4‐12媚薬におかされた皇帝とまぼろしの誘惑
後宮の女官占い師でははじめて、ちょっとアレなシーンがあります。
15禁ほどですが、ご理解してお進みください。
媚薬におかされた累神は意識が混濁していた。
(俺はなにをしていたんだ……?)
もうろうとして何も思いだせない。指の先端まで痺れるほど熱を帯びていた。個室のなかはすでに香が充満していて、呼吸するだけでも噎せかえりそうになる。それになんだか、腰のあたりが重かった。
誰かに乗りあげられている?
かすんでいる眼をこすってみれば、ひとりの姑娘が累神に跨って腰帯を解こうとしていた。累神は息をのむ。
そこにいたのは易妙だった。
控えめな胸をはだけさせて、清純な裸身をさらしている。微かにともされた燈火が、吸いつくようになめらかな素肌をうす暗がりに浮かびあがらせていた。
「な、なにをして」
「累神様」
情欲を滲ませた眼をして、妙がせまる。
「熱くてたまらないんです」
無尽蔵の食欲からは想像もつかないほどに細い腰を揺らめかせて、妙は妖艶に誘いかけてきた。
「ね、抱いてください、累神様」
累神はごくりと喉を動かし、視線を彷徨わせる。
彼女のこんな姿を、想像したことがない――わけではなかった。
もともとは単純に心理というものを分析して事件を解く易妙の明晰さに惹かれた。だが、いつからだろうか。妙という姑娘のすべてに惹かれるようになっていった。
幸せそうにご飯を頬張る笑顔が可愛くて、掃除洗濯をやりすぎてあかぎれだらけなのに働けるだけで嬉しいと笑っている姿がけなげで。いかなる身分の相手だろうと臆さずにむかっていくところが頼もしくて――彼女の全部が愛しくてたまらなくなった。
(哥様は妙大姐のことがお好きなんでしょう?)
星辰にそう尋ねられて、累神は産まれてはじめて、人を好きになるというのがどんな心理なのかを理解した。
そうか、これが恋かと。
それからは想いが膨らむばかりで、いつかはこの腕に彼女を抱けたら、なんて馬鹿なことを考えたこともあった。
「っ……」
累神は手を伸ばし、妙を抱き寄せようとする。組みふせ、唇に接吻をして、それから――つきない欲で眼がくらむ。
「……だめだ、妙」
けれど累神は滾る欲を振りはらった。
妙――だと想っている織姫の肩を強くつかみ、遠ざける。
「俺はこんなふうに、あんたのことを抱きたくない。もっと、たいせつにしたいんだ」
異様な欲に浮かされている時に、崩れるみたいに境界線を越えてしまったら、ぜったいに後悔する。
「なにより、俺はまだ、あんたに好きだとつたえられてない」
累神はふらつきながら、身を起こす。脚がもつれる。だが、身をひきずるようにして彼は個室を後にした。
織姫は拒絶されるとは想わなかったのか、累神をひきとめることもわすれて、呆然としている。やがて累神の靴音が聴こえなくなってから、彼女はその美貌を屈辱でゆがませた。
「許せない、あの小娘――わたくしを馬鹿にして」
お読みいただきまして、御礼申しあげます。
ちょっとドキドキするシーンでしたね。お楽しみいただけましたでしょうか?
もし楽しめたらお星さま、いいね、ご感想にてお伝えいただければとても嬉しいです。今後ともよろしくお願いいたします。