところってどこだろー?」
僕の手に引かれながらリアは言う。優しさと奏でるその空間は当たり前の日常の中で2人の空間のような...そんな感じがした。
そうしてしばらく歩き続ける、他愛のない会話、笑顔、邪気のないその甘い足取りと平和な街。そこに一切の障害はない。
「そろそろかな」
そして僕は一つの店の前で止まる。華やかな装飾のされた甘い匂いの漂う場所だ。
「ここだよ、たまにはこういう店もいいんじゃないかなってね」
自信満々に僕が言ってみるとリアは目を輝かせながら、まるで子供の様にはしゃぐ。
「やったー! 今日は沢山食べるよ!」
「うん、お金も沢山貯めたしね」
2人で店に入る。そして数十分後….
「食べきれない.....!」
リアは机に項垂れる様に倒れる。情けないがそれ以上に可愛らしいなと思いつつ僕は提案をしてみる。
「じゃあ食べよっか?」
「食べて〜」
僕がリアの食べていた半分残ったプリンの皿を僕の元へ寄せると頬張る。そうして二口目に入ろうとするがリアが皿を自身に戻す。
「あれ、食べるの?」
「人が食ってると美味そうに見えるんだよお....」
リアはプリンをバクバクと食べるとそのまま完食する。わずか数秒でプリンは消滅した。
「すごいね....」
僕は驚きながらも机の下から準備していた花束をリアの前に出す。
「わあ! これはもしや!」
「今日は、誕生日だったよね? 用意してたんだ」
リアは花束を見て目を輝かせながら喜ぶ。
「ありがとう! 嬉しいなあ、今日は楽しいよ!」
「よかった、喜んでくれて」
僕は微笑みながら言う、成功してよかったと今でも思っている。
優しさの空気と感覚、ずっとこんな関係でいられたら.....ずっとこんな気持ちでいられたら....
〜翌日〜
「さあ! 今日もなんだかんだやってきたね、ダンジョン!」
リアはダンジョン前で壁をペタペタと触りながら興奮する中で僕は重いリュックを背負い、ダンジョンの扉の前までつくと、ゆっくり押して開く。
「気をつけて行こう、何かあったら大変だからね」
そうして僕たちはダンジョンの中へと入るのであった。
「そんじゃまあ....[暗視]!」
リアは眼を閉じて、ゆっくりと開くと瞳孔は青緑色に発光し、辺りを見渡す。
「いやあ、なかなか綺麗にしてるじゃないかー!」
リアはダンジョン内をズカズカと歩いているが僕はリアの肩を掴んで止める。
「ダンジョンは罠があるかもしれないし....危ないよ」
「いいのいいの! ダンジョンは危険があってこそだよ!」
リアは僕の手を払いのけるとさっさと階段を降りていってしまった、足音と松明の揺らめく中で進んでいるとその時、首元を何かが通り、血流の感覚がくる。
「何か飛んできたよ!」
僕が声を上げる時にはリアはその場所まで距離を詰めていた。そして斬撃音と共に現れるリアの剣先にはグレムリンが突き刺さっていた。
「まだいるよ!」
僕はすぐさま駆けつけるとグレムリンを蹴り飛ばし他のグレムリンにぶつかった所で二匹を同時に貫く。
「アモス! ちょっと守って!」
リアは剣をダンジョン奥へ投げ飛ばすと後ろへ下がる。リアに飛びつこうとするグレムリン達を次々に切り裂く、全てを倒しきると倒れた全てのグレムリンの首に剣を刺す。残ったのは金属の擦れる音が反響するだけだった。
「何この音....?」
僕の問いにリアは答える。
「奥に来てよ、ほら」
リアの後ろについていくとそこにはレバーを今にも引こうとして頭に剣の突き刺さったグレムリンの死体、そして檻に閉じ込められたオーガがいた。
「オーガ....2mくらいはあるね.....このグレムリンが出そうとしてたみたいだけど....」
リアはゆっくりと檻の合間に指を入れようとするが、オーガは拳を振り上げる。
「危な....!!」
リアは指をすぐさま引っ込めると笑いだす。
「いやあ! 危ない危ない!! 指が吹っ飛ぶとこでしたよ奥さん! とりあえずその頭に刺さってる剣引き抜いといて!」
「....あんまり調子に乗らない方が....まあいいや....」
僕の忠告に対してリアは能天気に笑いながらダンジョンの奥へ足を進める。僕はそれを引くとと、リアについていくように僕も走った。
「お、いたよ! 三匹だね!」
リアはすぐさま走り出し、グレムリンを切り払うと僕もそれに続こうとしたそのとき、後ろからとんでもない殺気を感じ、後ろを見ると、そこには先ほどのオーガがいた。
「あ...ああ.....」
そのとき、僕がどんな顔をしていたのか、覚えてない....だが覚えているのは死を覚悟していた、それだけだ。
「アモス!!」
リアがこちらに来る、だが既に腕を振り上げ....とても間に合わない。僕は目を閉じた。




