表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/111

4‐7側近の噂と御寵愛

累神(レイシェン)様は慎重を期するひとだ。経済恐慌については誰にも洩らしていないはず。知っているとすれば、日誌をみつけたイン様とろうかにいた側近か。でも、彼らがいた廊と房室へやまではかなり距離があった。そんなに聴こえるものか?)


 洗濯物をざぷざぷとおけのなかで揉みながら、ミャオは考えこんでいた。


(それにあのふたりに嘘はなかった。玄嵐シェンラン様が裏切ったのだとしたら、互市貿易ごしぼうえきが民を飢えさせたりすると考えたから、だろうけど。まだそこまで結果がでてるわけじゃないし。それにあのひとだったら占星をつかって失脚させるとか遠まわりなことは考えず、斬るとおもうんだよな)


 だとすれば、ユンか。


(でも、星辰シンチェン様につかえていたひとが累神(レイシェン)様を裏切るかな)


 ユンは星辰の想いを成就させたいと語っていた。その言葉に嘘はなかった、はずだ。


「ああ、つめたい。冬の洗濯ってさいあくよね」


 黄黄ファンファンの声にミャオはいったん思考をやめる。


「ですよねぇ、つきあわせちゃってごめんなさい」


 いっきにまわりから避けられるようになった妙は、洗濯を押しつけられてしまった。冬の洗濯はきつい。指はかじかむし、厚物ばかりなのでなかなか終わらないし、しもやけになることもある。


 それなのに、黄黄ファンファンは「一緒に終わらせちゃお」と声をかけてくれた。時々ふらっといなくなっては骨折したりぼろぼろになって帰ってくる妙のことを、事情は知らないなりに案じてくれている。


「噂とかに惑わされて、態度を変えるやつってきらいだから。別にあんたに気遣ってるわけじゃないわよ?」


「あはは、私も一緒です。ああいうのって、馬鹿みたいですよね。ところで、先輩。諸葛ショカツユン様とヂャン玄嵐シェンラン様って知っていますか?」


 黄黄ファンファンは「もちろんよ」と眼を輝かせた。


累神(レイシェン)様の側近でしょ? おふたりとも超絶美男子って有名よ。私は雲様にしかお逢いしたことがないけど」


「へ、へえ」


 雲はともかく、玄嵐は……まあ、筋骨隆々な男らしい男も需要はあるのだろう。


「雲様ってほんとに素敵よね。浄身じょうしんではなくとも後宮に渡ることを許されていて、星辰シンチェン様が幼いころから家庭教師として御側におられたとか。やんごとなき家の四男でね、いつかは諸葛家を継がれるのよ」


「四男なのに?」


「複雑な経緯を持っておられるのよ。四男って基本は家督を継承することはないでしょ? でも、長男二男三男が夭逝ようせいなさった結果、雲様が後継者になったってわけ」


「なんかそれ、ちょっと陰謀のにおいがするんですけど」


「そんなわけないわよ。だって、御兄弟が死逝されたのって、ユン様が五歳とか八歳とかそのくらいのころよ?」


 なるほど、さすがにそんな幼さで暗殺なんかしないか。

 帯を洗い終わり、ちからいっぱいに絞る。すっかりと手がまっかっかだ。


玄嵐シェンラン様は孤児院育ちなんですって。それで皇帝の側近まで昇進なさるんだからすごいわよね」


錦珠ジンジュ様を支持されていたとか」


「そうみたいね。なんでも、民を支援していた錦珠様の活動で、傾きかけていた孤児院が再建できたそうよ。それから錦珠様に心酔していたとか。今となっては複雑なかんじでしょうけど」


 そういう先輩だって一時期、錦珠推しだったはずだ。


「それより、累紳(レイシェン)様とはどうなのよ」


 黄黄がにやにやして、わき腹をつんつんしてきた。妙はいまいち、黄黄に尋ねられたことが理解できず瞬きする。


「どうといわれましても? お逢いしたときに高級な月餅をいただいたり」


「そうじゃないわよ」


 彼女はぐいと身を乗りだしてきた。


「ご寵愛ちょうあいのことよ」


 妙はぽかんとなる。


「へ? 私、女官ですよ。それって妃妾様とかの話じゃないですか」


「ばかね、あんたは累神様つきの占い師でしょ? 特別な想いを抱かれてもぜんぜん変じゃないわ」


「変ですってば、そもそも身分が違いすぎますし」


 苦笑して「ないない」と袖を振る。一緒に神サマを殴りにいった、という意味では特別な関係だが、恋愛とかそういうものではなかったはずだ。


「あ、でも、かんざしはいただきましたけど」


「な、な、なっ、かんざしですって!」


 黄黄ファンファンがとんでもない大声をあげた。洗濯板がひっくりかえって、桶の水が跳ねる。妙は頭から水をかぶりかけた。


「んっもう、ばかっ、ほんとばかっ、それって――――」


 そこまで言いかけて、黄黄は妙の背後にある庭のほうに視線をむけて、眼をまんまるにした。妙がつられて振りかえる。


累神(レイシェン)様っ」


「よかった、逢えた」


 真紅の髪をなびかせて塀を越えてきた累神が笑いかけてきた。

 日輪たいようのような眼が妙を映す。黄黄ファンファンは噂の皇帝の登場に慌てる。


「どうぞどうぞ、連れていってくださいな! 朝まで帰ってこなくてもだいじょうぶですから! ふふっ、お邪魔ムシは退散しますね!」


 洗濯物を抱えて、やたらとにやけながら遠ざかっていく黄黄を眺めて、累神があっけにとられたようにつぶやく。


「ず、ずいぶんと賑やかな女官だな」


「ええ、まあ、……いいひとなんですけどね」


 今の時期に累神が逢いにきたということは宮廷でもかなりやばいことになっているということだ。


「さてと、いきなりだが、ついてきてくれるか。豪商と逢う約束をしている。御礼に異境の料理をたらふく食わせてやるから」


 累神(レイシェン)は都に繰りだすための変装服を渡してきた。相変わらず、給金何ヶ月分かというほどに高級な絹の服だ。累神と逢わなければ、こんな服に袖を通すことはまずなかった。


「了解です。……ご飯はもちろん楽しみですけど」


 服を預かって、ミャオは笑いかける。


「ちょうど、私も神サマを殴りたいとおもっていたところなんで」

お読みいただきまして、御礼申しあげます。

怒涛の毎日投稿ですが、お読みくださっている御方がおられるというだけで嬉しいです。今後ともよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング
ぽちっと投票していただければ励みになります!
ツギクルバナー
ぽちっと「クル」で応援していただければ嬉しいです
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ