私、メ リーさん
――ピロリン♪
朝、着信が鳴ったと思えば、1通のチャットが届いていた。
『私、メ リーさん。おはよう』
礼儀正しいメリーさんだね。
『私、メ リーさん。今、上町2-10 グランタワー上町503号室にいるの』
個人情報ダダ漏れじゃねーか。
――ピロリン♪
『私、メ リーさん。今シャワーを浴びてきたところなの』
へいへい、優雅な朝でございますね。
『私、メ リーさん。今、童貞のアナタがシャワー上がりの私のことを考えて、いやらしい妄想をしていると思ってるの』
してねえわ! つーか、童貞じゃないのはオマエがよく知ってるだろ!
……ったく、チャットしてるヒマがあるなら支度しろよ。
――ピロリン♪
『私、メ リーさん。支度ならもう出来たわ』
でしょうねでしょうね。それで家を出たら、今○○なのってどんどん近づいてくるんだろ。
――ピロリン♪
『私、メ リーさん。出かけようと思ったけど、なんだか今日は迎えに来て欲しい気分かも』
え?
――ピロリン♪
『私、メ リーさん。王子様の迎え待ち中』
『私、メ リーさん。迎えに来るまでベッドで二度寝します』
『私、メ リーさん。早く来て』
『私、メ リーさん。待ってるから』
待て待て、メリーさんはどんどん近づいてくるからメリーさんなのであって、そのアイデンティティを放棄したら、それは最早メリーさんではないぞ。
――ピロリン♪
『私、メ リーさん。返事がないと寂しいよ……』
……しょうがないなあ。よし!
ポチポチ……(ピンポーン♪)
あれ、こんな時間に誰だよ。
「はーい」
「私、メ リーさん。寂しいからアナタの家の前まで来たの」
なんだよ、結局来たのかよ。
モニター越しに映る彼女の姿を見て、俺はスマホの画面に打った送りかけのメッセージに目を落とす。
『私、芽亜莉さんの彼氏。今からアナタの家に行くの』
お読みいただきありがとうございました。