第107話 鏡読み
[糸]の攻撃は今までよりも加速する。全員を殺してしまうかというほどの勢いで、だがその攻撃も一瞬で無意味と化すのだ。
[糸]が誰かに届くそうになる度にマルクスが崩剣で一瞬にして弾く。そして今までとは違いその[糸]は[崩壊]するのだ。
それを見たレルフェンスが[結晶]の剣山を生み出し、ダイスメンバー達に放出する。剣山は見切られ避けるがその直後にクルトやエレノア、フレッドやカイル、ベンクトが追撃をかけていく。さらにはラティナによる石の弾丸による援護射撃、状況を鑑みても戦況は悪くない。
(いや.....そうじゃない.......)
相手は暗殺集団ダイス、拠点や組織の名前が知れていること....もちろんアドレットが独自のルートで知っていた可能性もあるが、そんな状態でも暗殺を請負い、そして今でもその名を轟かせて生き残っているということは相当な手練れ達の集団で、だから生き残っているのだろう。
そしてもう一つ、レルフェンスやマルクス達を仕留めていないが攻撃をくらっているわけでもない、実力が拮抗してる、というわけではないのだろう。暗殺はそもそも正面を切って戦うものではない。狡猾に、確実な隙を打つ。だからこの戦闘は陽動、どこかに隠れた刃が狙ってる。
私が相手だと想像して考えろ。この中で最も優先順位を立てて殺すのなら、マルクス、レルフェンス、クルトあたりだろう。
だから彼ら3人が隙を晒すその瞬間を私も狙う。その瞬間、絶対に守り切る。
戦況は今の所代わりはない、レルフェンスは[結晶]の大剣山で一切近づかせることすらしない、それに彼の強さは遠距離からの一方的な蹂躙のような攻撃、そして奇襲に対して咄嗟の結晶による防御だ。油断こそしないつもりだが、彼が殺される可能性は低い。そうなるとマルクスか、クルトになる。
マルクスは[糸]から全員を守るために余裕がない、そしてクルトは今も前に出て戦闘をしている。そうなるとこの2人のどちらかが危ない、だから私の取るべき行動は....
「ラティナ...! 風を起こして!!」
「マグスキャントスエクソシア———」
ラティナが詠唱をし始めたその瞬間に道具箱から一つの四角いケースの様なものを取り出す。
「ミディアスインペトムヴェントス———」
ラティナは詠唱を終えるその瞬間、リルートはケースを開け、大量の紙をばら撒く。
「———スコール!!」
紙がまるで吹雪かのように戦場を舞う。視界が一瞬遮られ、まるで煙幕かのようにそこら中を舞い散る。紙を手に取るものが何人かいるが、その紙は真っ白で、そこには何もない。
「なんのつもりか分かりませんが....煙幕程度慣れているんですよ、むしろあなた達の方が———」
紙吹雪が散りながらも戦況は大きくは変わらないように思えた。だがその時だった。
紙吹雪の中で、一瞬だが不自然に紙がその部分を避けた。その瞬間、リルートはナイフを投げる。
ナイフは空中で止まり、その後地面へと落ちる。
「足音もなく....姿を消してレルフェンスさんに近づいた方法.....それは[透明化]......」
リルートはその後地面を見て、綺麗なままの地面を指さし言う。
「そして足音がしなかったのは[消音]かとも思ったけど.....違う.....地面に痕すら残らなかった....つまり....[念力]で空中を移動して近づいた.....そうでしょう....!」
リルートのその言葉を聞いて、ライトはクスリと笑うと答える。
「ええ.....その通りですよ....確かにその通りでした。でもね、あなたがそこまで読むと....僕は信じていました」
その時、マルクスの目の前にナイフを持った青年が現れると、マルクスの首を狙ってナイフを振るう。
「ぐ.......!!」
マルクスは咄嗟にその一撃を躱わすが、その瞬間、マルクスは足にクロスボウの矢を受けてしまう。
「そう読むと思って僕は....[念力]を二つ....正確には陽動の方を先に向かわせた......」
「マルクスさん...!一旦撤退してください...!!」
リルートはマルクスの所まで向かうとそのまま肩を貸して後方まで撤退し始める。
「逃すとでも?」
[糸]と矢がマルクスを襲うが、レルフェンスが[結晶]の壁を生成してその攻撃を止める。だがそれでも攻撃は続く。状況は一気に悪くなり、戦闘もまた不利になり始めていたのだった。




