僕は何もしてませんよ?
体調に気をつけてください。
出迎えられた少女、秋音は部屋へ恐る恐る上がる。
「お邪魔します〜」
大丈夫。
陸成が居る。
そう思って、友人の部屋へと向かう途中。
寒気がした。
陸成の部屋のような、ひんやりと、そしてどんよりとした影。
確か、そこはリビングだったはず。
駆け上がるように急ぎ足で階段を上る。
「何焦ってんの〜?」
「う、うぅん!なんか楽しみだったから!」
「へぇ〜」
「しゅーちゃん大丈夫かなぁ」
友人の心配な声に ゴキリとした 音で答える。
ひん曲がった首 異様な光景 異常な容姿。
「ダ ダイジョウ ブダヨ」
「そうだといいなー」
2人の顔は それぞれ違う笑みを浮かべた。
「男の人がいるって聞いたけど………」
「あぁ、陽ちゃん?リビングに居るよ?」
その瞬間、固まる。
自分だって知らない訳じゃない。
この世界には怪異が居て、人を脅かすこと。
知っている。
自分だって身をもって体感してるじゃないか。
「大丈夫?しゅーちゃん」
「大丈夫、大丈夫」
「……………今日はもう解散しよっか!陽ちゃんに頼んで送ってってあげるよ!」
「知り合いにむかえにきてもらえるからいいよ〜」
「あ、マジ?じゃあ、陽ちゃ〜〜〜ん」
「え!?話聞いてた!?」
急いで支度をして帰る準備をする。
陸成に、「いやなよかんがする」と送って。
扉が勢いよく開かれた。
「…………」
《ビーッ!》
警告のような通知音にビクッとする。
「秋音さんからだ」
スマートフォンを解錠して内容を見る。
「マジか…………」
そう思って、車を降りてしばらく歩いた後に彼女の友人宅の前へと立った。
扉が空いたところで、インターホンが鳴る。
「私出てくるね〜」「うわっ!」
何かが来る。
おぞましいものが。
陽ちゃんと呼ばれた男はおぞましい姿をしていた。
「ネ、ネェ、オクッテッテ、ア、アゲルヨ」
肩を掴まれる。
人の家で暴れるわけにはいかない。
抵抗しようにも力が入らない。
その刹那、黒い靄が陽を包む。
「グギィ………グギギ……………」
黒い靄は首を絞めるように、陽を締め上げている。
一瞬、蜃気楼のように陸成の姿が見えた。
「ナリ………くん………?」
「ちょっと、気持ち悪いのが家に………」「って、
陽ちゃん!?」
混沌だ。
秋音は見ていることしか出来ない。
「■■■■■」
低く呟くようなノイズ音。
その瞬間、陽が人の形を失う。
ゴチャ………グチャ………と音を立てて。
そしてまた、構築されていく。
「あ、アレ?」
「どしたの2人とも」
秋音も友人には訳が分からなかった。
話し方も、見た目も全然違う。
少しとがったようなルックスをした大男が佇んでいる。
先程までの寒気を感じず、何事も無かったかのように黒い靄は消え去っていた。
陽という男に住み着いていたソレを喰らい、「不味」と言いながらも飲み込んだ陸成は何事もないように、
「秋音さ〜ん、迎えに来ましたよ〜」
と声を張る。
少し掠れていたが、聞こえていたようでいつもの様に急ぎ足で降りてくる。
だが、足がもつれて飛ぶように転んだ。
陸成は咄嗟に靴を解き、抱きかかえるように受け止める。
「大丈夫、ですか?」
「う、うん………」
ビックリした。ドキドキした。
何これ。何これっ!
そんな感情が渦巻く。
「大丈夫しゅーちゃん!?」
友人と陽も心配そうに見ている。
陸成はゆったりと彼女たちを見つめて、
「無事ですよ。少し、足をくじいてしまったようですが」
「そっか〜」
「そういえば、何かありましたか?秋音さんからSOSが来てたので気になって来てみたのですが」
「あ、あぁ、大丈夫大丈夫ですっ!」
友人は慌てふためいてカバーする。
「そうですか」
それなら良かった、とその不気味なまでに落ち着いた表情で彼は答えたのであった。
陸成怪しすぎ