第2話 初めての戦闘
鈍い金属音が鳴り響く。眼を開くと、その一撃はロッドの槍の柄で防がれていた。
「大丈夫? 守るよりも避けるほうがいいけど...武器持ってないの?」
ロッドは腰にぶら下がった剣を引き抜くと、雑にリルートの足元に投げ飛ばす。
「とりあえずそれで自分の身は守って」
ロッドはすぐに前を向くと、男に向かって突撃する。リルートはロッドの剣を拾う。振れないわけではないが重い、扱う上ではまだ技量が足りない。
男はすぐに横薙ぎをロッドに当てようとするが、その剣は当たらない。圧倒的なまでの低さ、足元まで姿勢は低くなり、地面スレスレのその低空から槍は突き上げられる。
「がは....!?」
男の心臓から入り、肩を槍が貫通する。飛び出る血飛沫と空の蒼さとは真逆のその色が一瞬を彩る。
「まず一人!」
ロッドはすぐに槍を引き抜くと草むらの中を走り抜ける。リルートは人の死に驚きながらも剣を構えた。周りを警戒しながらゆっくりと後退りしていると、手斧がリルートに向かって飛んでくる。
「うわぁ!!」
リルートは後ろに転び、なんとか避けるがその直後に斧の刃部分にヒビが入るとウィルムがリルートを抱えて跳ぶ。
「大丈夫ですか....!」
受け身を取りながら地面へと着地し、息を切らしながら立ち上がるとその瞬間に斧の刃が砕け、周りに飛散する。
「な...何あれ....!?」
「おそらくですが[分散]です、所有してる武器の金属部分が破裂する恩恵です....」
リルートが驚いているとその直後に男がサーベルを振り付け、リルートは後ろに下がる。しかしその瞬間に男の腕が伸び、リルートの腕を切り付ける。
「痛.........!?」
初めて受けた斬撃はとても痛かった、それは殴りなんかではない、転んだ時の痛みなど気にならないと思えるほどに痛く重い。リルートは舌を噛みながら、痛みに耐える。
「リルートさん、落ち着いて、息をゆっくり吐いてください...大丈夫です」
ウィルムは剣を構えると走り出し、男がサーベルを振るその瞬間に地面へと滑り込む。伸びる腕の下をくぐり、真下まできたところで剣を振り上げ、男を殺したその時であった。
「ウィルムさん危ない!!」
リルートが声を上げた時、すでに遅かった。数本の矢がウィルムの至る所に刺さり、血を流しながら膝を着く。
「ウィルムさん!!」
リルートはウィルムの元に向かうが、ウィルムが止める。
「離れてください....! まだ...大丈夫です....」
ウィルムはゆっくりと立ち上がると体に刺さった矢を引き抜き、走り出す。
「ウィルム!! 今動いたら...!」
「大丈夫です...」
ウィルム、恩恵は[痛覚無効]であり、彼は痛みを消すことができた。しかしそれは身体のダメージを消すことはできない。一時的に痛みを感じない、ただそれだけであった。
ウィルムの前に出るのは、両手斧を持った大柄な盗賊と両手にナイフを持った小柄な盗賊。二人同時にウィルムを襲い両手斧はウィルムの胴を狙い大振り、ナイフは同時に投げられウィルムの顔に向かう。ウィルムは剣で斧を防ぐ動作をしながら、顔を下げてナイフを避ける。斧を受けたその瞬間にウィルムは剣を捨てると、両手斧を持った盗賊の顔を殴り飛ばす。
「これで...!!」
もう一人の盗賊の方を向いたその瞬間、盗賊はニヤリと笑い、両腕を後ろに引いたその瞬間、ウィルムの首が飛ぶ。
その瞬間に血が噴水にように吹き出し、足元を濡らす。そして転がるウィルムの生首がそこにあった。
「え.....!?」
目の前にあった、血の匂いと開いた瞳孔。初めての死体にリルートは慌てて死体から離れる。
「クヒ...クヒヒヒヒ....」
小柄な男は笑いながらこちらを向く。男の指先には、透明な糸のようなものと滴る血が垂れていた。
「ひ....!?」
リルートは走って逃げる。恐怖、それだけが彼女の精神を支配し出していた。涙を流しながらもその場から離れ、クルト、もしくはフレッド、ロッドがいないかと走る。するとその時、草むらから二つの人影が現れる。
「女もいるのか、こいつは売れるなぁ?」
そこにいたのは、身長2mほどはある筋骨隆々の大男であった。右手には巨大な鉈、そして左手に掴まれているのは手足を切られ、ダルマのようになったロッドであった。
「いやあぁぁああ———!!」
声にならないほど響く叫び、さっきまで仲の良かった彼は無惨な姿に変えられ、先ほど命を救ってくれた彼は首を飛ばされ、全てが酷い。血生臭く、苦しい。
息が上がってる。冷静でいられない。何が何だかわからない。肺に入る空気もとても痛い。痛くて痛くて、落ち着きたいのに....なんで落ち着か——
お前に れた を 壊する、 何 諦めずに生き残れ
声じゃない。その文字が頭に一瞬だけ浮かんだ...今のは一体....なんだ?
リルートの考えていたその時、既に呼吸は元に戻っていた。涙の感覚、腕の痛み、なぜか冷静だった。目の前に死が迫っているのにも関わらず——
私は息を吐くと剣を握った。今までにないほど全力で、悲しいのに、苦しいのに、私は闘志を持っていた。それはおそらく怒りだろう。ここまでされていて何もできないなんて自分が許せない。だからこそ、絶対に諦められないんだ。
「うあぁぁああ! ぁあああ———!!」
リルートは叫びながら大男に向かって走り出す。仲間を殺された苦しみを糧にリルートは走った。
大男は大鉈を振り下ろす。圧倒的な破壊力をリルートは紙一重で躱わすと懐まで潜り込むと剣を腹に向かって刺す。
「ぐ....が.....!?」
大男は苦しむ。リルートはすぐに剣を引き抜こうとする。しかし——
「剣が...抜けない...!?」
リルートは必死に剣を抜こうとするが引っ張っても抜けない。リルートが焦ったその瞬間、大男はリルートを突き飛ばし押し倒す。
「クソガキが....殺してやる!!」
大鉈を振り下ろしリルートの右腕が飛ぶ。
尋常じゃない痛みと共にリルートは叫ぶ、甲高いその悲鳴が、辺りに響く、熱を感じるほどの痛み。リルートは叫び続けるが、大男は続いて左腕、右脚、左脚と切り飛ばし、リルートは激痛を感じながら、絶命した。
リルートは叫びながら起き上がる。声にならないほど掠れている。だが強い叫びであった。全身に残る激痛と仲間の死、涙を流しながら起き上がったその時、リルートが感じていたはずの痛みは既に消えていた。
「.........あれ......? なん.....で....?」