７ 占い師に嘘は通じない
推理回です！
「貴方、嘘をつきましたね」
「……な」
誰もが息をのみ、小紡に視線をむける。
「なによ、それ！」
疑われた小紡は真っ赤になって、声をとがらせた。
「言いがかりはやめてよ！ 嘘なんかついていないわよ」
胸を張っていいながら、小紡のつまさきは微かにあがっていた。心から反論するならば、持ちあがるのは踵であろうに。
「その言葉がまず、嘘ですね。占い師に嘘は通じません。私には神と祖霊がわんさか憑いていますから」
小紡が絶句して、はくはくと唇を動かす。
強張った頬をゆがめて、小紡は女官たちを振りかえると声をあげた。
「こっ、この占い師が娟様を殺したのよ！ 予言が的中したと想わせるために、娟様を自害に見掛けて殺害したんだわ！ ね、間違いないわ！」
女官たちが困惑して顔を見あわせる。綾綾が眉を垂らして、いった。
「無理ですよ。大通で働いておられた占い師さんにできるはずがありません。それに宮に部外者が侵入してきたら、衛官が気づきます。屋頂でも渡ってこないかぎり」
紅潮していた小紡の頬が今度は、青ざめた。窮して彼女はぎゅっと袖を握り締める。
「小紡さん、さきほどから左側の袖に触れておられますよね。房室に帰って早々に着替えたいのでは？」
嘘だ。彼女が袖に触れたのは、今だけだ。
だが、冷静さを損なった小紡は、咄嗟に袖を隠すようにした。
「縊死された娟倢伃の爪は割れていました。殺されまいと抵抗されたあとでしょう。おいたわしいことです。割れた爪には……麻の糸が、絡んでいました」
こちらですと差しだした。
綾綾たちが手に取って確認する。
「確かにこれは、私たち女官の服の」
「……小紡さん、そちらの袖を確認させていただいても宜しいですか」
小紡が抵抗する。他の女官が取り押さえて袖を確かめた。
「まあ、破れているわ」
彼女の袖は予想どおり、破れていた。ほつれた布地からは赤い糸が垂れている。
それだけではなかった。
「これ、娟様の笄だわ」
「まさか、盗んだの！？」
袖から取りだされたのは真珠の笄だ。非常に高値な物だった。
「これで謎が解けましたね。なぜ、小紡さんが娟倢伃を殺害するにいたったのか」
酷い話ですといってから、妙が語りだす。
「小紡さんは留守だった娟倢伃の房室に忍びこみ、私物を盗みだそうとしていた。でも不運なことに娟倢伃が帰ってきてしまった。殺すつもりなどはなかったはずです。
ですが揉みあっているうちに貴方は娟倢伃の首を絞めあげて、殺害してしまった。動転した貴方は咄嗟に彼女が自害したことにしようと想いつき、木蓮の枝につりさげた」
娟倢伃の背がよごれていたのはひきずられた跡だったのだ。牀几は彼女自身がつかったので、忘れなかったが、沓までは神経がまわらなかったのだろう。
「占い師の話を後から聞いて、これ幸いとおもったのではありませんか？」
綾綾にいったことは彼女の思考そのものだったのだ。疑われまいとするあまり、よけいなことをいって襤褸がでたなと妙はおもった。
「ち、違うわよ」
だが小紡は、なおも食いさがる。
「これは娟様に貰ったのよ。女官は全員この服だし、働いていたら袖が破れることくらい、あるでしょう？ それともなによ、私が娟様を殺すところをみたとでもいうの」
「そ、それは……」
女官たちが騒めいた。
理にはかなっていても、一連の推理は、推理に過ぎないのだ。
「ほら、私は無実よ！」
お読みいただき、御礼申しあげます。
なぜ、妙が彼女の嘘を見破ったのか、は今後、心理学に基づいて答えあわせいたします。
