4‐5予言、盗まれる
それからひと月経って、いよいよに師走となった。
都も宮廷も新たな年を迎える準備に慌ただしく、町が賑わいだす時期だ。互市貿易が始まって後宮にも大陸外の品がならび、妃妾たちは歓声をあげていた。順調そうだと胸をなでおろしていたやさき、その事件は起きた。
「変だなあ」
後宮の街角で占い師商売をしていた妙がぼやいた。
これまでならば、すぐにでも列ができるのに、客がまったく寄ってこないのだ。一様にこちらを指さして、ひそひそと囁きあいながら遠巻きに通り過ぎていく。
「ねえ、ほら、皇帝陛下つきの占い師っていかさまだったんだって」
「なんでも、狐が憑いてるとか妖猫が憑いてるとか」
「易占をする振りをして、魂を抜くそうよ」
妙はあんぐりと口をあける。
(な、な、なんだってぇ――――)
知らないうちに化け物みたいな言われようになっている。
「あの占い師が偽りの星を皇帝にしたせいで星の経済が崩壊するって、宮廷巫官様が神託を――」
妙はいてもたってもいられなくなり、妃妾たちの噂に割りこむ。
「それっ、どういうことですか!」
妃妾たちは「ひっ、呪われる」と妙のことを怖がって、逃げていった。
「なにこれ」
妙だけがぽかんと取り残された。
…………
昼の休憩のあいだに噂がまわったのか、妙は職場の同僚たちにも徹底して無視された。避けているというか、怖がっているというか。
「なんだか、大変なことになってるけど……だいじょうぶなの?」
黄黄という先輩だけが心配して、声をかけてきてくれた。黄黄は前から妙のことを気に掛け、一度刺客に奇襲されて傷だらけで帰ってきた時は怪我が完治するまで重労働を替わってくれた。
「にゃはは、なんかそうみたいですね。でも、私には後ろ暗いことなんかひとつもありませんから、へいきです」
妙は胸を張る。神やら祖霊やらが憑いているというのは大嘘だが、狐や妖猫も憑いていない。
「だよね。なんかあったら、相談に乗るから言ってよね」
「ありがとうございます」
だが、ほんとうにどうなっているのか。
星が経済恐慌になるというのは月華による予言だ。それがなぜ、宮廷巫官の神託ということになっているのか。
そもそも、この予言は公にされていないはず。
(姐さんの予言が盗まれた)
それだけでも腹がたつのに、神託にかこつけて累神のことを侮辱するなんて。
(禍の星のつぎは偽りの星か。神サマって、ほんとにそういうのが好きなんだな――ほんとむかつく)
商売はあがったりだが、それより妙は累神の身を案じて、鈍いろの寒空を振りあおいだ。さすがに宮廷ではまっこうから皇帝を非難するようなものはいないだろうが、あらぬ疑いの眼をむけられているはずだ。
冬枯れの枝から枯れ葉がひとつ、風にさらわれて舞いあがる。
「累神様……」
嵐の予感がした。星を散り散りにする真冬の嵐だ。
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