呪縛
晴れた夏の日、見上げた空に雲がひとつふたつ、と泳いでいて、私が見上げるときにはいつも、お日様はその雲の陰に隠れていた。
明るい舗装路に影は出来ず、沈澱した粉塵のような暑さがゆらゆらと揺れながら続き、やはり太陽は私に姿を見せようとはしない。
空ばかりを見ていると、私は私の存在を忘れてしまいそうになる。いつも、何度も世界に私の姿を見失い、その度に此処に居る私が奇妙に虐げられる。
何者にもなれぬと嘆いてみても、私はやはり何者でもない私であって、否が応でも存在し続ける居場所がきりきりと胸を締め付ける。
いっそのこと私がいなければよかった。存在ごと無いものになり、ゆえに私の消失に誰も気が付かない。そんなひとひらの風になって、例えば一羽のさえずりに身を砕かれ、私の残した小さな水波や私の落としたしわがれた枯葉すらも、数多の他者に踏付けられ、いぬ者に私はなりたい。
それでも私たちは出会ってしまった。
もはや私は消え入ることがないし、あなたも朽ちることがない。二人で見た夜景は煌々としながら私にあなたを思い出させ、あなたはたった一枚のパーカーに私を感じるだろう。
過呼吸のたびに吐いた言葉、それに応えてかけた言葉。思い出さずともすっかり積もり溜まって、もう消化されることはない。
私たちは合わないもの同士。合わないのに深くまで絡み合ったから、後戻りしてもう、元には戻れない。