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4‐20皇帝からの告白

ついに累神が妙に告白を……!?


皆様の応援のおかげで週間ランキング 文芸〔推理〕3位になりました!!

ほんとうにありがとうございます!

 ふたりはその後も祭り見物を続けた。

 ミャオは先々で焼きそばなるものを食べたりタピオカという飲み物を飲んだりしていたが、一緒に元宵ユェンシャオまで食べた累神(レイシェン)はさすがにこれいじょうは無理だと笑って、妙が旨そうに食事する姿を眺めていた。

 どれくらい歩きまわったのか、段々と日が暮れてきた。

 黄昏になっても人は減るどころか、ますますに賑わってきている。それもそのはず、元宵祭げんしょうさいは月の昇る夜からが本番なのだ。もっとも累神(レイシェン)ミャオはさすがにもうちょっとしたら帰らなければならない。


ミャオ、ちょっとだけ、ここで待っていてくれないか」


「え、どうかしましたか」


 橋を渡りかけたところで、累神(レイシェン)がそう頼んできた。妙は途端に心細くなる。母親も父親もそういったきり、妙を捨てて帰ってはこなかった。


「約束する、ちゃんと迎えにくるから」


「……わかりました」


 だが、累神は約束を破らない。


 ぜったいに迎えにきてくれるはずだと信じて、妙はつないでいた手を離した。

 累神は赤い外掛の袖をはためかせて、人の群れに紛れていく。


 夕焼けはせ、群青のとばりが降りる。

 通りすぎる人たちはそろって、星の提燈ちょうちんを手に提げていた。慌てんぼうな神サマが星をつめた箱を落としてばらまいてしまったような賑やかな祭りの風景を眺めているとなぜだか、せつなさがこみあげてきた。


「あれ……」


 不意にすれ違った夫婦を振りかえる。

 妙はあのふたり連れを知っている。知らないはずが、なかった。頭には白髪がまざり、最後に逢った時より老いているが、あれは紛れもなく。


「……母さん、父さん……!」


 妙は咄嗟に身を乗りだす。ふたりともこちらを振りかえらずに遠ざかっていくが、今追い掛けたらきっと呼びとめることができる。


 だが、累神(レイシェン)と約束した。ここで待っていると。


 こんな祭りのなかで、離ればなれになったら、たぶんもう累神に逢うことはできない。後宮にも帰れるかどうか。


(後宮に帰る、か。変なの)


 思いかえせば、拉致されて無理やりに後宮へと放りこまれただけで、ミャオのいるべきところはもとから都のほうだ。


(でも、いつからか、累神様がいるところが私の帰るところになった。迎えに来てくれると約束してくれたひとをおいていけるはずがない。私だって、累神様においていかれたくない――)


 妙は唇をひき結んで、未練を振りきる。


(さようなら)


 両親の背は人の海にのまれて、あとかたもなくなった。


「妙、待たせたな。……妙? どうかしたのか」


 後ろから声を掛けられ、妙は弾けるような笑みで振りかえる。累神(レイシェン)がいた。約束どおりに迎えにきてくれたのだ。


「なんでもありません、おかえりなさい、累神様」


 屈託のない妙の笑顔に累神は不意をつかれたのか、頬を紅潮させる。やや照れたように微笑んでから、累神は箱を差しだしてきた。


「これを、あんたに」


 黄金おうごん猫眼石ねこめいしのついたかんざしだ。星のような飾りが施されていて、可愛らしく、それでいて高級感がある。


「こ、こんなの、いただけません」


「もらってくれ」


「で、でもまえにもいただいていますから」


「そうだな。でも、あの時はちゃんと伝えられていなかった」


 累神(レイシェン)が真剣な眼差しになった。彼はただでも端麗な顔をしている。慣れたつもりでもこうも見つめられると意識してしまう。


「な、な、なんでしょう」


 累神がひとつ、呼吸を経て、唇をほどく。


「――――俺は」




 続く言葉は突如としてあがった盛大な爆発音に掻きけされた。


 宵空よいぞらにあざやかな火の花が咲き誇る。

 轟音ごうおんに何事かと慌てていた民がいっきに歓声をあげ、湧きたつ。昨年までは紙でつくられた天燈てんとうを放っていたが、今期は星の技術を観光客に知らしめるため、占星師の旻旻ミンミンという男が新たな発明を披露するという噂があった。これがそれか。


「わああ、すごいですね、累神様」


 意を決して言葉にするつもりが機を逸してしまった累神は苦笑する。


「花火だよ」


「すっごい、こんなのあるんですね、奇芸みたい」


 赤や青、緑の花火が続々と打ちあがり、中天なかぞらを飾りつけた。星の滝みたいに光が落ちてはまた帳を破って光が弾ける。累神は花火に夢中になっている妙を後ろから抱き寄せ、髪にかんざしを挿した。


「あ、ありがとうございます。ほんとうにいただいてもいいんでしょうか」


「ああ、もらってくれると嬉しい」


「こんなにすてきなもの、身につけられるなんて嘘みたいで……感激です。それで、ええっと、さっきはなにを言いかけていたんですか?」


「……なんでもないよ」


 累神(レイシェン)はくすりと笑いをこぼした。

 花火を観ようと民がいっせいに橋へと集まってくる。背の低い妙は人に揉まれてあらぬほうに押し流されそうになった。


「っと、ほら、はぐれないようにな」


 累神がまた、手をつないでくれた。妙は彼の手を強く握り締める。離れないように離さないように。


「…………わたしね、幸せだよ。母さん、父さん」


 再びに逢うことはないだろうけど「あなたたちの娘は幸せですよ」とだけは伝えておきたかったような。妙はそんな心地で、祭りのなかで今まさに空を仰いでいるであろう両親に想いを馳せた。

お読みいただきまして、ありがとうございました。

残念な結果でしたが累神はまだまだ諦めませんので、引き続きお読みいただければ幸いでございます。穏やかな時間は終わり、ここからまたひとつ事件がおきます。

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