第104話 浸透圧
「そうっすね、まあいくつか仮説は立てられるっすよね。まず一つ目、君の言う通り魔族を戦争などに利用する。人間が黒幕ってことっすよ。そして二つ目、それとは違い昔いた魔族の残党が既に上層部を支配し切っている....そうやって魔族の軍勢が生まれるという可能性っす」
その時、アドレットは一枚の古い紙をリルートの見せる。
「これはルックスパーティが見つけた...大魔族による計画書の一部っす」
その紙に書かれた文字はリルートには読めない....というよりは文字と判別することすら烏滸がましいような絵にすら見える。
「これは....?」
「3日で解読したんすが.....人類の家畜化計画っすよ。人間を支配して生贄を....という形でね、それをまだ大魔族の配下が生き残っているのかはわからないっすが....似たようなことを狙ってる可能性っすよ」
「まあ正直これだけならまだいいんすがね....」
アドレットの含みのある言葉にリルートが首をかしげると、アドレットは答える。
「まあ両方ってことっすよ、例えば一つ目のパターンなら、相手は人間ということになるっす、勿論厄介だし周りを納得させることも、やることが多いっすが、あくまで人間の範疇っす。そして二つ目の場合、こっちはその分やばい魔族の可能性が高いんで、シンプルに倒すとなるとかなりに戦力が必要になるっす。ですが、逆に人間はほぼ全て簡単に味方につけれるっす、魔族を倒す上ではね....」
「すみません....話が見えてこないんですけど....どういうことなんですか?」
「人が魔族を利用するために復活させようとしてる....だけどその裏に魔族が関わってるってことっすよ、人間に復活させるように動かして、利用するだけ利用して魔族の数が増えたその時にそのまま乗っ取られるとかっすよ」
「でもそれって対消滅というか...うまくいけばそこで戦力を分散させたりとか....」
リルートが自身の考えをアドレットに言ってみるが、アドレットは苦い顔でさらに続ける。
「まあそうっすね、うまくいけば....でも、事前に防ぐことがかなり難しいんすよ」
「そもそもその計画は....魔族を復活するのであれば....人が相当死ぬことになると思うんすよ、人間を好んで捕食するんで、だから前者二つなら事前に防ぐ事もできなくはないんすが....後者だとその後はどうにかなっても確実にどこかに被害が被ることになるんですよ」
「まあ俺の勝手の考えとしてはそんなところだと思うっすよ、それでどうするんすか? その計画を止めるアイディアはもうあるんすかね?」
「はい......協力してくれますか?」
「構わないっす、というかそのためにここに来たんすよね?」
〜大通り〜
「マルクスが逃げたらしいよ」
「わざわざ捕らえて処刑にせずに殺すべきだったし魔族に猶予を与えるのがそもそもよくないのさ」
「でも気になることもありますよねー」
冒険者たちの噂に対して自然に受付嬢は話に入り込むとそのまま続ける。
「どうしてマルクスって腕を再生させないんでしょうね、魔族って国がわざわざ言ってるのに、おかしいですよね」
「あー.....そういえばそうだな....?なんでだ?」
「さあ?なんか恩恵でも関わってんじゃねえか?」
これだけでいい、必要なのは不信感、その違和感を少しずつ、だが確実に染み込ませる。それこそが第一歩なのである。