第99話 圭滅
2人の想いは互いに一つ[平和]
だが決定的に2人の平和にはそこにいる人達に、明確な差があった。
「私の名前はヴォルガー・ハンスレット.....お前の名前はなんだ」
マルクスはしばらくの沈黙の末、ゆっくりと口を開く。
「......マルクス........」
その言葉を聞き終えるとヴォルガーが追撃しようとしたその時、魔族が2体現れるとマルクスを襲う。マルクスはすぐにその2体を斬り払うが、その時ヴォルガーは糸刃が届く距離まで近づいていた。
ヴォルガーが糸刃を放とうとしたその時、マルクスは近くにあった水の溜まった水瓶をヴォルガーに向かって投げる。だがヴォルガーはそれを斬り払ったその時だった。
「な......!?」
マルクスが崩剣で水に触れた時、水から煙が上がると崩剣を[魔剣]状態で石畳を叩き火花が散ったその瞬間、一気に周りが燃え上がる。
ヴォルガーにも火が燃え移り、すぐにはたき消そうとしても火の勢いは止まらない。
(なぜ急に炎が…..いや———)
崩剣は物質だけではなく、現象すら[崩壊]することができる。つまり”水を[崩壊]させる“ことで水素と酸素に分解、そうすれば炎の勢いを強める気体となる。
(つまりそれくらい高精度の[崩壊]が可能.....水は形こそないが....そのような[崩壊]をする....ならば....)
ヴォルガーは燃える腕の痛みを無視するように糸刃での波状攻撃を続ける。
マルクスは糸刃を弾きながらヴォルガーに近づき、糸刃の攻撃は増すが、その瞬間、[魔剣]で地面を叩き、その衝撃でヴォルガーの目の前まで来ると糸刃と糸刃の僅かな隙に崩剣を切り込む。
ヴォルガーは崩剣の斬撃を紙一重で避ける。剣撃の軌道に合わせて炎を纏った部位を皮一枚で避けると、炎は消滅する。
マルクス、お前の崩剣は現象すらも[崩壊]する、つまりは炎....現象である燃焼すら[崩壊]する。炎だけが崩剣にぶつかれば....お前の炎は意味をなくす、炎を出した時に私にだけ喰らったのは....マルクス自身にくる炎を[崩壊]させたのだろう?
至近距離まで近づいたマルクスに対してヴォルガーは糸刃で囲い込む。マルクスに避けることはできないはずだ。崩剣で弾こうにも他の糸刃がマルクスを斬り殺すことができる。
「終わりだ、マルクス」
その瞬間、マルクスは[魔剣]を使い、ヴォルガーに向かって崩剣を投げる。
「なッ.......———!?」
[魔剣]により加速した崩剣は、細剣の柄に命中する。簡単な話だ。何本も刃があるのなら、その根本を狙えばいい。
細剣はぶつかった衝撃で飛ばされる。連鎖するように糸刃も大きく動く。そしてその瞬間、血飛沫が上がる。
「ぐ.....がぁ......っ......!!」
吹き飛んだのはマルクスの左腕、腕に糸刃がぶつかった衝撃で僅かにできたその隙間を、マルクスは抜けていた。
だがその間にヴォルガーはすぐに細剣、そして崩剣を拾う。
(武器は奪った、これで———!!)
「が.....あぁ......ぁあ!!」
崩剣を手に持ったその瞬間、紫の稲妻が迸り、その激痛でヴォルガーは思わず崩剣を手放す。
その放った崩剣をマルクスは手に取り、地面に突き刺すと、地面が大きく[崩壊]する。ヴォルガーは追撃しようにも、糸刃の間合いが届かない。
崩壊した地面を前にそれでも追いかけようと走るが、足場が悪く、すぐ崩れゆく地面を前にマルクスに追いつくことはなかった。
「逃げられたか..........」
この事件での被害者は2000人、王都の人数は20000人ほど、この事件で王都の魔族は殆どが消え、この世から魔族は殆どが絶滅することとなった。
「———信じられないとは思う.....だがこれが........真実だ」
マルクスは半ば諦めながら口にするが、リルートは首を横に振るう。
「いえ、私は信じます。あなたがしたことは.......悪のためなんかではなかったと」
正確には違う。そもそも.....マルクスの件はとにかくおかしい部分が多かった。
魔族と言う噂もあるがならば切断された左腕を再生させていない時点でおかしい。
それだけじゃない、2000人を崩壊させ死体すら残さなかったというが、崩剣自体は私が刀身に手を触れても手の皮を崩壊させるまでしか至らなかった、おそらく人の身体は複雑で崩壊させるのが難しいのだろう。だから死体が崩壊させるのを、たった一晩でするのは難しい。むしろ崩壊したのは必然.....魔族は死んだ時に身体が崩壊するから......
更にはあの言葉だ。
「ファルメル、彼はルックスというパーティにいた一人よ、彼らを率いるラグナは沢山の魔族を殺した悪人、人間の中では英雄と呼ばれているけど、彼ら、そして1人の人間によって、魔族は既に絶滅状態、せめてもの仕返しってとこかしらね?」
リリシアの言ったこの言葉、ルックスパーティとは別に....1人の人間が魔族を絶滅に追いやった。ループできなければ気づくことすらなかっただろう。
そしてヴォルガーの言葉.....
*****
その表情には複雑な感情と怒りが見てとれた、リルートがその表情を見て口を開けずにいるとヴォルガーが口を開く。
「他に何か聞きたいことはないのか?」
「そうですね....マルクスの能力について....教えてくれませんか?」
「噂くらいは聞いたことあるだろ? [崩壊]、触れたものを名前の通り崩壊させる。殺意に満ちた能力だ」
「その能力だけですか.....? 他に何か....」
「俺が見た時点ではな、人に恩恵は一つしかない、それは当たり前のことだ」
彼はマルクスを魔族と言いながら恩恵と言う言葉を使い、人であると断言していた。もちろんマルクスを助けることは賭けではあった。だが私は何度でも繰り返せる。もしも私の見立てが違えば......また繰り返せばよかったのだから。