3‐9新たな皇帝にまつわる予言!?
帰りの馬車に揺られながら、「お腹いっぱいです、もう食べられません」と幸せそうに蕩けていた妙が、ふと真剣な声をだす。
「……商人たちですが、今後も星辰様の支持をしてくれますかね」
「問題ないはずだ。ここで莫大な資産をもった商人や幇が錦珠についたらさすがにやばいが、彼等が反発を続けているかぎりは、錦珠たちもそうそうは動けないだろう」
馬車の窓からふと、賑やかな声が聴こえてきた。
黄昏にそまる都の町角に大勢の人が群がっている。人々はなにやら有難いと拝んだり、首を捻ったりと騒々しい。人々が口にしている「新たな皇帝」という単語に反応し、累神は馭者に馬車を寄せるよう、指示する。
群衆にかこまれて、老婆が朗々と高唱している。数珠のついた服からその老婆が巫官であることがわかった。もっとも宮廷巫官ではない、はずだが。
「日輪をも統べ、随えるものが新たな皇帝となる。晩夏の候、万民が天の意を知るだろう――これが、宮廷巫官の予言である!」
妙は窓から頭をつきだして、息をのむ。累神が慌ただしく馬車から降りていく。
「累神様!」
妙も慌てて彼に続いた。
「宮廷巫官の託宣を詐称するのは大罪だ、それは事実なのか」
累神は巫官につかみ掛からん勢いで糾弾する。老いた巫官は歯が抜けた口を開け、笑った。
「天地神明に誓って、宮廷巫官が受けた神託に相違ないよ」
累神が妙を振りかえる。嘘をついている様子はないかと。
「真実、だとおもいます」
だが日輪を統べるとはどういうことなのか。
累神が眼差しをとがらせる。
「……不穏だな」
累神からすれば、宮廷巫官の予言というだけでも古傷に塩をぬられるような心地だろうに、それが新たな皇帝について語るものならば、なおのこと、胸がざわつくはずだ。妙もまた唇をかみ締め、予言を延々と繰りかえす老巫官と、群がる民衆を眺めていた。