22 縁は禍福を糾う
「う、うっ、うまあああぁぁっ」
至福の声が響きわたる。
日は暮れ、あたりにはこうこうと提燈が燈されていた。春といえども、風は寒々しい。劇場の外にある階段に腰掛けて宮廷の包子を頬張る妙は、感極まっていた。
蒸したて熱々の饅頭から豚の脂がじょわじょわと滴るほどにあふれだす。上質な脂で頬が蕩けたところで、今度は筍、香菇、帆立、海老が躍りだしてきた。
ふわり、じゅわ、ぷりぷり、とろっ、こりこりと、擬音が口のなかを跳ねまわる。さながら高級食材たちの華劇だ。旨くない、わけがなかった。
「こんな豪勢な包子、食べたことないですよ」
妙は瞳いっぱいに星を瞬かせて、感激している。
「ふ、よかったな」
累神が微笑して、妙の頭をぽんぽんとなでた。
ひとくちごとに歓喜に震える妙をみつめる累神の眼差しは暖かい。愛しむように眸を細めながら、彼はいった。
「ほかにも食べたい物があれば、なんでもいってくれ」
「なんでもですか!」
妙は想わず声をあげたが、まだまだ事件がもちこまれるのだと理解して、さあと青ざめた。旨い話には得てして、裏があるものだ。
最後のひとくちを惜しみつつ、口に放りこんでから、妙がひょいと腰をあげた。
「これっきりですってば! もう事件なんか、こりごりですから!」
「そうかな?」
階段を一段とばしに逃げていく妙の後ろ姿に眸を細めて、累神が笑った。
「あんたは逃げられないよ、……俺が逃がさないからな」
累神の遥か頭上で星がひと筋、流れた。運命が動きだす先触れのように。
人の禍福とは、縁によって転ずるものである。累神との縁が後に易 妙の禍福を糾うことになるのだが、今はまだ、星は満ちず。
ただ、累神だけが不敵に微笑んでいた。
これにて第一部完結です。
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二月初旬から第二部の連載を再開できるよう、現在、原稿を執筆いたしております。第二部では後宮に渦巻く陰謀にせまります。今後とも読者様に楽しい謎を御届けできるよう、努めて参ります。