表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
108/111

4‐22破星皇帝に御光あれ

いよいよクライマックスです。

ユンは三日三晩眠らずに馬を駈り続け、星の主要な港をまわって貨物船を検めさせた。雲の働きにより、密航を試みていた職人が捕縛された。職人は免罪と庇護を条件に、宮廷巫官の命令によって蛇の像を彫ったと供述した。これにより、累神(レイシェン)皇帝を貶めるために占星を偽った事実が明らかとなり、巫丞ふじょうの有罪が確実なものとなった。

 縄をかけられ、刑場に連れてこられた巫丞は項垂れ、魂が抜けたようになっていた。永遠の若さを持つと称えられた時からは想像もつかないほど老けこんでいる。刑場を取りかこむ観衆たちは異例の犯罪に動揺を禁じ得ず、ざわめいていた。


「まさか、宮廷巫官様が」


「占星が嘘だったなんて」


 巫丞ふじょうの眼は虚ろだったが、椅子に腰かけて処刑を静観する累神(レイシェン)の姿を映したとたん、燃え滾る怨嗟を帯びた。


「……最期さいごにひとつ、神託を聴かせてあげましょう」


 彼女は呪詛するように語りだす。


「神を疑い、神をあざむく皇帝よ。おまえが皇帝になったことで星のめぐりは破綻した。秩序を乱したほしは禍をもたらし、この地を滅びの運命へと進ませるだろう」


 悪あがきだ。だが、宮廷において連綿と信奉されてきた巫丞の言葉はこの期に及んでも民心を揺さぶり、呪縛する。

 処刑を観ていた民等がざわめきだす。


「やっぱり、宮廷巫官様を処刑するなんて神の怒りをかうんじゃ」


 おみたちも戸惑いを滲ませている。

 ただひとり、累神(レイシェン)だけがわずかもひるまなかった。彼は椅子から腰をあげ、飛輪たいようの如き眼を燃やす。


「構うものか。いかなる星のめぐりだろうと俺が打ち破る」


 巫丞ふじょうは眼をすがめ、嗤いだした。


「ふ、ふふふふ、傲慢ですこと。その傲慢さが禍をもたらすとなぜ解らぬのかしら」


「皇帝とは傲慢なものだ。いや、傲慢でしかるべきだ。それとも、現実になってもいない禍に慌てふためき、神に祈るだけの皇帝が欲しいのか?」


 わずかも退かぬ累神(レイシェン)の言葉に宮廷の臣たちが固唾をのむ。


「もっとも、俺ひとりでは無理だろう。だが、俺には有能な臣や民がいる。彼等とともに俺はほしを動かす」


 側近たる諸葛ショカツユンチャン玄嵐シェンランが跪き、皇帝への忠誠心を表す。

 続いて三公九卿さんこうきゅうけいが頭を垂れて揖礼した。なかには累神(レイシェン)を皇帝としてまだ認められないものもいるだろうが、この時ばかりは誰も異論を唱えなかった。

 宰相が皆を代表して声をあげる。


「累神皇帝陛下は言のみならず、実としてほしを動かされた。霊妙なるものは人を惹きつけ、動かすが、悲しむべくかな人は現実のなかにいる。神が何を語ろうと、ほしがいかに動こうと、現実ほどに強いものはない。我が皇帝は現実を動かす御方だ」


 誰もが五カ月の間に累神が実現した政策に畏服を表し、拝跪する。


累神(レイシェン)皇帝万歳」


「万歳」


 民等はまつりごとのことなど解らない。でも言われてみれば、確かに税がさがった、賃金があがった、食物の値が安くなった――なにより偉い人たちが跪いている。民は慌てて低頭する。


「それに、俺の占い師はそんな託宣は享けていない」


 頭をさげていた官職たちがふたつに割れて、緋の襦に緑の裙をまとった姑娘が進みでてきた。イーミャオだ。


「神の託宣が降りました」


 袖を拡げながら、妙は民に語る。


「今後(シン)にせまる禍は破星はせい皇帝により退けられ、民が進むさきには満天の福のほしが瞬くことでしょう」


 妙は累神(レイシェン)にむきなおると優雅に跪く。


「累神皇帝陛下に御光みひかりあれ」


 民が湧きたつ。どちらが偽りの占い師なのかは明らかだ。


 宮廷巫官の権威は、地に落ちた。嘘という蝋でかためた翼で舞いあがり、鉤爪をたててひきずり落とさんとした累神という星が実は日輪だったのだと理解して、巫丞は膝から崩れ落ちた。

 項垂れた首に処刑斧が落とされる。


 星の廻りだけで、政を動かす時代は終わった。

 妙は息をつき、星のない昼の青空を振り仰いだ。風に乗って、何処からか梅の香りが漂う。


 冬が、終わろうとしていた。

お読みいただき、ありがとうございました。

宮廷巫官との決着はつきました。

残すところあと2話となります。あとは累神と妙の恋のゆくえです。もうちょっとだけおつきあいいただければ幸甚です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング
ぽちっと投票していただければ励みになります!
ツギクルバナー
ぽちっと「クル」で応援していただければ嬉しいです
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ