幕間 皇帝からの贈り物
「次にくるライトノベル大賞」ノミネート祝のSSです!
「いやはや、これからさびしくなりますなぁ」
皇帝即位を控えた累神は都を訪れて、豪商と会っていた。このたびは餐館ではなく高級な品ばかりを取り扱っている百貨店で、上流市民の視察をかねている。
「これまでどおりにとはいかないだろうが、貿易と政は通じているという俺の考えは変わらない。これからもあなたとはよい関係を続けていきたいとおもっているよ」
「それは有難いことでございます」
あいかわらず狸のような腹のまえで手を組みながら、豪商が頭をさげる。
累神は様々な品をみて物価や物流、市民の関心事などを推察していたが、あるものに視線を吸い寄せられる。
なんでも南の島から取り寄せた芒果という果実を練りこんだ月餅だとか。ちょっとだけくせがあるが、うっとりするようなあまいかおりが漂ってきた。累神は食べ物には興味がない。思い浮かぶのは食いしん坊な女官占い師の顔だ。
土産として彼女に渡したら、喜んでくれるだろうか。
「例の彼女のことですかな」
豪商がにんまりとする。
「月餅だけでわかったのか」
「わかりますとも。易 妙、彼女は頭の回転もはやく、じつに素晴らしい小姐さんです。なにより、あの食べっぷりはたいへんきもちが好い。皇帝になられたあとは、すぐに彼女を皇后にお迎えになるおつもりで?」
累神はまもなく二十五になる。廃皇子という身分ならばともかく、皇帝になって結婚もしていないでは後々、厄介事の種になる。
「いや、皇帝に即位してしばらくは宮廷も落ちつかないだろう。まだ、俺が皇帝になることに不満を抱えているものもいる。竜倚の空白期に政にも綻びができはじめているから、そちらを対処してしまわないと。安定するまでは皇后も妃も迎えないつもりだ」
「左様ですか」
それに妙は皇后になることなんて望まないだろう。望まないことを、彼女に強いるわけにはいかない。
士族たちはこぞって、累神に皇后を迎えさせようとするだろうが、累神が毅然とした態度で拒否すればいいだけだ。累神の心はすでにきまっているのだから。
「では、そのようなときだからこそ、宝飾品などを贈られてはいかがでしょうか。累神が変わらず、彼女に想いを寄せている、という誓いの証になるような。こちらなど素晴らしいですよ。とても希少な紅珠の首飾りです」
豪商が累神に勧める。
累神は祭りのときに星辰が「残る物を渡すべきだ」といったのを想いだして、頬を綻ばせた。だが、玩具みたいな髪飾りならばともかく、いかにも高価な品を渡しても妙にとっては負担になるだけだろう。
「いや、彼女には月餅を渡すよ」
「そうですか」
豪商はがっかりしたように眉をさげる。
だが、累神は晴れやかに笑った。
「いまは、な」
いつか。
かならず、累神が妙にむける愛にふさわしいかんざしを渡す。その時には「あんたを皇后に迎えたい」と伝えよう。
それまでは、まだ。
月餅を購入し、累神は妙に思いを馳せる。彼女は喜んでくれるだろうか。猫耳のような髪をぴこぴこと跳ねさせて、笑ってくれるに違いない。
妙の屈託がない笑顔を思い浮かべて、累神は微笑んだ。
お読みいただき、ありがとうございます!
「後宮の女官占い師は心を読んで謎を解く」が「次にくるライトノベル大賞」にノミネートされました!
これもすべて日頃からご愛読くださる読者さまの応援のお陰様です!
ノミネートを祝して、そして読者さまへの感謝をこめたSSでしたが、楽しんでいただけましたでしょうか?
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