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冒険少女の繰り返し  作者: 山田浩輔
切望の醒
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最終話 私たちの生き方

 違う。この世界はもっと昔から存在した。



 この世界は2回や3回なんて繰り返しじゃない。


 万に一つを超えた、億か、兆か、天文学的数字になり得るほどの回数、この冒険を繰り返した。



 何度も負け、何度もやり直し続けた。過程は多少変わっても、結果はいつも繰り返しだった。

 だがその僅かな希望は、無限の運命から見出されたんだ。


 香るのは血の臭い。私の眼に映るのは私を見下ろす黒い人影だ。でもそれに対して私はこう言うだろう。

 ただ小さく、ぼそっと呟く。


 「絶対に.....諦めない.....」


 

 その時、リルートのその髪は一瞬にして地に着くほど伸び始めると共に、髪は白く変色し始める。

 蚕の絹のような透き通った銀、リルートはそこでようやく立ち上がると、長く伸びた髪を切り落とし、肩ほどまで残り、あとはパラパラと散るのみだ。


 「........リルート..........」

 マルクスはリルートの姿を見て呆然としながら見上げていた。

 「なんだ? 何をした?」

 怪物は困惑した。困惑による冷や汗、いや恐怖と言ったほうが正しいだろうか?今までに見たことのない強大な何かを見ているような、そんな眼で。





 ()()()()()



 

 私の恩恵の弱点、それは“成長しない“ことだ。


 恩恵の使用とともに身体は成長しなくなり、発達することもない。聖剣の能力で人並みに傷は回復したが、人以上に回復することができなかった。片側の髪が伸びなかったことも、未だに通常の剣を持つことすらできなかったのも、私の恩恵のせいだ。




 だけど、SAVE(抑制)は[崩壊]した。

 


 その瞬間だった。8つの[闇竜]は同時に私を襲った。速い、はずだった。

 だが遅く、動きがまるで予測できる。

 

 なんだろうか.....すごく体が軽い。







 [闇竜]はうねるように、高速で変形するように襲いかかる。近くにいるマルクスも一緒に殺す勢いであるが、リルートはその攻撃を全て見切ると、復剣のみで全ての[闇竜]を撃ち落とした。




 次の瞬間、リルートが跳び上がったかと思うと地面は沼に変化する。リルートはそのまま[闇竜]の胴体の上に着地すると受け身を取りそのまま怪物の方向を一直線に走り出す。



 怪物はリルートに5本指を向けると光線を放つ。一瞬の射撃、だが当たる場所が最初からわかってるかのようにリルートは予測のみで弾道を躱わす。


 無限の試行回数。そこからほぼ全ての動きを見たことがある。それは繰り返し、絶望し、それでも諦めなかった。だからこそリルートは、その全てを避けるのだ。


 炎も鱗も毒も風も雷も、剣も弓も槍も斧もその全ての行動が手に取るように未来予測なんて経験上での思考に過ぎないのだから。


 それだけではない、仲間の援護射撃も同義だ。結晶も魔法も細剣も、拳も溶剣も、誰がいつ助けてくれるのかすら、完全に予測できる。


 思考は読ませない、無限の思考パターンを常に意識することで[読心]を使った瞬間に脳をショートさせる勢いで、絶対に勝ってみせる。



 10秒で盤面は復刻した。ただそれだけに過ぎない、ここからの崩壊すらできないほど


 

 リルートの間合いに怪物が入った。リルートの斬撃は怪物の首に直撃した。だが——


 「まだ終わりじゃない.....それくらいの攻撃は読める」

 怪物の首は[硬化]していた。リルートは復剣を押し込むがとても切れない。


 だが、それくらいは予測できる。



 次の瞬間、怪物の背後からマルクスは現れた。リルートとは反対方向から放つ斬撃。[硬化]はさせない、したらそのまま崩壊させる。


 [再生]がある以上は首を切っただけでは油断できないだろう。



 その瞬間、リルートの復剣から紫の電流が突如として走る。怪物が目にしたのは復剣の折れた破片をもち苦しむコルクだ。


 巡りゆく一瞬、例えそれが絶対的な力でも構わない。私たち(俺たち)が勝つ。そのために”今“が存在しているのだから。





 そして怪物(ニンゲン)の脳裏には一つの文字が浮かんだ。[死]と。



 怪物の首はそのまま地へと落ちるのであった。






 一瞬の静寂、だが怪物の死体はそのまま灰へ崩れ去り、聖剣もまた、灰へと変わるのだ。


 「勝った.......?」

 ラティナは半信半疑のような、目を見開いてつぶやいた。


 「.......そのようですね.....」

 レルフェンスはそのままフラフラとそのまま地面にへたり込むと息を吐く。



 そこで上がったのは咆哮にも近いような歓声であった。皆が勝利を噛み締める中で、リルートは涙をボロボロと溢れるばかりに拭い続けた。


 世界の記憶は確かに残っている、もう覆せないと思えるような運命を打ち砕いたのだから。


 

 リルートはそのままマルクスに寄りかかるように倒れると全身に激痛が走る。


 「痛ッ———たぁぁああ!!」

 

 今まで脳の処理が追いついていなかった。とてつもない激痛が走るが、それでも今は、喜びの方が強い。今はただ、それだけで構わない。




















 数日後。



 マルクスの容疑は晴れることとなった。魔族のことも、王都での事件も、ヴォルガーの自白ということで型はついた。王都だけでない、世界人口の5割強が帰らぬ人となる結果となった。



 英雄の歓迎に近いムードであったものの、大きなものにはできず、王都で小さく、その祝いは行われることになったのだ。




 リルートは車椅子に乗っていた。抑制が無くなった反動か、下半身が麻痺してもう動かない、左目の時計針はなくなり、今はほとんど見えない。



 「これで.....よかったんだよね?」

 リルートの言葉に酒を飲みながらラティナは言う。

 「きっとね.....カイルとフレッドも、きっとあっちで元気にしてると思うわ.......」

 「ヒッヒッヒ、小生もそう思いますな....」

 ラティナとコルクはそう染み染みと言うが、その直後にフレッドとカイルは現れる。


 「なーにーがあっちですか! 俺たちまだ生きてますから!!」

 「しかも結構不謹慎だぜ? 時と場合をだな〜」

 そうやってラティナとフレッドたちが話していると、マルクスとエレノアの近くの席に着く。


 「....もう王都には戻れないと....そう思ったんだがな....」

 闇の中でポツポツと光の灯っている街を見てマルクスは言うが、雰囲気を無視してリルートは食い気味に言う。

 「そういえば黒龍騎士団!洗脳が溶けたのはよかったんですけど....!」

 「よかったけど....どうしたんだい?」


 「まさかの気絶でほぼ外傷なし! インヴァルスさんどんだけ手加減してたの!?」

 「あー、まあ割とバケモンといえばバケモンだからね」

 エレノアは笑いながら酒を流し込むと勢いよく立ち上がる。

 「まあお姉さんからしたらこういう場は盛り上がるんだ! 楽しもうじゃないか!」

 「まあそれもそうね、ちょっと呼んでくるわね」

 ラティナはそのままフラフラと酔ったまま歩き出し、人混みの中に入っていた。


 「おや、皆さんお揃いのようっすね?」

 「ヒャッハー! 俺もいるぜ!!」

 アドレットとアイリスはいつも通りだ。やっぱりいい先輩たちだとリルートは思いながら笑う。

 「正直こんな事態になるとは思ってなかったっすが....よかったと俺は思うっすよ」


 しばらくするとレルフェンスとベンクトを引っ張りながらこちらの方に向かう。


 「全員揃ったかな、じゃあ———」



 「「「「「乾杯!!」」」」」





 その後、フレッドは騎士団に戻った。黒龍騎士団になるつもりはないらしく、今日も任務を忠実にこなしてるそうだ。


 カイルは今はギルドの受付をしながら生計を立てているらしい。たまに顔を見せるが人間関係にも恵まれてるようで、レオンと遊んだりもしてるらしい。


 エレノアは未だに冒険者を続けている。彼女の恩恵は後に教えてもらったが、そのおかげで私はあまり心配はしてない。あの人は優しいしきっと大丈夫だろう。


 一番意外だったのはレルフェンスとベンクトだ。彼らは2人で今は雑貨屋を営んでいるらしい。とはいえ商売は不得手なのか最初は結構苦労してるようで、だけど前よりも2人の顔には気持ち程度だけど笑顔が増えた気がする。



 ヴォルガーはあの一件で半魔族ということは広まってしまい、「王都にはいられない」と一足早く出て行ってしまった。だが真面目な性格なのもあって手紙は来る。辺境の村で家庭を持っているそうで、文面をみる限り楽しそうだった。


 

 コルクも相変わらず技術士として高い能力を買われ、様々な場所で活躍してるそうだ。喋り方は相変わらず怪しいが、文通だとしっかりした敬語だったので少し驚いた。


 

 私はマルクスの家に居候していた。家どころか身寄りはなくなってしまっていた。この身体じゃまともに働くことすら難しいのもあってか、マルクスが「家においても良い」と言ったので、遠慮なく暮らしている。多分命を狙った負い目もあるんだろう。


 マルクスは魔物研究者として今は働いている。魔族含めた生態や生存区域など、皆が安全に生きるためにだ。



 報奨金が入ったこともあり家は簡単に購入できたので、折半で払った。


 


 私の恩恵は感覚的にわかるのだが消えたんだろう。

 

 正直言って後悔はある、いろんな人の犠牲があって、今がある。だけど戻りたいとは思わない。みんなのおかげでこの未来を掴むことができたんだから。


 ウジウジしてたって変わらないし、後悔するくらいならもっと前に進むべきだ。思考を止めずに最後まで諦めなかった、それで今があるんだから。



 「...リルート、行くぞ」

 マルクスは私にそう言って車椅子を引く。空は晴天、綺麗な景色がそこにあった。

 復興のために動く人たち、笑いながら駆ける子供、風を感じる揺れる木々、そんなものを目にしながら、いくつかある墓の中で、まずは一つ目につくと、リルート自身の手で、一つ目に花束を置く。

 

 「遊びに来たよ、アモス」







  SAVE(保存) 平和な世界

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