3‐7女官と廃皇子は寄りそう
「民は食をもって天をなす、とはよくいったものだな」
「そういう意味では、錦珠様は民の心理をがっつりと掴んでいるわけですね。重ねて、錦珠様には強硬派の後ろ盾もあります」
今の政に不満を懐き、革新を臨む若者が同調しやすいということだ。
「錦珠様が皇帝になれば、腐った政をなんとかしてくださるに違いない、なんて声は巷でもよく聞きましたね。まあ、私はそんなに腐っていると想いませんけど。ふつうじゃないですかね、今の政って」
累神は微かに苦笑して、視線を遠くに馳せた。
「皇帝は、……堅実な御方だったからな。まあ、皇帝としては問題のある男ではなかったとおもう」
「そうそう、完璧な政なんかないですからねぇ」
息子という立場だからか、累神の皇帝にたいする評には含みがあったが、妙は敢えて触れなかった。踏みこんだら、ぜったいにやばい話だ。
だが、皇帝が崩御してから約十四カ月経っても新たな皇帝がきまらなかったわけが、これで妙にも明確に理解できた。
支持層の違いがあれど、錦珠と星辰は予想よりもはるかに拮抗しているのだ。
妙は隣を歩く累神に視線をむける。
提燈のあかりを映した紅の髪が、うす暗がりのなかで燃えていた。百日紅より華やかな男。廃嫡でさえなければ、すぐにでも皇帝は累神にきまっただろうと妙は思う。
「俺はひとまず、星辰の後援にまわろうかと考えている。錦珠に支持が傾きすぎたら、やっかいなことになる。現段階では、俺は候補者でもないからな」
累神が振りかえる。その眼差しは真剣だが、朗らかだった。
「あんたの考えはどうだ」
「累神様に同意ですね」
彼が尋ねてくれることが嬉しくて、妙は頬を綻ばせた。
石畳を敷かれた路に伸びた影は、寄りそっている。ふたつの影は満天の星に照らされて、どこまでも一緒に歩いていった。




